第3部 第10話「狂走 ②」
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広い――広い、街中。
その道中を横切る黒い影が見つめ、狙うのは、地震から逃げ惑う魔王――否、“美少女”希里花の一行であった。
影である者――女は、その中の希里花だけを捕らえるため、逃げ惑う彼女らに向け、魔法攻撃を繰り出す。
「ドナークーゲル・ダ・ドンケルヘイト。」
刹那、突如何もない空間から放出されたのは、電気を帯びた毒々しい色の球だった。
その球は、希里花達に向かって投げ出され――
―地面に激突した。
「チッ」
女は舌打ちをして、また魔法攻撃の構えを整える。
「あいつあんな魔法使えるのかよ!?やべえ位異世界らしくていいな!」
勇一は一番に声を上げた。
「こんな状況にあんた何言ってんの!?」
その場にいた四人全員が、勇一に向けてツッこんだ。
「おっト、余所見、いけませんヨ? 」
女の声が聞こえ、希里花は気付いた。
「ちょっト、目ヲ、離しタ、その隙ニ、捕まっちゃウ、からネ。」
希里花を『捕獲した』女はその豊満な胸に彼女を
如何にもイリシアが妬みそうなシチュだが、勿論、イリシアはここにいない。
ましてや、そんな事をゆっくり考えている余裕がある訳も無かった。
「希里花さん!今、助けますか……」
刹那、勇一の声は女の声に遮られ。
「小僧如きガ、何ヲ、考えてるのカ、知りませんガ、ひょっとしテ、仲間のパーティノ、少女ガ、この状況ヲ、妬むだろウ、とでモ、考えていたん、ですカ?」
その言葉に、勇一は叫んだ。
「お前どんだけ心読めんの!?」
勇一の言葉を聞き入れ、彼女は次のように彼を容赦なく罵る。
「あァ、やはリ。……この状況の下、無意味ニ、そんな事ヲ。私はアナタ、嫌いでハ、ありませン。……ガ、ご主人様にハ、到底及ばなイ、ご主人様ノ、言葉、デ、言うとこロ、ノ、なろう系主人公ノ、愚味ノ、極みト、言ったとこロ、かナ?」
「――っ!?」
勇一は彼女の言葉――否、その一部に戸惑い、思考を高速で回転させた。
その言葉の一連からして、彼女の主人である殺人鬼は、吸血鬼であり、その上日本人である、その事実が勇一を混乱させる。
同世界からの訪問者としての馴れ合いが、なんとかして出来ないだろうか。
だがしかし、殺人鬼と対話を広げるというのも気が引ける。
だがそれでも、対話はするべきだろう。
勇一の心に強い信念が宿っていた。
それ以前に、今まで考えなかったが、殺人鬼の自宅として公表されていたあの場所は、本当に自宅だったのだろうか。
つまり、真実を掴むにはあの女に道しるべをして貰わなくてはならない。
「何ヲ、考えテ、いるカ、知らなイ、けド、主人ニ、害は与えさせなイ。」
言った彼女は、再び魔法攻撃を繰り出した。
「ドンクラー・フレイム」
繰り出された紫色の炎球は、その炎が街の至るところに引火し、闇の光を生み出す。
それは轟々と燃え盛り、紅の町並みを丸呑みにして行く。
……狂走。
それは何のために行われている物か、今では両者共々情報が混雑しすぎてよく分からなくなっていた。
――そんな茶番に終止符を打ったのは、希里花本人だった。
「ちょっといいかしら。」
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