第2話 考えることをやめんじゃねえぞ!
よし落ち着こう私。
まず確認だ、状況を整理しよう。
私はLARPのイベントに参加してた。
その際中に、会場の草原≠草ぼうぼうの空き地でなんかよくわからん穴に足を踏み外して落っこちた。
そのせいでこの世界に来たんじゃないかしら、と。
ここまでは良い。
いや、よくはないけどまあ確認のためだから置いといて。
何故、異世界に来ちゃったのか。
何故、ただのアクセサリーのはずの指輪とかが魔道具になってんのか。
何故、身体が若くておまけに綺麗系の美少女になってんのか。
将来超絶美人になりそうでこれはたまらんで、ぐへへへへ。
失敬取り乱しました。
ともあれアラフォー鬼女だった身としては、ここに関しては大変ありがたいところであるが、元の身体がどうなったのかが気になるところである。
そして、いちばん大事な点。
元の世界に帰れるのかどうか、だ。
まず、この世界に来た理由。
まああの穴が原因だとして、ただの穴だったのか、それとも異世界に繋がる穴がたまたま開いていたのか、だ。
前者だった場合、私はアソコで打ちどころが悪くって南無ー、となってこの世界に来たことになるが、いきなりこの姿ってのが納得いかん。
何故服とかそのまま? この世界の人間に乗り移ったとかなら衣服その他がそのままなのはおかしい。
後者だった場合、異世界に渡る影響で身体が変異した、とか言われたら納得はしなくともなるほどそういうのもあるんだ、と理解はする。
出来たら後者の方でお願いしたい。
死んでココに居るとかだと、帰還が絶望的だし。
次の点がこの魔道具アクセサリーである。
私が市販のパーツをいじくり倒して作った品々だが、特にこれと言った怪しいもんじゃあ無かったはず。
本当に、適当に通販で買ったり伝手を頼りに買い集めただけのごく普通の市販品流用の加工品だ。
それにワイヤレス電力供給技術を使ったLEDを埋め込んで、電源供給側をバッテリー式に無理やり加工してだな……。
あれ?
私はそこでふと棚に駆け寄り、置かれたアクセサリーに目をやった。
私が作った時そのままの、細かな傷も残っている。
その横には、私の着ていた
――バッテリー類は?――
腕や腰に、ワイヤレス電力伝送装置やバッテリーなんかをマジックテープで止めておいたはずである。
だが、それがない。
カバンの中に入れてくれたのか?
などと淡い希望のままカバンを手に取り弄ってみるが。
「なんやのんこれ」
鞄に手を突っ込むと、感触がおかしい。
慌てて手を引き抜いて覗いてみたところ。
「oh……」
真っ暗な空間が、広がっていた。
真っ暗なのに空間が広がっているとわかるとかなにこれすごい。
手を突っ込んでみる。
肩まで入った。
なんにも手に触れない、なにこれコワイ。
「……これはもしかしてもしかするともしかするぞ」
相方が居れば、ここで「もしかするでコロン」と更にセリフを引き継いでくれたかも、などとちょっと寂しく感じながら、私は突っ込んだ手を抜かずに、脳裏にあるものを思い浮かべた。
「おお、やった」
鞄から引き抜いた手には、愛着のある私のスマホが収まっていた。
通常サイズのスマホだとちょっと字が細かくて見辛かったので、ちょっと大きめサイズのものを使っているのだがタブレット的な感じで中々便利だ。
それはともかく。
電源は入ってるが、流石に電波は届いていない。
うむ、まさに異世界。
と思ったが。
「めっちゃ着信とかメールとか来てるんだけど」
どこ行った?から始まり、生きてるのか、返事してくれ、なんか反応を! とまあやはり向こう側では私は行方不明となっているようであった。
異世界なのにメールとか届いてるってことは、もしやこのスマホも魔道具に!?
どこぞのアニメ化したアレみたいに万能超便利に!
と期待したけれど、別に神様キャリアとつながってるわけでなし。
メールを打っても発信すら出来んかった。
うん謎だ。放置で。
しかし、まさか鞄までが魔道具化してるとは思わなんだ。
これいわゆる魔法の鞄だわ、大きさ無視してなんでも入る系の。
……と言うことは。
身につけていたアイテムが全て魔法のアイテム化してるということは。
私はかなりワクワクしながら再び鞄に手を突っ込んだ。
「……おお、すんばらしー」
取り出したのは、見た目重厚そうな革の装丁の本。
その実、元々はただの分厚い市販の「魔導書風ノート」だったのだが、魔法使いプレイをするために色々魔法陣やらいろんな魔法の呪文とかを書き込んだ自作魔導書(笑)である。
それが今や、マジ物の怪しい素材で作られたおどろおどろしい雰囲気まで纏った代物になっとる。
「これ、開いても大丈夫かなぁ。開けアルハザード!的にボンテージな格好になったらどうしよう」
それはそれでありかもと思いつつ、私はゆっくりと本を開いた――。
「ん?」
『ん?』
パタン、と閉じた。
もう一度開く。
『あー、開いた――』
パタン。
閉じた。
なんかいた。
これ開けちゃいかんやつだ。
封印しとこ。
鞄にガムテープ(色々と応急処置用)が――。
と思っていたら、本の表紙に小窓が開き、
『ねーさん、ちょっと開けたり閉めたり酷ない?』
なんだこれ。
『ちょっと聞いてはる? これでもわし大悪魔なんよ? 話の一つくらい聞いてくれてもええと思うんよ』
こういう時の対処は、口を利かない。
何か喋るとそれを引き金にズルズルと対応を迫られる奴だ。
仕事でまれによくあるのでしってる。私はかしこいので。
魔導書をひっつかみ、鞄の中に、それも出来るだけ奥に押し込んだ。
暫く耳を澄ます。
よし、何も聞こえない。
アレは後回しだ。できれば関わらない方向で。
次、他の私物を取り出して確認せねば――。
結果。
私物の多くが魔道具化していた。
正確に言えば、私がなんらかの形で弄った物が、魔道具と化していた。
鉛筆が、空中にも書ける様になってたり。研いだだけなのに。
ライターが火炎放射器並みに火が出るようになってたり。ガス入れただけなのに?
