第13話 見て回ろう
正直、どんなケッタイな格好させられるのかと思ってた頃もありました。
「はい、クルッと回ってみて」
「おお!」
着替えるたびに、色々な、マトモな! マトモな! 服が!
しかもサイズぴったり!
オマケに似合う!
元の自分だったら正直若向けすぎて着れませんでしたが!
今なら恥ずかしくない!
もう何も怖くない!
「はい、どうだったかしらぁ?」
「全部ください」
「毎度ありぃ!」
お値段も、こないだ貰った報奨金で収まり、私の財布に入ってる金貨を使わずに済んだ程度。
こういう世界観的に、新品の服って高くないの? 普通。
「むかーしむかしはそうだったのよぉ?大英雄タリョー様がそのあたり凄く頑張ったそうでねぇ」
「あ、なんとなくわかりました」
やはりか!
すげえな鈴木さん!
荷物になるからと、買った服はお屋敷に送ってくれるそうである。
楽ちん。
「さて、主目的は完遂したから、っと。次行ってみよう」
「はい、布地をご覧になられますか? それとも……」
「うーん、ちょっと小腹がすいたかな。サヴールさんにもらったご飯じゃ少なかったから」
サヴールさんがくれたのはちょっと腹の虫押さえ的な量のクレープじみたものだけだったので、早々に空腹感が湧いてきていたのだ。
「どこか気軽に食べられる所あるかしらん? 屋台的なのとか」
「屋台、ですか……それでしたら店が途切れた辺りの広場でいくつか並んでますが……」
「よし、そこ行ってみよっか。食べるかどうかは別にして」
「わかりました、ご案内します」
店を出てからそう言って歩きだす。
正直な所、普通のお食事と言うか、一般の人達がなに食べてるのか興味があるのだ。
二人して再び声をかけられつつテコテコと歩いていくと、建物が途切れて真ん中に噴水のある広場が広がった。
そこかしこに屋台というか、出店というか、そんなのが林立していた。
「いくつか、ってどころじゃないやん」
「今日は少々多めですね。いつもはもう少し……ああ、休息日前日なので多いのでしょう」
「休息日とな」
よーするに明日は日曜日で今日は休日前なので賑わっていると。
なるほど、そろそろ夕方に近づいてきていて、いわゆるウィークエンド的なノリなわけか。
「明日はおそらくもっと店が増えるかと思われますが、どうなさいます?」
「うーん」
休息日だから、家事とかもお休みでこう言ったところで食事を、という感覚なのか。
休息日なのにお仕事してる屋台とか出店の人らはどういう感じなのやら。
んなことを考えていると、メアリーが解説してくれた。知っているのか雷電。
「こう言った屋台を営んでいる方は、異教徒か無宗教の方々が多いですね。勿論休息日だからといって休まない方も多いのですが」
「なるほど宗教的な休息日か……でも働く人は居ると」
「はい、そういった方は休息日をずらして別の日になさってます。私達の神は結構融通がききますので」
そう言ってニコリと笑うメアリー……。
うっわ、笑顔だと破壊力抜群だな!
クール系が笑うとやはり来るものが有るわー。
しかし、融通きく神様とかアリなんだ……日本人的には好ましいけれど。
いや、王権が利用したら怖いなとか思うけどさ。
「とりあえず、何か見繕おっか。メアリーも何か食べたいものあったら言ってみ。奢っちゃるで」
「え、そんな訳には……」
「いーからいーから」
そんな遠慮するメアリーの手を引き、私は異世界屋台村に突撃したのである。
見たところ、焼き物が多い。
肉の串焼きは当然あったし、とうもろこしのようでいて、なんかすっごい原色の実が怖い奴の焼いたのとかとか。
肉まんっぽい蒸し物もあった。中身が見えるように分厚い蒸した生地で挟む系の奴だったけど。
そして、私の目を引いたのは。
「あれ、うどん?」
「はい? ああ、オゥドォンですね。タリョースズゥキィが編み出した麺という食べ物の一形態です」
「ココでも鈴木さんが頑張ってはる! すごいよたろーさん!」
とりあえずこちらのうどんが気になったので一つ……じゃなく二つ頼むことにした。
メアリーもいるそうだ。
「すいませーん! 二つおなしゃす!」
「あいよー、大・中・小とあるけどどうする?」
「私は小のヒヤアツをお願い致します」
「まさかのうどん県流儀!?」
メアリーが私よりも先にサクッと注文かけてました。
すっごい慣れた感じで。
知らない人が居るかもしれないので言っておこう。
うどん県では、うどんとだしをそれぞれ温かいものと冷たいものを選ぶことが出来るのである!
