第9話 出来たものを見せてみた
という訳で、できましたー!
ふと窓の外に視線をやると、おおう、外がもう明るくなりだしとる……が、私頑張った。
検証ついでにと手慰みに作ったアイテム4つを始め、その次に作ったベール。
それに合わせてきれいに磨き上げたシルバーっぽく見えるアルミ製のチェーンと半貴石のビーズとの組み合わせで作ったサークレット。
素肌の肩から胸元にかけてをカバーするショルダーネックレスもそれと同デザインででっち上げた。
あとは残りのアルミチェーンで腰に巻くボディーチェーン的な何かと、ビーズを通すピンを組んで輪っかにしてブレスレットにアンクレットも作った。
私の魔法増幅アクセと同じ勢いで作ったからね! こうかはばつぐんだ! と思う。
トータルイメージ的にはアラビアンナイトの踊り子の格好から服だけ取り除いた感じ。
そして、次のがある意味本命である、今のベール他の一式と対になる魔道具。
付与の確実性を向上させるために、いつもなら指輪でお茶を濁すところを腕輪にした。
裏表に文字を打刻して、付与効果の固定を確定させる『意味』を持たせるためだ。
いつもなら、とりあえずこういう名前でこれこれこういう能力があって、と言う詳細を印字したタグをちまちまくくりつけて行くだけの能力の説明だが、それを直に刻むのだ。
作っている最中の私の脳内妄想が付与に係るというのなら、これで更にその能力は向上するはずではないか。
まあ、そもそも持ってきてないしなー、タグ。
アレ作るの面倒かったんだけどなー、古めかしさを出すために紙を紅茶で煮込んで色つけたり。
まあこっちの世界なら普通に羊皮紙とか流通してるかもだし、その辺はまた考えよう。
という訳で、シンプルなデザインだった腕輪だったが今では裏表に細々とした模様と文字が彫り込まれている。
日本語はちょっと雰囲気が台無しになるしタガネとハンマーで字を切るのって、何度か他ので練習してからにしたい。『偸盗の耳飾り』で上昇した
って事で、持ち歩いてたアルファベットの刻印で単語をコツコツと打ち込んで仕上げた。
ちゃんとサンドペーパーもかけてバリも取ったし、表面にもそれっぽい模様刻んで凹みに染料流し込んだり極小の石貼っ付けたりして雰囲気出しもしたし。
「ね、簡単でしょ!」
「どこがだ」
「……ウチの血族の長老でも無理じゃないかしら、こんなの作るのなんて」
異世界二日目の朝、眠い目をこすりながら席についた朝食の場で、出来上がったアイテム類をアズール女史と深夜遅くに帰宅したと言うデービッド氏に披露したのだが難しい顔をされてしまった。
何が悪かったというんだろう(棒読み)。
「で、こいつはどういう魔道具なんだ?」
「そうね、見たところとんでもない代物だと言うのは理解できるけれど」
おや、見ただけでは魔道具だと言う事しかわかりませんか……。
わかりませんか……。
こうなんていうか、ぱっと見たときに 「あー、こういう感じのものなんだ」というのがわからないのかしら。
お二人ともいわゆるレベル高そうなんだし、わかりそうなもんだけど。
例えば、某鑑定番組何かに出てくる目利きの人みたいに、出品された品をひと目見てどこどこの産地の◯◯だろう、位は掴めるもんだと思っていた。
うちの相方は、「俺らヲタクは適当なキャラ絵を一コマ見れば、執筆者がわかるだろ?それと似たよーなもんじゃね?」と言っていたが、それはどうなのだろうと思う。
確かに一般人の人が判別できるかと言えば、かなり難しいだろう。
でもヲタクならできちゃう、んじゃないかな? 自分の得意分野なら特に。
まあ某怪獣王の造形を初代から最新作までそれぞれ判別できる知り合いとか、アニメの作画監督違いを判別するのとかザラにいたしね!
