本編

第1部『黒き思い出』

第1部 第1話「死んじゃった件」【改稿済】

 1


 ……その日、彼……加賀谷かがや勇一ゆういちは闇夜に死んだ。

 3日前、クラスの女子によるいじめにより自殺した、大好きな、片思いをした一人の少女を追って。

 方法はリストカット。

 手首の血管をカッターで切った。

 紅く濃い、少し粘りけのある生温かい血が沢山出た。

 とてつもない、声に出しきれないような、ひどい痛みだった。

 苦しみの中、ベッドの上で悶えながら唸る。

 床の白いカーペットにも血が、その一連の動きによって、ゆっくりと、ゆっくりと、滲み、染み込んでいった。

 白かったカーペットが、真っ赤に染まった。

 それはとても、悲惨な有り様だった。

「――――――――――ア゛!……」

 そして、ここで一度、勇一の記憶は途絶えた。


 2


 ……うーん。


 ここは、一体どこだろう。

 目が覚めると、勇一は真っ白な空間にいた。

 上体を起こし、困惑の表情で周りを見渡す。

 そして気付く。

 ……目の前には、一人の銀髪の美女がいた。

「加賀谷 勇一さん。あなたの地球での人生は悲しくも終わってしまいました。」

 その美女は、勇一が己と目を合わせるなりそう言った。

 そんな美女に対し、勇一は問うた。

「……あなたは、女神ですか?」

 するとその美女は少し口角を上げ、目元を軽く曲げながらこう答えた。

「ええ……。そうよ。私は女神。……ここで死んだ人を管理する仕事をしているの。」

「そう……ですか……。」

 勇一は寂しげに答える。

 そして彼はふと、あの少女想い人を思い出し、顔を上げて言った。

「……あの人は。」

「……? ……何?」

 女神はそう、目を潜め、首を可愛らしく、少し傾けながら言う。

 そんな女神の言葉に勇一は、目をうるわせながら、彼女にこう聞いた。

「あの人……須賀すが希里花きりかは、元気ですか?」

 そんな勇一の言葉に、女神は空虚を見て、少しだけ間を空けてから、答えた。

「ええ……誰? その人。どこかで聞いた事があるような……?」

「3日前、|自殺した(僕の大好きな)人です。」

 そして女神は、ひどく焦りながら言った。

「うーん。そう言われても、同姓同名はたくさんいるし、そのなかで3日前に自殺した人も結構たくさんいるのよね。」

 俯く勇一に、女神は改めて答える。

「……ごめんなさい。分からないわ。」

「そうですか……。」

 勇一はその現状を理解しながら、深刻な顔でそう呟いた。

 また少しして、女神は気を取り直し、明るい顔へ変えて言った。

「そうだ! あなた、今のそのままの姿でいたい? 記憶も、そのままで生きていたい?」

「……はい!」

 勇一は女神の言葉に「もちろんだ!」と言わんばかりに熱烈に、はっきりと答えた。

(絶対に、あの人の事は、絶対に……忘れたくない。)

 そんな想いを乗せながら。

 と、その時そんな勇一に、“女神”は真面目な顔にして言う。

「じゃあ、取引があるんだけど。」

「え?」

 (取引?なんだそれ。闇取引とかじゃないよな?)

 戸惑う勇一に、“女神”は真面目な顔へ変え、答える。

「このままここに居られても困るから、ちょっと仕事してくれない?」

 そして女神は、スマホを取り出し、いじり始めた。

(……ここになんでスマホがあるんだろう。)

 まあ、そんなことはどうでもいい。

「僕まだ中3位の年ですけど。仕事させたら労基とかなんかに引っ掛かるんじゃ?この世界に労基があるかは知りませんけど……。」

 勇一は“女神”の安否を危惧して、言った。

 そんな勇一の心配に、“女神”は答える。

「いや、そういう仕事じゃなくてね……?」

 “女神”はさらにスマホをいじる。

「えーと、これでいいか。」

 そう言うと女神は、スマホの画面を見せてきた。

「あなたには、異世界で魔王退治をしてもらうわ。」

 そこには、どこかの異世界もののアニメで見たことがあるような地図が載っていた。

「……え?」

 勇一は状況が分からぬまま、そんな声を漏らした。

 そんな勇一に、

「もちろん。……ちょっとした、チート付きでね。」

 女神はそう……片目を軽く閉じて言った。

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