第七話 かつての仲間達

 和巳から、衝撃の事実を突きつけられる朧。

 陸丸達も同様に驚愕している。

 なんと、透馬達が、行方不明だというのだ。

 しかも、和巳は、「達」と話した。

 と言う事は、透馬の他にも行方不明になった者がいるという事だ。


「行方不明って……どういうことなんだ?」


「まぁ、俺にもよくわからないんだよなぁ。一年前に、起こった事なんだけど、朝起きたら、透馬がいないって、奉公人や女房が大慌てでさ」


 和巳は、思い出す。

 屋敷の中が騒がしかったため、和巳は、目覚めたのだ。

 すると、奉公人や女房が、慌てた様子で屋敷内を駆けていく。

 しかも、「くまなく探せ」や「そっちには、いたか?」など、不吉な言葉奈借りが飛び交っていた。

 これは、ただ事ではないと気付いた和巳は、奉公人に尋ねると、なんと、透馬がいなくなっているというのだ。

 昨日の夜まで、確かにいたはずだ。

 和巳も透馬と夜、会話を交わしている。

 何があったというのだろうか。

 和巳は、不安に駆られ、一緒になって透馬の行方を探した。

 だが、透馬が、見つかることはなかった。


「わかってるのは、透馬、景時様、綾姫様、夏乃様が行方不明ってことだ。それも、俺達が眠ってた間にいなくなったってことだけ」


「綾姫様達まで……」


 なんと、行方不明になったのは、特殊部隊に所属していた綾姫達だ。

 突然の事だったため、どの屋敷も、騒然としていたという。

 捜索は、一日かけて行われたが、誰一人見つかることはなかった。

 そして、次の日、彼らが行方不明であることが発表された。

 それも、深夜に行方不明になった可能性が高いようだ。

 行方は、今もわかっていない。

 手掛かりすらも、見つかっていなかった。


「それって、誰かにさらわれたとかじゃ……ないよな」


「だろうね。あの透馬達がさらわれるとかあり得ない。それに、綾姫様は、常に夏乃が護衛していた。千城家は、警護隊が警備してたって話だし」


 朧は、一瞬、誰かにさらわれたのではないかと考えたが、あの綾姫達に限ってそれはないと、すぐ否定した。

 彼らは、柚月達と共に熾烈な戦いを潜り抜けてきた猛者だ。

 寝ていたからと言って、そう簡単にさらわれるはずがない。

 特に、綾姫は、夏乃が護衛している。

 仮に、夏乃が、寝ていたとしても、逆に返り討ちにしてしまうほどの実力を持っている。

 何より、千城家は、特に警備が厳重だ。

 侵入するだけでも、困難と言われているほどに。

 とすれば、なぜ、行方不明になったのか、考えられるのは、一つしかなかった。


「つまり……」


「自ら、姿を消したって可能性が濃厚なんだよ」


「なんで、そんな事……」


「さあね……」


 朧も和巳も黙ってしまう。

 綾姫達は、誰にも知られることなく、自ら聖印京を出た可能性が高い。

 だが、なぜ、そのような事をする必要があったのだろうか。

 一体、何があったというのであろうか。

 朧は、思考を巡らせるばかりであった。


――兄さん達の事と何か関係があるのか?


 朧が、たどり着いた答えは、柚月と九十九の事に関係しているからではないかと言う事だ。

 特殊部隊に所属していた彼らが、一斉に行方をくらましたという事は、その可能性が高いであろう。

 つまり、彼らは、柚月と九十九の事に関して、何か知っている可能性がある。

 だが、知っていたとしたら、朧に知らせるであろう。

 彼らは、知らせなかったという事は、違うのであろうか。

 朧は、混乱しかけていた。


「朧、大丈夫でごぜぇやすか?」


「あ、うん……」


 考えれば、考えるほど、混乱し、朧の顔色が悪くなっていく。

 陸丸達は、朧を心配していたが、朧は、ふと我に返り、うなずいた。

 だが、不安は、そう簡単に拭えるものではない。


「まぁ、今は、捜索隊に、任せるしかないだろうね」


「捜索隊?」


 聞いたことない言葉だ。

 新しく発足されたのであろうか。

 朧は、疑問が浮かんだが、その疑問に答えるかのように和巳は、説明し始めた。


「あ、そっか。朧が、旅立った後に、結成されたんだった。捜索隊って言うのが、結成されたんだ。柚月様と九十九を探すためにね。でも、綾姫様達も行方不明になったから、今、両方の捜索を続けてる」


