第5話 森林オーガ
さて、やって来ました王都東の森林。といっても、森林は広大な範囲に
森も奥地に行けば森林龍とか翔羽の黒豹とか、エルダートレントとか危険な奴が
他には古代遺跡とかいつからあるのか分からないくらい古いだろう蔦に覆われた塔とかもある。もっともそこへ行くことはないと思うけどね。
森に入ると、クトーを先頭にアシェット、フォーク博士が並び、最後尾に俺が続く。俺とアシェットはフォーク博士と周辺の両方を警戒し、クトーはその優れた嗅覚と視力で襲ってくる危険なモンスターがいないか索敵を行う。
俺達は冒険者ギルドでもらった情報を頼りに進んでいると、クトーが声をあげる。
「オーガさんがおでむかえー」
クトーが指を指した方向を見ると、森林オーガの姿を遠くに確認できた。数は三体か。
森林オーガは身長三メートル半くらいの人型のモンスターで、毛むくじゃらの緑がかった黒色の体毛に、動物の毛皮の腰巻をつけていることが多く、手にはこん棒を持つ。
ちなみに森林オーガの捕獲難易度は三で、弱い部類のモンスターになる。
「森林オーガかね。ううむ」
「フォーク博士、森林オーガには余りご興味がない感じですか?」
フォーク博士は落胆したように肩を落としているから、俺が聞いてみると彼は前を向いたまま「うむ」と頷く。
うん、興味が沸かないのはいいことだ。それなら余計なことはしないだろ。森林オーガとはいえ、フォーク博士が近寄ったら頭を潰されるだろうし……
「フォーク博士、ここは私が。ティル、フォーク博士を頼みますよ」
アシェットが一歩前に出ると、身の丈ほどもあるトゲトゲのモールを片手で握りしめると、そのまま軽く振るう。
相変わらずの馬鹿力だな……あのパワーで俺の頭をさっき……
「了解だ。アシェット」
俺が言葉を返すと、アシェットは緑の髪でつくったお団子をまとめたところについている長いリボンを揺らしながら一気に加速する。
黒のハイソックスとピッタリとしたスリットの間にある絶対領域が美しい……俺は彼女が前を向いて走っているのをいいことに存分に彼女の太ももを眺める。
ん? モンスターと戦うのにそんな呑気でいいのかって? まあ、森林オーガだしなあ。見たところ三体しかいないし。
俺達は駆けていくアシェットを見送りながら、ゆっくりと前へ進んで行く。前方から鈍い音が三度響き渡る頃、俺達はアシェットに追いついた。
彼女の傍には巨体を誇る森林オーガらしき死体が三つ転がっていた。うわあ、一体はこん棒ごと頭から潰され、残りの二体は胴が半ばほどまでひしゃげて倒れ伏している。
「終わりました」
アシェットは眉一つ動かさず、トゲトゲを二度ほど振るいそれを背中に背負う。
「アシェット、つよいー」
クトーは無邪気にピョンピョン跳ねて、尻尾をフリフリしているけど……俺は背筋に冷たいものが走る。
アシェットの強力過ぎる
「何か?」
「いや、何も……さ、先へ進もうじゃないか」
オーガの肉片を後に更に奥へと進んで行く俺達は、ようやく目的のモンスターを発見する。
地面から一メートルくらいの高さに浮かんだ、大きな目玉――ゲイザーだ。幸い群れになっておらず、奴は一体だけで、フヨフヨと警戒する様子も見せず木々の間を進んでいる。
「こちらにまだ気が付いていないようですね。フォーク博士」
俺はゲイザーから目を離し、フォーク博士の方へ振り返る。
――いない! フォーク博士がいない!
うおお、どこ行きやがったんだああ。俺が左右に目を向けると、クトーが俺の肩を叩き前方を指さす。
「ふぉーくはかせはいっちゃったよー」
クトーの言う通り、フォーク博士は堂々と枝を踏みしめながら、ゆっくりとゲイザーへと歩を進めているじゃないか。
あんなに音を立てたらすぐに気が付かれるってえ。
「この距離なら……届きます。ティルはフォーク博士のサポートを」
「分かった」
アシェットが目をつぶり、呪文を唱えだすと俺も腰を
「フォーク博士、危険です……下がりましょう」
俺は悠々と歩くフォーク博士の肩をそっと叩くと彼の耳元で囁く。
すると、あろうことか彼は……
「なあに! 心配ないとも! ははははは!」
胸を逸らして自信満々に高笑いをあげてしまったのだ! ま、まずいぞ。
俺は不満そうな声をあげるフォーク博士に構わす、彼を押しのけて前に出る。その時、前方の巨大な目玉がこちらを振り返った。
やっぱり気が付いてるじゃねえかあ。博士ええ。
――キィィィィ! とガラスを爪でひっかいたような叫び声が響き渡る。
この声の主はもちろん俺達に気が付いた大きな目玉ことゲイザーだ。不快感をこれでもかと煽る叫び声だが、声自体にそれほど害はない……しかし、森の中は様々なモンスターが生息しているんだ。
こんな大きな声で叫ばれたら……いや、今はゲイザーに集中しなければ。
俺は後ろにチラリと目をやりフォーク博士がちゃんと俺の後ろにいることを確認する。幸い、フォーク博士は今の叫び声で耳を
俺は「このまま、動かないでくれよ」と心の中で独白しながら、腰の剣を引き抜きゲイザーの方向へ向き直る。その時――
「
アシェットの澄んだ声と共に、ゲイザーが薄い青色の光に包まれると、絶対零度の冷気が奴へ襲い掛かる。
その効果は余り強くないモンスターならこの魔法に耐え切れず倒れ伏し、強いモンスターといえどもその動きを鈍らせるという最上級と呼ぶに相応しい凶悪な魔法なんだ。
ゲイザーはというと……魔法の威力に耐え切れず凍り付いたまま地面に転がっている。
「アシェット、ナイスだ」
俺が魔法でゲイザーを仕留めたアシェットへ声ををかけながら後ろを振り返ると、クトーが青い顔で首をフルフル振るっている。
「ティル、アシェットー、木をつたう音が聞こえるー」
クトーは犬耳をペタンと伏せ、弱弱しく俺達へ訴えかけた。やっぱりさっきのゲイザーの絶叫でモンスターが呼び寄せられてしまったか!
しっかし、これほど彼女が恐れるモンスターとなったら、相手は只者じゃないはずだ……
「フォーク博士、ゲイザーも手に入りましたし急いで戻りましょう!」
「せわしないことだね。まあ構わんよ」
フォーク博士はまださっきのゲイザーの叫び声が頭に残っているみたいで、軽く頭を左右に振って立ち上がる。
「ティルー、来るよー」
「クトー、ここに到達するまでどれくらいだ?」
「うーん、あと八十数えるくらいー?」
ちいい、木を伝ってこっちに来てるってことは恐らく俺達が走るより速い。フォーク博士を連れて逃げていたら追いつかれるな。
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