でも某漫画家のヒロイン判別は不可能だったよ彼らも。
まあソレはソレとして。
呆れながらも興味津々といった視線を向けてきてくださるお二人に、一品一品説明を行うことにする。
「こちらのベールはですね、魅力値アップの効果があります。見ての通り女性向けです」
薄い布に輝く石を散りばめたベールである。
むろん、これだけではない。
「そしてこちらと合わせることで魅了の効果を発揮します」
サークレットを一緒に押し出すと、二人の目の色が変わった。
剣呑な方向に、である。
「あ、説明は最後まで聞いてくださいね? 別に悪用するのが目的で作ったわけじゃないので」
「む、わかった。だが、魅了か……」
「下手な所に流れると危険ね……」
為政者としての立場もあるのだろう、二人の思考はよく分かる。
だがしかし。そんなもののために作ったのではないのだ。
「そしてこちらの、これとこれ」
そう言ってじゃらりと持ち上げたのはショルダーネックレスとボディーチェーン。
見た目が派手な石をこれでもかと付けて、大ぶりのやつを真ん中におごってやった。
青い大粒の石が一見カラータイマーのようなだがキニスンナ。
「相手の打ち出す物を一身に受け止める、攻撃集中の効果があります」
但し、防御力はない。
「……戦闘向けには思えなかったが」
「これが何の役に立つのかしら」
ふふふ、まあ続きを聞け。
「そしてこちらのブレスレットとアンクレット。こちらは4つ一組で初めて効果を発揮します」
「ほう、どんな効果だ?」
「発情です」
ばふう! とアズール女史が口にしていたお茶を吹き出した。
どうやらこれらの意味がわかったようだな!
「ふむ? 相手を発情させる、のか……?」
「いえ、装着者を、です」
「げっほげっほ」
「おい大丈夫かお前」
アズール女史、すっごいむせてる。
涙目になってこっち見てるが知らん。
さて続けよう。
「そして、これらをワンセットとしまして、女性が身につけることで更に効果が付与されます」
「各アイテム単体だけじゃないのか、そりゃまた聞いたこともない代物だな。それで? どんな効果があるんだ?」
「着床率上昇」
そう告げると、目の前の二人がピタリと身動きを止めた。
しばらくすると、デービッド氏がわなわなと動きはじめて口開こうとしたが、手を上げてソレを押しとどめた。
「最後まで聞いてくださいと始めに申し上げました。はい、あと一つございますね、これですが」
残る一つ。
その細かな文字と意匠を刻み込んだバングルを持ち上げ、見せつけるようにしながら、言った。
「命中率上昇と、
そう告げると、ふたりともがグビリと喉を鳴らした。
そう、そうなのだ。
私はこの二人向けの、かんっぜんにこの二人に特化したアイテムを作ってみたのである。
子作りは貴族にとっちゃ命の次に――いや、下手すりゃそれ以上に大事なんじゃないかなと考えたためだ。
昨日今日あったばっかりの相手にそこまでするのか、と思うだろうがそこはソレ、こちらにも思惑はある。
向こうがこちらの保証人になってくれるといい出した時点で、私はお世話になる気満々だった。
こんな世界で一人きりとか無理っす。
まあ実際のところ、一人でもやっていける程度の能力はありそうだけれど、権力者が後ろ盾とかすっごい美味しいやん?
王様のもとでアレコレやらされるのなんて! とか言って逃げる系の主人公の気持ちもわからんでもない。
だあがしかし、人の世は全て等価交換なのだと思いねえ。
「こちらの装身具を身に着けた相手に対しては、更に「特攻」が発動します」
勿体つけてそう言いながら、並べてあるベールを手に取る。
片手にベール、片手にバングルを持ち、二人を交互に見つめ、告げた。
「相乗効果で、『防御力無視』が乗ります」
「幾らだ、買おう」
「デービッドっ!」
「毎度ありっ」
即売れた。
☆
光を放つ嫁謹製の剣。
それは出来たばかりのテストで光量を最大にした時とは比較にならない爆発的な光の洪水だった。
その光が収まった時、そこには何もかもが無くなっていた。
正確に言えば、あの奇怪な男が着ていたと思われる装備品の残滓と思われる物や、幾つものアイテムが入ったバッグが転がってはいた。
「一体何なんだ……今の……」
危機が去った、と言っていいのだろうか。
このくらい闇夜の中で、いきなりあんな光の爆発があったにも関わらず、俺の視界は明瞭である。
……視界が明瞭? こんなに暗いのに?
すでに剣は光を発していない。
にも関わらず、周囲が過不足無く見える。
俺は眼鏡を取ってレンズを拭こうとして、そこにいつもあるはずの眼鏡がないことにいまさら気がついた。
「なんでやねん」
こう言ってはあれだが、俺は視力が悪い。
鳥目ではないが、夜にこんなにくっきりと見えるはずもない。
謎だ。そう思いながら、拾い上げたあの怪しい男の落とし物を手に、小さな祠へと近づいた。
「……鈴木太郎ここに眠る? 日本人の墓か? これ」
少々萎れた花束が供えられたその祠には、たくさん刻まれたよくわからない文字とは別に、真ん中にどんと、そう書かれていたのだ。
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