第1部 第3.5話「ただいまクエスト準備中」【改稿済】

「クエストに行くぞーっ!」

 勇一がそう言って、無邪気に走り出す。

「待って!」

 ……と、異世界生活を満喫するべくと動き出した勇一を、希里花が止めた。

「なんでですか!? 脚でも怪我したんですか?」

 進行を止めた希里花に疑念を抱いた勇一が、彼女に問う。

「いやいや、そうじゃないよ。」

 希里花は勇一の疑問にそう答え、勇一はそんな言葉を発した希里花に向けて、戸惑った表情を浮かべて問う。

「……じゃあ、なんでですか?」

 すると希里花は少し怒鳴った声で勇一に言った。

「っあ~! もう! 加賀谷くん完全に忘れてたの!?」

そんな希里花の声に、勇一が再び問う。

「……何をですか?」

 希里花は呆れたようなため息をつき、再び怒鳴り口調で勇一に言った。

「もう! RPGとかで戦う時大体使うでしょ!」

「いや、だから何を?」

 勇一は言い、首を傾げる。

 そして希里花はそんな勇一に突っ込む。

「武器だよ!」

 勇一は武器を忘れていたことに気付かされ、ハッとして羞恥に顔をほんのり赤く染めながら言うのだった。

「さっき自分で言ったのに忘れてました」




*******




 武器屋にて。

「へー。クラスごとに種類が有るのか。」

 勇一が感心した様子で並ぶ武器たちを見つめる。

 目の前にはまるで日本のホームセンターの如く剣が並びよく置かれた木製の棚が。

「えーと。双剣士クラス24用の剣は何処だ? あ、あったあった。」

 武器屋は、大体30畳位の広さで、天井までの高さはキリンの子供の身長の2倍位の高さ。上からは、短冊のように、下にある商品の種類が書かれた紙がぶら下げてあった。

「『キャプチャーソード』? こんなんしか無いのか。どれどれ。」

 "キャプチャーソード ●名称 双剣 ●原材料名 ダークドラゴンの爪、ダークドラゴンの骨、ダークドラゴンの鱗 ●使用法 使用時は柄に付いてあるボタンを押して下さい。すると刃が出ます。押している間のみ刃が出るので、長時間使用する場合はボタンを押し続けて下さい。本製品は使用時、同時に半径10メートル以内で魔法を使っていると、その魔法の効果をコピーして刃先から放射します。魔法がコピーされた後、魔法の効果を取り消す場合、刃をしまって下さい。

 ●使用上の注意・使用時はなるべく怪我をしないようにご注意下さい。・回復系魔法、肉体強化魔法の使用中、この剣を敵に当てると敵が回復・強化してしまう可能性もあるので、使用時はあまり周りで回復系・強化系の魔法は使わないようにしてください。"

 “本体価格:300000chrom 税込306000chrom”

「どゆこと? まあいいや。これしかないし買っとこう。」

 勇一は言いながら武器を手に取り、また見つめながら続ける。

「ってか、異世界でも税金あるのか。……お互い大変ですね。」


*******


「おー! きたきた。何買ったの!?」

「なんとかソード。」

「キャプチャーソード! これはすごいね! ……前にこれで自分を間違ってちょっと刺して死んだ人いるけど。」

 最後の方は希里花の声が小さすぎて聞こえなかったが、どうやらこれは凄い武器らしい。

 今後の活躍に期待だな。

「あ、これボタンを押してる間だけ、刃が出るらしいぜ。これなら安心だろ! それに双剣入れも貰ったんだ。」

勇一は安全性を一生懸命に演説する。

だがそんな勇一に、希里花は言うのだった。

「お~! それは良かったね! ……でもずっとボタン押してるの疲れない?」

「あ。」

 こうして勇一のクエストの準備は終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る