第12話 服を買いに行こう
さて、衣食住のウチ、優先される「住」と「食」とは期待以上に確保できた上に、「食」に関しては更に上乗せが期待できるようにしたぞ! やったね私! 美味しいご飯が増えるよ!
「衣」? 別に誰に見せるもんでもないから、着れりゃなんでもいいし、適当な布があれば自分で縫いますけど。
でも実際、そろそろ着替えが欲しいのは確か。
着てた服に細工して、常時「清潔」になるように魔道具化してみたから洗う必要はなくなったけどな。
アズール女史が服くれるっつったけど、彼女の服はウエストとかウエストとかウエストとか合わないから貰っても着れないし。
あ、そうだミシン作ろう。
と言うかこの世界の布ってどんなのが一般的なんだろ。
アズール女史の服は絹っぽいけど、実際絹なのかもよくわかんないしなぁ。
男連中の服は麻とか綿とかっぽいんだけど。
「……お方様のお召し物は、アラーニェが紡ぐ糸で織られた品ですね」
「へーそうなんだ……ってアラーニェってなんぞ?」
そういやメアリー私の部屋に居たんだっけね、忘れてた……と言うか絶対この子隠密系の能力持ってるな。
私が図太くて彼女の視線を無視できるようになったとは思いたくない。
それはともかく、アラーニェってのはでっかい蜘蛛の半妖と呼ばれる人種、らしい。
……ああ、アラクネーか。
人間の上半身が蜘蛛の頭部部分にくっついてる奴。
なるほど、蜘蛛の糸は自然界有数の強度とか聞いた事があるな。
それは確かに良い素材っぽい。
「で、それって手に入る?」
「入らない事はないと思いますが、かなりの高級品ですから……」
お高いのね。
この世界においては、古代欧州での絹的な位置にあるのか。
うん、知ってた。いいとこの御嬢様の衣服の素材がそんじょそこらで手に入るもんじゃない事くらい。
まあ普通の布地、綿でも羊毛でもなんでもいいけれど、欲しい。
いや、先ずは普通に売ってるのを買うところから始めようか。
この世界の普通の服をまず見てから、アカンと思ったら作り始めようそうしよう――。
「アカン」
「何か気に入らない点でもございましたか?」
異世界三日目、徹夜明けのハイテンションで買い物に行こうとしたが止められたので、あれから一眠りして遅い昼時に目が覚めたので腹ごしらえをしてから出かけたのだが。
なお、食事を貰いに行った厨房ではサヴール料理長が「こんな時間に? 自由人だわねぇ」と笑いながら軽食を作ってくれた。ありがたや。
で、街に出てお買い物をと行動開始したのだが、メアリーが付き添いで付いてきてくれているのである。
まあ道に迷ったり何なりしそうなのでこちらもありがたいっちゃあありがたい。
のだが。
「ひっきりなしにナンパされるとは思っても見なかった」
「それは……よくあることなので仕方ございません。私もいつも苦慮しております」
布地を買い求めにいく、出来れば色々とお買い物とか街見物してみたいななんて思ってた頃もありました。
しかし、屋敷から馬車で繁華街――といっても田舎の商店街程度の規模しか無いが――に出て、馬車を降りたら、アチコチから視線が降り注いだ、と思ったら。
「やあメアリー、今日は何のご用事だい? うちの店に用はあるかな?」
「メアリーちゃん、いつ見てもキレイだねぇ。時間があるならそこの店でお茶でもどうだい?」
「おっと、メアリーと一緒にいるのはこの間の英雄さんだね? 名前を伺ってもいいかな?」
等々。
店にたどり着くまで、ずっとこの調子である。
なお声をかけられた割合は8:2でメアリーの勝利。
いや別に声かけられ選手権してるわけじゃなくてだな。
「いや、正直あー言うの慣れとらんので気疲れしたというか」
「このあたりの男性方は、挨拶代わりにお茶にお誘いくださいますから。本気にしてはいけませんよ、あちらはそう言うと常に本気だと言いはりますが」
「なんというラテン系……ココは長靴国的な国だったのか……」
「長靴?」
「いや、こっちの話」
そんな感じで肩を落としたまま、メアリーに連れられて店の中へと入ったのだった。
「あらいらっしゃいメアリーちゃん、今日はどんなご用事かしら?」
野太い声の、マッチョなオネエがそこに居た。
この街の職人はオネエばっかりなのか!?
