第4話
ジェーンが編入してきて、半月ほど
不思議な少女ジェーンはあっという間に同級生に
明るく活発な彼女だが、
「とても独創的なのだけど、評価の材料にするのは難しいってさ」
席に
「私としては、とってもいい出来なんだけどなぁ。レリンはどう思う?」
「えっ」
意見を求められたレリンは、返答に
ここ十数日のレリンの努力により、ジェーンの作品は糸の固まりになることなく、なんとかハンカチとしての原形を保てるようになっていた。
しかし。
(どうやったらこんなに糸が飛び出るの……? 玉結びは
そっと、隣の席のジェーンを見る。満面の笑みでレリンの評価を待つジェーンの左手の指には、包帯が巻かれている。何度も指を
そんなジェーン
「……うん、まあ、今まで見たことないような
「うふふ、ありがとう! ここまで作れるようになったのはレリンのおかげだからね。それ、シスターには返されちゃったし、よかったらもらってくれる?」
言葉に
ジェーンは、自分の裁縫の
すぐにレリンは笑顔になり、ハンカチを受け取った。デザインが
「ええ、もちろん。大切に持っておくわ」
「できたら毎日、
さすがにその言葉には、
裁縫の授業が終わり、レリンとジェーンは並んで教室を出た。
のんびり廊下を歩くレリンたちの脇を、「今日提出の課題がー!」と
「あっ……!」
裁縫箱の上に
ハンカチを拾おうと、レリンはその場にしゃがむ。それに気づいたジェーンも足を止め、
──ぐしゃり、とレリンの目と鼻の先で、ジェーンのハンカチが
「あら……
おほほ、と頭上で響く高笑い。おそるおそる視線を上げたレリンは、自分を見下ろす女子生徒とばっちり目線を合わせてしまう。
とたん、どくっ──と心臓が大きく
(貴族の、お
ハンカチに気を取られて、彼女らが接近していることに気づかなかった。いつもならすぐさま道を空けて、面倒事に巻き込まれないよう自衛に努めるのに。
レリンよりひとつかふたつほど学年が上だろう、
「……立って。行こう、レリン」
その場に固まってしまったレリンの
「あれなら、もういいから」
「……よく、ない」
「え?」
──立ち向かうのは、
でも──どうして、あのハンカチを見捨てられるだろうか。
指を何度も刺しながら、傷を
震える己の体を
──レリンの行動に、周りにいた者たちがざわめく。
「申し訳、ありません。どうか……それを返してください。大切なものなのです」
「はい?……このような雑巾が?」
令嬢も、まさかレリンが頭を下げてまでしてハンカチの返却を求めるとは思わなかったのだろう。声が
「っ、はい! お願いします!」
「…………
(ひどい
これくらいなら、軽く手洗いすれば
ほっと息をついて立ち上がったレリンだが、
「……レリン、そこまでしてくれなくてよかったのに」
「ううん……ごめんなさい、ジェーン」
「ん? なんで謝るの?」
「……言い返せなかった」
──雑巾、とジェーンのハンカチを
(
それは雑巾なんかじゃない、と言えなかった。これでは令嬢と同じように、レリンもまたジェーンの渾身の作品を馬鹿にしたことになる。
レリンの思いを察したジェーンが、息を
「何を言っているの!……私一人ならなんとでもしてやったけど、レリンはそうもいかないじゃない。それに、あんな連中に頭を下げるくらいなら、ハンカチ一枚くらい見捨ててくれてもいいのよ! 私だって、それがレリンたちのよりお
(私に、もっと勇気があれば)
もっと勇気があったら。嫌なことは嫌と言い、
(いろいろなことが、もっとうまくいったのに)
とぼとぼと歩き去っていくレリンの背中を、ジェーンはしばし見つめていた。やがて、その
「……やっぱり、あなたがいいわ。レリン」
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