LARP用のアイテム作りが趣味なんですけど何故か異世界に飛ばされたんだけど何だこれ

でぶでぶ

第一章 LARPをしてたら異世界に来てしまった。どうしよう。

第1話 兄ちゃん兄ちゃん、悪ノリは楽しいぜ?

 街に迫ってきていた魔獣の群れに、冒険者と呼ばれる者たちが相対して討伐を行っていた時にそれは起きた。

 青天の霹靂という言葉がこれほどに似合う場面があるのか、と思うほどの急激な天候の変化と共に。

 圧倒的な数の魔獣達を相手に奮戦していた冒険者たちだったが、多勢に無勢。

 単体の彼我戦力としては圧倒的に冒険者たちが上な為に、倒されることはまずないのだが、流石に手数が足りず、布陣の隙間から魔獣の侵入を許してしまったのである。

 少数であっても、魔獣が街に入り込めばそこに住む一般の者たちにとっては死が舞い降りるようなものだ。

 とは言えそれらを追いかけるために布陣を崩してしまえば、一気に他の魔獣がなだれ込みより被害が拡大してしまうことは必然。

 人手が足りず、後詰めを置かなかったことに対して歯噛みしつつ手をこまねいているうちに、そいつらは今まさに街を囲む壁にたどり着き、乗り越えるために跳躍をし、たところでそれが起きたのだ。


「あ痛ててて……、っと何じゃこりゃ」


 一人の人物が、街に迫る魔獣の一群、その先頭に立つ一際俊敏で厄介な「シャープウルフ」の上に落ちてきたのである。

 落ちると言っても、普通に落ちてきていたならシャープウルフも持ち前の素早さで即座に回避していたのかもしれない。

 ちょうどジャンプした所だったから、避けることができなかったのかもしれないが。

 だがそれを加味しても、そいつが落ちてきた速度は尋常ではなかった。

 そして、その速度で地面と魔獣に激突しているにも関わらず、すぐに立ち会がって周囲を見回した事も尋常とはいえないだろう。

 ローブに包まれたその表情は誰にも覗くことは出来なかったが、誰もが街に迫る魔獣の群れを目にして恐れおののいているのだろうと思っていた。

 だがしかし。


 ばさりとローブを翻したその姿に、辺りの者達は驚愕した。

 まだ成人にも至っていないかに見えたその容貌と、その身に纏う数多のアーティファクトが秘めるその魔力とに。


「混沌と秩序を統べる神々よ、我は願い奉る。汝らの欠片を身に纏いし我がえにしに祈りをもって、更なる力を与えん事を」


 その力ある言葉を切っ掛けに、身につけたアーティファクトが、その力の源であろう埋め込まれた魔晶結石が、様々な色合いの光を放ち始めた。


魔力の輝きよオーレイノーウ 我が敵を滅ぼせシーローニ・タッナ 剛竜轟殺弾マジックアロー!」


 彼女のその詠唱が生み出した輝きは、天空の星が舞い降りてきたかのような煌めきを残し、その場に居た全ての魔獣に突き刺さったのである。


 ☆


「LARP」と言うものをご存知だろうか。

 ライブ・アクション・ロール・プレイング。

 簡単に言うと、テーブルトークロールプレイングゲームの登場人物のコスプレ格好をして、自分自身がキャラを演じるというお遊びだ。

 言ってみれば、子供の頃に特撮ヒーローやらアニメなんかの真似をしてチャンバラをしていたのを大人が気合い入れてやっているような物だ。

 私もここ最近それハマり参加しているのだが、むしろその際に用いる小道具を作る方に熱中している。

 元々趣味で作っていたハンドメイドのアクセサリーを、LARPの世界観に合わせて制作して自分で使っていたのが切っ掛けで、LARP仲間から褒められたり製作依頼を受けているうちに、こちらの方に力が入りすぎる現状となっているわけだが後悔はしていない、というかノリノリで生産している。

 現状、副収入とまでは行かないが、自分で使う分の製作費をペイできる程度には委託販売でそこそこの売上を出すに至っている。

 相方曰く「魔道士か錬金術師の部屋みたいになってきてるぞ」と言われるほどに混沌としてきている私の部屋だが、そんなに褒めても何もでないぞ?


「褒めてねえ」

「えっ、マジで?」

「褒めてはいないが止める気もないもっとやれ」

「おういえ、あざっす!」


 相方はこんな調子で私の趣味を見守ってくれているのである。ありがたやありがたや。


 ☆


 本日のイベントは、かなりの人数が参加すると言われていた通り、大賑わいであった。

 三桁に届く参加者が敵味方に分かれて戦闘するという、一大イベントである。

 私も魔道士として参加するのだが、実際に手から炎が出るわけではないのでちょっと寂しい。

 戦士とかの役を取っている人たちは、昔の西洋風鎖帷子やら剣に盾を身に纏い、チャンバラごっこに勤しんでてとても楽しそうだ。

 いや、こっちはこっちで楽しいんですけれどね?

 今日は初お披露目の指輪や腕輪、首飾りにイヤリングやサークレット等のアクセサリーをフル装備である。

 しかも私の中の本邦初! 内部に電飾を埋め込んだ特別仕立てである! 光量不足で薄暗くないとよくわかんないのが欠点だけどね! アクセの石の底にLEDを仕込んで光らせてみました! 私凄い!