呆然としていると、目の前のアゴ髭マッチョオネエ、身体にフィットしたマーメイドスタイルのドレスを着たおっさんが、くねりくねりと腰を捻って迫ってきていた。
「あっら、こちらのお嬢さんもス・テ・キ。異国の方かしら? うーん、オリエンタルな感じ」
「こちらはヨーコ・ウティダ様です。当家の客人として滞在していただいております」
「あらー、それは大変ね。それで、うちにはどんなご用件でいらしたの?」
迫るマッチョとかコワイ。
でもまあ見た目あれなだけで害はないのだからと引きつる頬をなだめすかして礼をとった。
「初めまして、ヨーコ・ウティダです。よろしくお願いします」
「ええ、ええ、どんどんよろしくしちゃうわ! もういっくらでも! それで? うちにどんな御用!?」
常時テンションマックスかこのおっさん。
こういうおっさんは苦手であるが、まあ今この一時のものだから頑張れ私。
「えーと、ですね。普段着れる適当な服がほしいのですが――」
「んー……了解、素敵な服を見繕ってあげちゃう! ちょっと待っててね!」
私を上から下まで舐め回すようにしてから、彼……彼女? は、店の奥に引っ込んで、暫く出てこなかった。
「……あのさ、メアリー」
「はい、何でしょう」
「衣料品のお店ここしか無いの?」
「他にもございますが、ココがこの街で一番のお店でございますので……。お方様のお召し物もこちらにお願いしておりますし」
……あるんじゃん、他の店!
って言うか腕は良いのか、見た目によらず。
そう思いながら店内を見回すと、マネキンのような木組みの人型に着せられている服や壁にハンガーで吊るされている品々が目に入る。
デザインは奇抜なものもあれば、そうでないものもあり、しかも私の目から見ても縫い方などの縫製に関しては文句のつけられない品々であった。
「たしかに腕は良さそうね」
「はい、この私が今着ている服もこちらで仕立てていただいたものです」
そう言われて改めてメアリーの姿を見つめ直す。
しっかりした仕立ての、立派な外出着である。
なお、メイド服ではない。
メイド服のメイドさんは居るにはいるがいわゆる下っ端のようで、屋敷内でちょこちょこと動き回っていたのは目についたが、直接私やアズール女史辺りと接する女性はメイド服を着ていなかった。
どうも屋敷で雇われている人にもランクがあるようだ。
で、メアリーであるが。
屋敷でもメイド服ではない。
屋敷でも外出時でも四六時中メイド服を着ているのはジャパニーズ二次元世界関連及びエロス界隈のみのスタンダードのようである。
が、メイド服がどう見ても現代日本で流通してそうな奴もあるのが異世界文化流入の可能性大ですごく嫌やだわ、ふう。眼福眼福。
それはさておき。
アズール女史は桁外れと考えて、まあ例外と捉えるとして。
このメアリーも大概美形である。そら街中歩けば声もかけられまくるわ。
ラテンノリの住人だったら当然といや当然だわ。
私もこの世界に来て鏡見た時には我ながら「誰これ」と思ったレベルで可愛いのだけれど。
いかんせん身長が足りない。
ちゃんと測ってないが、たぶん今の身長は一六〇センチあるなし程度だろう。
メアリーの肩くらいに目線があるので、彼女は一七〇ほどか。
めっちゃスタイルいいんだよな、コルセットしてるわけでもないのに。
というか、こないだ風呂で洗われまくった時、他のメイドさん達みんな腹筋薄っすらと割れてた。
きっと、レベル上げ的な何かをしてるんだな。多分。
話がそれた。ともかく、メアリーの着ている服がこのお店謹製だというのなら、期待はして損したということはなかろう、などと一人納得していると。
奴が戻ってきたのである。
「はーい、お・ま・た・せ。うふん、さあこっちに来てちょうだい、お着替えの時間よぉ」
「……え、何その大量な――」
拒絶する間もなく、私はマッチョオネエに担ぎ上げられ店の奥にあるというお着替えルームに連れ込まれたのである。
☆
骨が喋る。
まあいいだろう。こちとらサブカル大国ジャッパーンで長年オタク生活を営んできたのだ。
それくらいで驚いたりはするかもしれんがそこはちと勘弁してくれ。
薄暗い場所で骨を間近に、それも動いてるの見たら正直ビビらない人間など居るのだろうか。
それがやけにフレンドリーであってもだ。
『何難しい顔してるかな。悩み事でもあるの?』
あるよ、現在進行形ででかいのが!
