第3部 第9話「狂走 ①」
1
「……。」
勇一は無垢の暗闇の中に堕とされていた。
それは記憶なのか?
それとも夢なのか……?
……赤い鮮血が滴る心臓が並ぶ、凄惨な部屋の光景が浮かび上がる。
一体、これは何なのか。
だか、その疑問を発する為の声は出ない。
理解が追いつかないまま、意識が遠のいて……
ナイフを手にした男と、ベッドの上で横たわる希里花の姿が見えたところで、意識は終焉を迎えた。
2
「夢、か……?」
真新しいベッドの上で、勇一は意識を覚醒させた。
夢だとしたらあれは、どのような意味を持つのだろうか。
だがしかし、夢にしてはあまりにも生々しい絵面だった。
ひとまず、勇一は新邸での最初の朝を迎えた。
自室の鏡を見て、髪のチェックを……寝癖が酷い。
「夢の件はともかくとして、洗顔と整髪するか……。」
他愛のない一言で始まった今日は、またどこに向かうのやら。
**********************
「あ、加賀谷くん起きた」
朝食。
テーブルの上に、多彩な料理が並ぶ。
可愛い上に料理も運動も勉強だって上手、という完璧ステータス持ちな希里花さんの手料理の品々である。
彼女の料理は全国高校生料理コンテストで一位を取った程だ。
「頂きます!」
そう元気に声を上げたのは百合ロリ――イリシアだった。
そんなことはさておき、料理の味である。
どういったものか……。
「――!!」
やべえ、めっちゃ旨え!
旨すぎて声に出せなかった。
もう一回。
「やべえ!めっちゃうめえぇぇ!!!」
僕が大声を上げた次の瞬間、僕は沈黙という名の攻撃に
と、その場の空気を戻すため、僕は気付いた事を口にした。
「あれ?メイデンたちは?」
3
というわけで()、今日もギルドまでやってきた訳だが。
……生憎、うちのパーティーの最強5姉妹が相次いで熱を出し、イリシアがつきっきりで家で看病中。
あの百合ロリ、何かしでかしてなければいいが……。
一先ず、ギルドのクエストのチラシを順番に視界に入れる。
「……ん。」
僕が気になったそのチラシには、こう書いてあった。
【殺人鬼の討伐依頼】
「討伐って……モンスターかよ……」
まあ、モンスターみたいなものか。
なんせ極悪非道な犯罪者なのだから。
僕はそのクエストを受けることに決めた。
――女の影が一つ、勇一達をただジッと見つめていた。
……その影の存在に勇一達が気付いたのは、もうまもなくの事だった。
4
「グリシー街3丁目の59……ここか。」
ボロボロの茶屋。
勇一の目にはそうとしか見えなかった。
(だが、ここは殺人鬼のマイホームってわけか。)
勇一が、そう思いながら扉に手を掛けた、その時。
「何故、私ノ、家、知ってル、ですカ?」
女の声が、勇一達に掛けられた。
その声に釣られ、勇一達は背後を振り返った。
色気を醸し出す服装の、痣だらけの顔の女。
その女の眼は、狂気に染まっていた。
「お前は……。」
「私ハ、あの方ノ、眷属。」
……眷属、ということは、吸血鬼が背景にいると見える。
やけに喋りが片言な女は、そう言うと希里花を指差し。
「そいつの心臓、もらいに来タ。」
狂気に染まった、あの日の夜。
その日を思い出しながら、勇一達は一心不乱に駆け出した。
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