ハンカチが何か知らんがふわふわ浮いたり。いや、刺繍ちょこっとしたけどさ。魔法の絨毯ならぬ魔法のハンカチとかどう使えと。これに乗ればいいのか?飛べるのか?嫌だ絶対落ちる。
他には自作の財布がなんか知らんが金貨で埋まってた。なにこれ日本円は何処?
カード類は流石に何の変哲もなくカードのままだった。
弄ったことのあるナシが魔道具化の一因のようではある。要継続検証。
そして次。
この身体であるけれど。
「うーむ、子供の頃の怪我の跡が残っとる」
ちっちゃい時に擦りむいた、膝とか肘とかその他もろもろの部位に痕跡が残っている。
それでいて、不思議な事に……。
「虫歯がない。凄い歯並び綺麗になっとる」
光が差し込めばキラリンと照り返す勢いで歯が綺麗である。歯医者のレベルがヤットコで引き抜くレベルかもしれないこの世界だと大変ありがたいこってす。
そして何より。
「視力が……目が良くなっとる」
結構な運動量になるはずだったLARPに参加するために、コンタクトレンズを嵌めていたのだが、それはどこかに消えていた。
つい癖で眼球直に触ってしまったわ。
「これはもしかして、肉体改変という辺りなのか? ココに来る前に神様に会ってたりするパティーンだとそれも納得できるんだけれど」
神様になんぞ会っとりゃせん。
誰がどうしてこんな身体にしたのか。
さっきの悪魔だったらメンドイな。
まあもう会うことはないだろう。出す気無いし。
さて、この身体は≒私の身体ということで。
多少の見かけとか肉体年齢とかの違いはさておくとして、だ。
そして、最大の点。
この世界から元の世界に戻れるか、と言う話だが。
正直わからん。
これから色々調べましょうねとしか考えられん。
きっと、おそらく、メイビー、似たような境遇の人は他にいるんじゃなかろうか。
私同様、よその世界からココに来た人。
稀人とか迷い人とか言われているに違いない、はず。
その辺を適当に探し出して情報交換をしてだな――。
なんて考えていたら、ノックの音が静かに響き渡ったのである。
☆
「報酬、ですか?」
「そうだ。残念ながらそう多くは出せない。他の冒険者たちに与えた額と同額しか出せないのだ」
目の前の見知らぬおっさんが、そう額に汗を浮かべつつ言う。
私が目覚めた時に居たおっさんとは別のおっさんである。
おっさんNo.2としておこう。
おっさんNo.1が日焼けした短髪の土建屋の親父!みたいなのだったのに比べ、今度のおっさんNo.2は、端的に言って小デブ。
そして長めの髪をベッタリと油でなでつけた、インテリのなりそこないみたいな風貌だった。
どうやらこの街を守るために戦った冒険者の方々には、予め報酬が約束されていた模様。
凄くありがちな強制動員と言う奴だろうか。
まあ別にそれはそれでかまわん。
と言うか、貰えるなら貰うが貰えなくても私は一向に構わん!
財布に金貨いっぱいだったし。
それにどう見てもこのおっさんNo.2は、私腹を肥やしたり報酬をケチって云々するタイプには見えなかったし。
どちらかと言うと周囲との調整のために走り回って尽力する苦労人ポジだ、と勝手に妄想する。
なので、他の方と同額いただけるなら有難いですと了承を伝えると、実に晴れやかな笑みを浮かべて金子の入った袋を置いて立ち去っていった。
あー、なんか中途半端な立場の地方公務員って感じのおっさんNo.2さん頑張ってと手を振って送り出した私であった。
そして。
これからどうすっかなー、と思って椅子に座り直して背伸びをしていると。
「おう、奴は帰ったか。どうだった? 追加でいくらか貰えたか?」
おっさんNo.1が再び姿を現したのである。
金髪美女を一人、引き連れて。
「改めて名乗ろう。俺はこの街の冒険者ギルドの冒険者元締めをやってる、デービッドという。こっちはギルドマスターのアズールだ」
「初めまして、この街のギルドマスターを務めさせていただいております、アズールと申します」
そこに居たのは、金髪で青い目で色が白くて長耳で!
「おお、えるふやんけ……」
「あら、よくご存知ですわね」
つい素の言葉が漏れてしまったが、相手はなんとも思わなかったようである。
美少女になったぞーヤッター! と思ってたら遥かに美人さんが現れた。
読者モデル素敵と思ってたらスーパーモデルが横に並んでツーショットとか何の罰ゲームだゴラぁ。
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