第1部 第2話「初めての異世界探索」【改稿済】

2

 

 意識を取り戻し、目を開いた。

 サッと辺りを見渡すと、異世界らしい建物……獣耳と尻尾のついた明らかなる獣人、翼の生えた鳥人や耳の尖った人形ひとがたであるエルフ等の様々な人種が歩く街道が目に入り、確信して勇一は思わず叫んだ。

 「……スゲエ!…………スゲエ、マジで異世界だ!」


 ……


 前回。

 “想い人”……須賀 希里花を失ったことにより自傷行為へ至り、誤って死んでしまった勇一は、自称ではあるが女神と出会い、記憶を保ったままであることの代償に、異世界への魔王退治へと赴くこととなった。




 ……



 とは言うものの、そういえばあまり女神にこの世界のことを教えてもらっていない上、どこからどうすればいいのかという知識など毛頭ない。

 異世界転移というワードに興奮し、テンションの上がった勇一はそんなテンションも相まって叫ぶ。

「で、こっからどうすりゃいいか全く女神様から聞けてないんですが!女神さま!へるぷみー!」

 と、そこに勇一が明らかに外野から見ると変なテンションで騒いでいたところに、後ろから衝撃が加わった。

「……うわっ!?」

 そんな声を上げ、後ろを振り向き構える。

 衝突したのは巨鳥が引く車。

 鳥車ちょうしゃと言うのがいいか。

「おいガキ。道ん真ん中で突っ立ってッと危ねーぞ!」

 鳥車に乗った獣人は、怒鳴り声を上げて勇一に叫んだ。

 ……そんな一悶着を終えて、勇一は一度冷静になって考え出した。

 勇一の成すべき目的は2つある。

 まず1つは、魔王を倒すこと。

 そしてもう一つが、“想い人”……須賀希里花を見つけること。

 もし希里花を探したとして、それはやはりあとからゆっくりと探したほうが効率がいいだろう。

 そんな訳で、まずは魔王討伐を目的にすることにしようと勇一は考えた。

 いろんなゲームをやってきた勇一は直感的に最初にやる事を考え出した。

 