 いや、海外のLARP勢の動画で見てマネッコしただけなんだけどね。

 薄暗い部屋で、フル装備状態で初めて電飾のスイッチ入れた時の感動が君にはわかるかね? つーかわかれ。

 そんな感じで始まった今回のイベント、参加者のご家族がお持ちの土地を提供してもらったという草原での戦闘が一番の見所で演りどころである。


「雑草の生えまくった空き地だけどな」

「草原と言え草原と」


 魔道士スタイルフル装備の私の横で、そう夢も希望もない言葉を吐きさらすのは相方のミハエルである。

 ミハエルという呼び名だが別に外人ではなく、いわゆるハンドルネームだ。まあこの呼び名にした理由は色々あるが。

 それはともかく、確かに私の背よりも高く伸びたススキとか最近若干勢力の弱くなった感があるセイタカアワダチソウなんかが生えまくっていて草原というよりも手入れを全くしていない空き地としか見えないが。

 まあ今回借りることが出来たのも、そんな土地だからであるし、借り賃はこのイベントの後に草刈りするだけという懐具合的にはリーズナブルな取引であるそうな。


「それじゃ俺あっちだから行くわ」

「いてらー。気ぃつけてね、おもちゃの武器でも当たりどころによっちゃ怪我するんだから」


 相方のミハエルは私謹製の戦士装備を上から下までガッツリ着込み、ウキウキした表情を隠しもせずに、私に肩越しに手を振って草むらの中に消えていった。


「さて、私ゃ後方で待機っと……おろ?」


 ぐらり、と。

 ミハエルが立ち去った方とは逆の、味方陣営へと一旦戻ろうとした私だったが、踏み出した足元に巨大な穴があったのである。

 ついさっきまではそんなもの無かったのに?

 そう考えつつ、私は暗く深い穴にその身を落としたのである――。

 が。


「なにこれ……あ、突発イベントか!? ってこんなによく犬とか集めたなー……犬にもコスさせてんのかー凝るなー」


 気がつけば、目の前にはちょいと風変わりな犬っぽいなにかとか虎っぽい何かとかが大量に居た。

 その周りには、気合が入った鎧やらなにやらを身に着けた、LARP参加者と思しき方々が、その動物たち相手に奮戦していたのだ。


「なるほどなるほどー。突発イベもあるよ! とか言ってたのはこれかー」


 私は主催者頑張りすぎだろと思いつつも、悪ノリは大好物です! とばかりに調子を合わせることにした。


「ふっふっふー。魔晶結石アクリル玉で増幅したバージョンの魔法を見せてくれるわ!」


 ばさり、と身に着けていたフード付きのローブを翻し、ノリノリで詠唱を紡ぐ私。


「混沌と秩序を統べる神々よ、我は願い奉る。汝らの欠片を身に纏いし我がえにしに祈りをもって、更なる力を与えん事を」


 某胸のない美少女魔道士リスペクトの前置きから開始。

 そして――。


魔力の輝きよオーレイノーウ 我が敵を滅ぼせシーローニ・タッナ 剛竜轟殺弾マジックアロー!」


 昨日適当に考えた詠唱ッ!あー背筋がっ! 背筋になんか冷たいものがッ! でもやめないのがLARP魂である。

 しかし、やり遂げた、と思った私の周りに。

 あからさまに光りまくる何かが生まれ。

 それが、目の前にアホほどいる動物たちに向かって、圧倒的な速度で飛び出していった所で、なんかおかしいと気がついた。


「あ、あれ? そんな機能つけてない、んだけど?」


 放たれた光の矢は、寸分違わず迫りくる動物たちの頭を穿ち、砕き、滅していった。

 そして生まれる歓喜の声。

 周囲の鎧兜の男女が、私目掛けて駆け出してくる。

 その光景は筆舌に尽くしがたいが、血まみれの姿で叫びながら百人からの屈強な男女が迫ってきているのに、どう対処しろと?

 思わずもう一度魔法を使おうかと思ったほどである。


「ちょまっ! 待って! 変なとこさわんなコラ!」


 もみくちゃにされた私は、そのまま意識が遠のき――。


「目が覚めたら夢でした、じゃないんか」

「どうした、魔力の使いすぎがやはり響いているのか?」


 どうやら夢の続きのようです。

 眼の前に居るのは、見知らぬおっさんであった。

 寝かされていたのは、かなり上等なベッドの上で、身につけていたはずのアクセサリー類はそのベッドの横に設けられていた棚の上にキレイに並べられていた。


「行きずりの魔道士のようだが、済まなかったな。実際助かった」

「はあ」


 どうやら街が魔獣とやらの群れに襲われていた所に私が乱入して間一髪の所を助けた模様。

 いやいやいや、ちょっと待とう。

 私はLARPのイベントに参加してただけでこんな所に何故いるのかすらわからん状態なんだが。

 目の前のおっさんは終始にこやかで、肩の荷が下りたと言ったところなのだろう、私に暫く逗留していくと良いと告げ、部屋を後にした。


「……何だこれ」


 頬をつねる。痛くない。

 いや痛いけど。

 ってほっぺツルツルじゃん!?

 驚いた私は手の平をじっくり見る。

 手の皺が、手の甲の皺がナッシング!?

 周囲を見渡すと、傍らに姿見を発見、私はベッドから立ち上がりその前に立った。


「……おお、美少女だ。胸もある……」


 ファンタジーである。

 魔法が使えるのである。

 美少女になっているでござる。

 ま、間違いない。

 これはヲタク連中垂涎の、異世界転移というやつなのでは!

 私が呑気にそんなことを考えている最中。

 ベッド横に並べられているアクセサリーたちが、意味深な輝きを発した事に、私は気付くことはなかったのであった

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