目の前の骨、生前は鈴木太郎という名前だったそうだが。
彼いわく、ココは異世界だそうだ。
しかも、剣と魔法の世界だという。
今更言われても「はいそうみたいですね」としか返せない。
ただまあ、はっきりとした事を聞かされたのは助かるのは事実。
この世界には特に名前とかはない、というのも聞かされた。
『だって元の僕らの世界だって、地球とか言ってもあれ惑星の名前じゃない? 《あの世界》に名前なんかなかったよね?』
そう言われてみれば納得、という感じであった。
で、今のココ、彼自身のお墓の場所のことを聞いたのだが、どうやら彼がこの世界に来た時の出現位置らしい。
『死ぬ時に、ちょっとでもいいから元の世界に近い所が良いなって思ってさ。ココに埋葬してほしいってお願いしたんだ』
「よくその場所を覚えてましたねぇ」
『いやぁ、ここは僕がはじめてこの世界に来たときに驚いて泣きわめいてさ、初めて魔法使った跡地なんだ。詠唱魔法と精霊魔法が暴走してね、山が出来上がったり森が急成長したりしてね。魔力溜まりまで出来ちゃって、この周辺は当時大混乱になっちゃってねぇ』
そうサラッと言い放った。
おれが泥にまみれて歩き回って転がったあの森は、彼の仕業だったらしい。
そんな事をしでかしておいて、よくまあ墓を荒らされずにいられたもんである。
普段ココにいないと言うのは、どうやらこの森を見回っているらしく、日が昇る前に帰ってきて棺で眠るのだとか。
なんだよアンデッド生活満喫してるじゃないかこの人。
『あ、そうだ。僕の使ってた装備とか、君なら使えると思うんだけど持ってく? こっちで出来た家族とかには使えなかったから墓に一緒に入れて貰ったんだよね』
そう言って墓から取り出した剣や盾、それに甲冑やら兜、それらがなんでも入る魔法のカバンに詰められて、副葬品として収められていたのだ。
「……こういうのって」
『使えそうかい? カバンくらいはなんとかなると思うんだけど』
「いえ、使えると言うか、これって言ってみりゃ鈴木さんの遺品ですよね? 形見分けとかされなかったんですか? 使えるとか関係ないでしょそういった場合」
そう、ちょっとした疑問を彼に向けたのだが。
『……死ぬちょっと前に、息子に代替わりしたんだけどさ。家の象徴にするのにはイマイチ見栄えがとか言い出してさ。じゃあもうこれ全部持って墓に入る、ってちょっと意固地になっちゃって』
「はあ……」
『ぱっと見だけは凄い剣とかの一揃いだけ渡して、この近くに隠居したんだ。結局家族とはそれっきりさ』
明るい口調とは裏腹に、やけにしんみりした空気が流れた中で、俺はどう返したら良いのか言葉を決められなかった。
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