第8話 こんなんできました

 カバンから取り出しておいたアイテム製作用の素材を机の上にずらりと並べなおしてみる。

 ガラスやレジン、アクリルは言うに及ばず、物によっては天然の石である瑪瑙や蛍石のような半貴石もあるし、大理石を削り出したものや貝殻をくり抜いた物もある。

 ただの、ごく普通の、いうなればおもちゃに使う飾りだった物なのだ。

 しかしそれが、今ここに並べられている品々は。


「さて、私が加工したら、どうなるのかな、っと」


 私が手を入れたアイテムが、本物の魔道具となっている現状、実際にこの世界で組んでみたらどうなるのか、検証してみなければなるまい。

 現在考えているのは、まず今ある素材をそのまま使い、単に組み合わせるだけの物。

 そして石を削ったり磨いたりして手をかけて、市販の指輪の台座にそのままはめるだけの物。

 それとは逆に、指輪の台座には手を入れて、石には手を付けない物。

 そして、石にも台座にも手をかけて組み合わせる物、と都合4種の品を作ろうと思う。

 のだが。


「効果の付与とか、どうすんだろ……」


 今現在魔道具になっている物に関しては、向こうで「こうだったらいいな」的なイメージで石と台座を組み合わせて作った物だけれど、ほぼそのままの効果が付与されている。

 実際にDEX器用さが上がったかどうかは実感わかないけれど、『手元が明るく見える』効果は確実に付与されている、絶賛装備中の『偸盗の耳飾り』。

 コレ、おかげさまで手元が明るく見える。

 別に光源が何処かにあるわけでもないのに、どうなってんだろ。脳内か眼球の方に魔法的なブーストがかかって居るんだろうか。

 なお手元しか明るく見えない。完全な暗視能力にしておけばよかった。

 でもまあ、こんな風に思い描いていたとおりの能力が付与されているわけで、適当に組んだわけではないけれど、私がそうなれと思って組んだからそうなったのか?

 そうあれかしと望んで組めば付与作業はするりと片付き申すとでも言うのだらふか。

 ……色々と納得行かない部分は多いが、そもそもの話この世界に居る今の状況自体が納得行かないのでもう根本的に納得出来ないのはしょうがないと割り切ってだな。

 都合のいい部分だけは十全に利用させてもらわねば割に合わんと思うのだ。


「とりあえず、試作4号機まではではサクッと完成させよう。ほぼ素組みだしな」


 試作4号機なんていうとなんだかどこかの薄幸の美熟女に搭乗されそうだが、あくまで装備品だ。

 ということで、粒の揃った石を同デザインの台座にのせてみるテスト。

 とはいえ、色々遊んでみたかったので同形状の台座少ないんだよな……手持ち分だけだし、っと何とか数は足りるか。

 さてそれでは、と思って現地修理もあるだろうと思って持ってきていた工具セットを取り出して、いざ! 

 と気合を入れて作り始めては見たのだけれど。

 予想以上に楽々サクサクっと作れてしまった。


「DEX上昇、マジ働いてるでぇ……」


 耳たぶに付けられた『偸盗の耳飾り』を指先で思わず弾いてしまう。

 すると、ふっと手元の明かりが消えた。


「おおう……いまのでオン・オフできるのか、作者の私も知らんかったぜ」


 テーブルの上に置かれた、出来上がったばかりの揃った形状の4つの魔道具。

 どれもこれも、なんだか怪しげな光を石が放っている。

 やはり、私がこうと思って作った品には魔法が付与されるのだな、と。

 んだがしかし。


「……いかん、試作4号機だの何だのと考えて作ったせいか、それぞれバランバランな付与されてね?こいつら」


 と言うか、なぜわかる私。

 何故かわかるとしか言えんが、もうホント納得できねえ。


 最初に作った試作1号機は単に組んだだけだが、近接戦闘特化な人向けのAGI俊敏が上がる。脳裏に浮かぶは+2と言う数字。2上がったらどれ位恩恵があるのか知らんのでなんとも言えない。

 試作2号機は石だけ手を入れてみたんだが、盾職向けかひ弱な人向けかな? DEF防御力がものすごく上がる。スゴく上がる。乗算で上がる。付けてみたらACVL守備力VeryLowとか脳裏で文字が踊ってた。かてて加えて特に爆発系魔法には超耐性がつくんだと。攻撃能力の方じゃなくてよかった……。

 3号機は石にも台座の指輪にも十全に手を入れてみた。んだけど、どんな装備も専門職並に使いこなせるようになる、そんな感じ。 なんか左手の甲にルーン文字でも浮かびそうである。 あれ? 何気にこいつスゴくね?

 そして最後の4号機は台座にだけ手をかけてみたんだけど、これがよくわからない。運が悪くなりそうな感じもするけど、何やら敵の姿を模せるよーな感じ。今んトコ私にゃ敵がおらんので試せないが。

 あれ、こいつらスゴくね? ただ組んだだけの1号機は微妙な付与だけど。

 魔法職の私でもこれ全部付けてたら、めっちゃ早くて固くて武器も扱えて、私が敵か味方かわからん状態に相手を陥らせるから無双も可じゃね?