 まずはギルドだ。

 やはりどんな世界にでも通貨制度はあるようで、街の店で通貨交換をしている様子が伺えた。

 その中には冒険者らしい格好をしている者たちも何人かいたため、ギルドはあると見て間違い無いだろう。

 だからギルドを見つけて何かクエストをしなければ、お金が無くて物が買えない上、魔王討伐はおろかまともな生活さえもできないからだ。

 勇一はギルドの場所を道を歩いている獣人に聞くことにした。

「すみません。ギルドって何処にありますか?」


 ……


 ギルドに着いて、受付へと駆けていく。



 勇一は受付に居た職員に話し掛けた。

「えーと。加賀谷勇一さん、ですね。……ギルド登録はなさってないみたいですが……」

 受付の女性が、そんなことを言って僕の顔を見つめる。

「あ、お願いします。」

 ギルド登録をしなきゃクエストを受けられないのか。

 勇一が考えていたのも束の間。

「そうですか。では、一万クロムを払ってください。」

 受付の女性から言われたのは、驚きの言葉だった。

「……え?」

 予想外過ぎて予想などできるはずもなかった。

 慌てて勇一は自分のポケットを漁る。

 持っているものは、死ぬまえに持ってた物……

 日本札、カッター、希里花さん……の写真。

 「ほとんど役立たずじゃねえか!」

 もっと良いものを異世界に持ってくるべきだった。

 そうすれば、きっと……




勇一が思考停止しそうになった瞬間に、後ろから声が聞こえた。




「あれ?加賀谷くん?」




 懐かしい。

 そう感じる声だった。

 それは、勇一が――ここに来た理由。

 そう。その声の正体こそ……。

「希里花……、さん?」



 2



「ふーん、勇一くんも死んじゃったんだ。」

 色々あって、リストカットで死んでしまった事を告げた。

 もちろんリストカットをした本当の理由は教えておらず、将来への不安などだと答えておいた。

「それで……どうしたの?こんなところで」

 希里花が、口角を少し上げ、僕を見つめながら聞く。

「僕は、ギルドに入ろうと思ったら資金がなくて停滞してて……、希里花さんこそ、なぜこんな所に?」

 明らかにレベルの高そうな服を纏っていた彼女に疑問を抱いた僕は、なぜ彼女がここにいるのかと疑問を投げ返す。

「う~ん。」

 希里花が空を見ながら、気ままな声で答える。

「なんか通りを歩いてたら叫び声が聞こえてきて、面白そうだったからかなぁ」

 どこか寂しそうに空を見上げる希里花。

 そんな希里花の変化に勇一が気付かぬまま、希里花はまたも口を開く。

「ところで、勇一くんさっきお金がないって言ってたよね? 良かったら貸そうか?」

「そうですか。じゃあお言葉に甘えて……。」

 なんだろう。片想いの相手にお金をせがんでいると思うと、なんとももどかしい。

「はいはーい。ほれ。」

 希里花は言い、勇一に1万クロムを渡した。

「ありがとうございます!後で必ず!」

 勇一が発する感謝の言葉に少々押されながらも、微笑みながら希里花が言う。

「いいから行ってきな、私はここで待ってるよ。」

「あ、はい!」

 希里花の言葉に、勇一は少しだけ急ぎ足でギルドの中へと向かった。




*******




「お金持ってきました!ギルド登録します!」

 勢いよく、元気な声で勇一がカウンターの女性に話しかける。

「はーい。あっ、さっきの方ですね。」

 女性は金額を確認すると、別の部屋へ手を向けて言った。

「それではあちらの部屋にて能力値の検査をしますので、移動願います。」




*******




「それでは、能力値の検査をしますね。」

「はい。お願いします。」

 能力値の検査は至って簡単だった。

 受付の女性が僕に向かって手を向けるだけで、文字になって見える。

 なぜ別の部屋なのかというと、能力値を見るための魔法が、おでこに反射して他の人の能力値まで見えるようになってしまうためだという。

「ええっと。レベルは1。攻撃力、防御力、魔法力、敏捷性、跳躍力共に、通常のレベル1の方の2倍、HP、MPは通常のレベル1の方の3倍。……お兄さん、チート持ちですか?」

 まさか見抜かれるとは思いもしなかった。

「あ、はい。」

 あまりにも驚いたため、思わず反応するのが遅れてしまった。

「どのような経緯でチート持ちになったんですか?」

 受付の女性が勇一に問い、勇一は素直に答えた。

「異世界から来まして、この世界に転生する時に女神様から授かりました。」

「そうですか。」

 ……まあ、ラノベみたいに驚かれることは、今まで転生した人は何人もいるだろうし、たぶんないのだろう。

 にしては、この人の反応は薄すぎる気がする。

 そもそも、チートと言ってはいたが、いくらなんでも少なすぎる気がする。

 別に欲を言うわけでもないが。。

「あ、それと幸運値が68。まあ、平均値47より少し多い位ですね」

 反応の薄すぎる受付の女性に、飽き飽きしてくる。

「えーと、次は……。職業を選択して下さい。職業ポイントが高いほど、いい職業に就けますよ。」

「ふむふむ。」

「ちなみにあなたの職業ポイントは……287ですね。ちょうど最上級職の大剣たいけん士クラス24、双剣士クラス24、騎士クラス35、大魔法使いクラス28が選べますよ。」

「うーん迷うなあ。」

「迷わないで、早く決めて下さい。帰りに合コンがあるんです。」

 色々ツッコミどころのある台詞で急かされ、勇一はすこし怒りを覚える、

 まあそんなこんなで悩んだ末、勇一はは決めた。

「……じゃあ、双剣士クラス24で。」

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