私の知るところではヒヤアツが冷うどんに温出汁、という注文形式だったが他は違うかも知れぬい。
「じゃあ私は――ヒヤヒヤの中で!」
「あいよっ、ちょっと待ってな!」
そう威勢よく返事をして、うどんを湯がき始める店主。
どう見ても、普通の人にしか見えないのだけれど……私のカンになんか引っかかる。
じっと見つめる。
耳についている、ピアスから、魔道具の気配が濃く感じる。凄く濃い。
「はいよ、小のヒヤアツお待ち! ってんどうした嬢ちゃん」
「いえ、そのピアスがちょっと気になってですね」
メアリーがうどんを受け取るのを横目に見ながら、店主の顔をじっと見つめていた。
するとやはり気に障ったのかして、こちらに気づいたので単刀直入に聞いてみた。
「……嬢ちゃん、うどん代はまけといてやる。食ったらそこの路地裏に来てくれ」
私の分のうどんを手渡した後に店主はそう言うと、屋台をバタバタと閉め、ゴロゴロと引いて去っていった。
「メアリー? 危なそう?」
「そうですね、お薦めはできませんが……彼はここでも人気のオゥドォンを出す屋台の主としてけっこう有名ですから、大丈夫だと思いますよ」
「わかった、ちょっと行ってくる」
ちゅるりとうどんを啜り、汁を飲みきった私は、同じく空にしたメアリーとともに、路地裏に向かったのである。
器返さなきゃだしな!
★
親子関係が拗れたのか……。
異世界に来ちゃった日本人としては、こっちの世界で生まれ育った家人との価値観の乖離は確かにあるんだろうなぁ、などと頷いてしまう。
「まあ、でも仕方ないよね……子供にだって子供の都合ってもんが有るわけでさ」
「いやまあ確かにそうだけど……」
手渡されたカバンから、彼が使っていたという剣を取り出してみる。
すんなりとカバンから、カバンの大きさよりも遥かに長い剣が引っ張り出せた。
……ああ、こりゃ確かに見栄えは悪い。
宝剣と言うには、あまりにも無骨すぎる。
それは剣というにはあまりにも大きすぎた。
大きく、分厚く、重く……はないな、むしろ軽い。
「まんま
「あ、知ってるんだ! そう、そうなんだよ! それ、昔コスプレしようとして作ったんだよ、発泡スチロールで!」
「……めっちゃ金属っぽいんですけども」
拳でコンコンと叩いてみた。
発泡スチロール製ならコンコンなんて音しねえ。
「そーなんだ、こっちに来た時そうなっちゃってさ……僕は軽く持てたんだけど、他の誰も持てなくって」
「そりゃ持てねえだろ……」
漫画の世界だからこそだろ。
いや、ココがファンタジーな世界なら、持てる奴も出てきそうだけれど。
「あー、思い出すよ、昔を。こっちでの暮らしに不満はなかったし、嫁も子供もいっぱい出来たからね。ただ、向こうでの心残りはあれの最終回を見れなかったことかなぁ。あとアニメも」
「安心しろ、まだ終わってねえし、再アニメ化も劇場化もしたよ」
「マジで!? 今何巻? 僕、傭兵団が壊滅した
一番ノリノリの時期じゃね? それって……。
つか、終わるのかあれ。
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