「そうなんだ……」


 聖印京も動いている。

 柚月達を見つける為に。

 もちろん、朧を支える為でもあろう。

 誰もが、願っているのだ。

 柚月と九十九が、見つかる事を。

 それでも、朧の不安は、まだぬぐえない。

 何が、起こっているのか、すぐにでも調べたいと体がうずいているように感じていた。


「朧……」


「わかってる。今は、赤い月の事を考えないといけない。兄さん達の事は、その後で、考える」


「いや、そうじゃなくて、背負い込むなって事」


「え?」


「すぐ一人で背負い込むからね、お前は」


 和巳は、朧の事を見抜いたかのように話す。

 実際、朧は、よく、問題を一人で背負い込むことが多かった。

 誰にも、頼らず、解決しようと。

 旅のこともそうだ。

 和巳も自分も行くとせがんだが、朧は、一人で行くと頑なに拒んだ。

 彼らを巻き込ませないために。

 それは、朧の優しさなのだろうが、時に残酷さでもある。

 朧の身を案じていた和巳は、朧の事を心配していたのだから。

 本人は、口には出さないが。


「そうでござる」


「わしらが、いるというのに」


「わ、悪かったな」


 陸丸達も朧の性格を見抜いているようだ。

 全てを見透かされている気分になった朧は、口をとがらせる。

 少し、不機嫌になったかのように。


「俺達も、柚月様達が早く見つかってほしいって思ってるんだよ。そのためなら、なんだってやるよ」


「ありがとう」


 ようやく、朧は、気付かされた。

 柚月と九十九に会いたいと思っているは、自分だけではない。

 それは、一族の願いなのかもしれない。

 だからこそ、捜索隊が発足されたのだろうし、陸丸達も、朧についていき、支えとなったのであろう。

 朧は、自分は、一人ではないと改めて気付かされた瞬間でもあった。


「そう言えば、朧は、あれ、どうするの?」


「あれって?」


 和巳は、話題を変えて、質問する。

 だが、朧は、わかっていなかった。

 あれと言うのは、どういうことなのだろうか。

 和巳は、何か知っているようだ。


「何?聞いてないの?」


「何が?赤い月の事?」


 二人の会話は、全くもってかみ合っていない。

 和巳は、朧の様子を見て気づく。

 朧は、何も聞かされていないようだ。

 朧に尋ねられた和巳は、困ったような表情を見せた。


「いやぁ……。あ、ごめん、何も聞かなかった事にしといて」


「待て待て待て!」


 和巳は、何か言いかけたのだが、突然、話をやめて、背を向けてしまう。

 だが、そんなんで逃がす朧ではない。

 和巳の肩をがっしりとつかみ、無理やり、方向を変えさせ、逃がさなかった。

 それも、慌てて。

 陸丸達も、気になったようで、和巳の周りを取り囲む。

 まるで、逃すまいとしているかのように。


「何?気になるんだけど?あれって、何?」


「いやぁ、俺から言うのは……」


「知ってるんなら、教えろ!」


 朧は、和巳に迫る。

 和巳は、何とかして、逃げ切ろうとするが、朧にせがまれてしまう。

 これ以上は、逃げられないようだ。

 和巳は、そう悟ってしまった。


「……わかったよ。後悔したって知らないからね」


「今更、後悔しないさ。どんな話が来たってな!」


 朧は、後悔しないと堂々と宣言する。

 綾姫達の事も衝撃的だったがゆえに、そう宣言したのであろう。

 和巳は、とうとう、観念し、ため息をついて、話し始めた。

 それは、朧にとって衝撃的な内容であった。

 聞くんじゃなかったと後悔するほど。


「お前、婚約者がいるんだよ」


「は?」


 朧は、驚愕して、きょとんとしている。

 陸丸達も同様だ。

 それもそうであろう。

 誰もが予想していない話だ。

 まさか、知らないうちに、婚約者がいたとは。

 それは、何かの間違いではないかと、疑ってしまうほどに。

 婚約者の話などいつ持ち上がったと言うのであろうか。


「婚約者って何?俺、そんな話聞いてないけど?」


「うん、お前が、いなくなった後に、決まった」


「はぁ?」


 ますます、意味が分からない。

 縁談の話は、自分が、旅立った後に決まったというのだ。

 そんな話、信じられるか!と突っ込みたくなる朧であったが、和巳に言っても仕方がない。

 彼も、聞かされただけなのだろうから。


「え?ちなみに……相手、誰?」


千城初瀬せんじょうはせ様。千城家の分家の姫君。帰ってきたら、婚儀を執り行うって聞いてたけど」


「……」


 朧は、絶句し、黙ってしまう。

 婚約者の話を聞いてあきれ返っていた朧であったが、ついに、怒りへと変わってしまう。

 勝吏も月読もそんな話は、一つもしていない。

 いや、昨日着いたときにするべきだった話だ。

 そう思うと朧は、居てもたってもいられなかった。


「ちょっと、行ってくる!」


「あ、おい!」


「朧!」


 朧は、立ち上がり、部屋を出る。

 陸丸達も慌てて朧の後を追い始めた。

 和巳は、一人部屋に残されてしまった。


「……やっぱ、言わないほうがよかった?」


 和巳は、後悔していた。

 やはり、言うべきではなかったと。

 だが、時すでに遅しであった。



 朧は、急いで、本堂へと向かっていく。

 人々が、朧を見るなり、挨拶を交わそうとするが、すでに、朧の姿が遠ざかっていくのが見えるほど、急いでいた。

 朧は、本堂へ入り、勝吏の部屋へとたどり着く。

 そして、勢いよく、いや、感情任せに御簾を上げた。


「おお、朧、どうした?何かあったのか?」


「……父さんに聞きたいことがあります」


 朧は、勝吏をにらんでいる。

 相当、怒っているようだ。

 朧の表情を見た勝吏は、きょとんとしている。

 どうしたのであろうかと。

 朧は、そのまま勝吏に迫っていった。


「俺に、婚約者がいるって本当ですか!?」

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