 ……いかん、これは外に出してはまずい、色々と。

 幸い指にはアクセ付けてないので自分用にしてしまおう、そうしよう。


「検証も済んだところで、本番と行きますか」


 そして私は改めて机につくと、大量に余ってるビーズ類を取り出し、薄い布に魔道具化した鉛筆で模様を適当に描いたあと、それに沿ってビーズをチクチクと縫い付け始めたのだ。


「『偸盗の耳飾り』で器用さも上がってるし、『試作1号機』で速さも上がってる上に、『試作3号機』が針の扱いプロ並みにしてくれてるのかして運針がなんかスゲエ上手くなってる! 指輪すげえ! っと!?針で指差しても皮膚すら通さん! 『試作2号機』すげえ!」


 早速装備した試作指輪達が、存分に役目を果たしてくれる。だが4号機、お前はダメだな。使い所がいまいちわからん。

 薄いベールの縁にちょっと大きめの石を並べ、小さな石と中ぐらいの石で模様を描く。

 布が薄いし糸が細いしで超面倒だけど。

 そしておよそ数十分で完成。

 魔道具の恩恵やはり凄い……いつもなら何日もかけて作ってたレベルだぞこれ……。

 出来上がったのはベールだ。

 何年か前に見た、ヨーロッパかどっかのブランドのコレクション発表会で見てすっごい気に入ってた代物を真似してみた。デザインとかのレベルはぐっと下がるがな!

 そして、このベールに合わせて装身具のアイテムも作らねば。

 あとはこれと対をなす形でだな……。

 そんな感じで異世界一日目の夜を過ごしていった私であった。


 ☆


 私は、この街の冒険者ギルドの長を務めている、アズール。

 エルフ故に、ヒト族のような家名などは本来持たないのだけれど、父がヒトの国造りを手伝った折に領地を貰い受けた為に、長々とした家名を名乗ることとなった。まあ、普段それを名乗ることはないけれど。

 私はエルフのアズール、それだけでいい。

 そんな私が拠点としている街に、近隣の魔獣が大挙して襲ってくる事態が発生した。

 王国の端に存在するこの街は、元は父が王から貰った荘園であり、それを私が受け継いだのだ。

 言ってみればこの街は私の所有物と言うことになるので自分で守りたいのだけれど、そうは問屋がおろさなかった。


「お前はギルドマスターのお部屋で座って待ってろ」


夫でもある冒険者ギルドの冒険者代表、普段は「元締め」と名乗り、そう呼ばれているデービッドは、そう言ってギルドメンバーを率いて街の周囲を警戒、先だって出立した王国軍の攻勢から漏れ出してくるであろう魔獣達を相手取り、奮戦した。

歯痒い。

私は大規模魔法に特化した能力故に、ああいった小型魔獣への個別攻撃が苦手だ。

最小の魔力で編んだ魔法であっても、小さな丘くらいなら吹き飛ばせてしまう。

他に使えるのは精霊魔法だけれど、こちらはこちらで契約した精霊が高位すぎて、地水火風の一点特化型となってしまっている。

危険なダンジョンや、強大な幻獣や神獣が襲い掛かってきた時には引っ張り出されるのだけれど、そんな事態など世紀単位の頻度なので事実上暇を持て余している。


「あーあ、私が出たら一発で全滅させられたのに」

「何とかなったんだからいいじゃねえか拗ねるな」


街ギリギリまで魔獣が迫っていたと聞いた時には、街の住人に被害が及んだのかとヒヤッとさせられたが、それは杞憂だった。


「空から女の子が?」

「ああそうだ。一天にわかに掻き曇り、って感じで急に空の様子がおかしくなってな? そこから落っこちてきたらしいんだ」


今向かっているのは、その魔獣退治の功労者として保護された、一人の少女である。

あわやという時に空から落ちてきて、状況を即座に判断するや多弾頭式の魔法を詠唱し、一つも外すことなく魔獣にぶち当て殲滅しきったという。

その場面を見てみたかった。

きっと凄まじいほどに繊細で、正確な魔力コントロールの妙技が見れただろうに。


「まあその辺はおいおいな。どうやらワケアリみたいだからよ」


そう言って、私を連れて入った部屋には、その少女が身なりを整えながらこちらを向いたところであった。

その少女、ヨーコ・ウティダをひと目見た時に感じたのは。

その身に纏う雰囲気や強大な内封された魔力もそうだが、何よりも。

この辺りでは見られない、黒髪ストレートに凹凸は少ないが、十全に整ったその顔つき。

そして何より、その可愛らしいサイズの背丈が。

全てが愛らしかった。

もう、ウチのコに欲しいほどに。

この娘の本音を知りたい、と言うデービッドの懇願で、真偽判定の魔法を起動しておいたけれど。

結果として、内容的には嘘を吐いていなかった。

しかしながら、魔法に依らないところで私の琴線の何処かに引っかかるものを感じた。

冒険者ギルドへ勧誘して、メンバー用の認識票を作る際に、その感じた理由の一旦が理解できた。


「凄い……」


虹色の、認識核。

コレは過去に唯一人、大英雄『タリョー・スズゥキィ』のみが持った資質そのものであったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る