帰り道寄り道

 あの後、友弥母、姉が僕の連絡先を聞いてきた。特に下心も無いので僕は快諾し、2人と連絡先の交換をした。

 友弥は『なんで壮クンの連絡先知る必要あるんだよ!!』と2人に食って掛かったていたが、僕は単純に作家として2人を尊敬してるので嬉しかった。

  終始友弥は仏頂面だったが、リビングで4人で萌え語りをすることが出来て僕は本当に楽しい時間を過ごす事が出来た。

 初めは初対面の僕を家に誘うなんて変なヤツだと警戒していた。実際の所、友弥の事をすべて知って居る訳ではないけれど、今日1日で随分と慣れた気がする。


「今日はありがとう。楽しかった」


 時刻も夕方になり、そろそろお暇すると言うと友弥が家まで送ってくれる事にになり、また柑橘の強い匂いのする車で送ってもらって居る最中だ。


「ウチの家族が失礼しました......」

「なんもだよ、あんな風に萌え語り出来たのが凄い楽しかったんだ。いままであの類の話はみちるとしか出来なかったから」


 嗚呼、みちるに今日の事を報告したいな。みちる今どうしているだろうかと思うと思わず顔が緩む。腐男子の友達が出来た事をまだ報告していなかったな。帰ったら早速みちるに連絡しようとほくほくしながら友弥を見ると、運転中な事もあるだろうが、無表情。

 僕、何かしたかな? 何か友弥の嫌な事でもしただろうか。

 一抹の不安がよぎる。何も応答してくれない友弥が怖くて直視出来ないから横目で見ていた。一拍置いて友弥が口を開いた。


「え、みちるってまさか、彼女?」

「彼女じゃないよ! 僕の可愛い妹だよ」

「そ、そっか。あの、壮クンはいま彼女居るの?」

「いない」

「そうか、よかった」

「え?」


 今、良かったって言った? 聞き間違いだろうか。車内には昼に乗車した時と同じレゲエの曲が流れている。少しボリュームが大きいので聞き取りづらいのもあるけど、確かに『よかった』って言った気がする。僕に彼女が居なくて良かったって、どう言う意味? まだ別に彼女なんて欲しいとか考えていないけど、なんだか僕に彼女なんて作るのは百年早いって思われてんのか? もしそうなら悔しいかも。

 友弥に張り合うなんて無謀というか、無意味なんだけど、なんだか癪に障る感じがしたから一応聞いてみる。


「そんな友弥は彼女いないのか?」

「いないよ。しばらくそういうのはいいんだ」

「へぇ、そうなんだ。なんか意外」

「意外?」

「あ、うん。だって友弥って......かっこいいでしょ」


 外見を褒めるのはいたたまれないが、紛れもない真実だからな。正直に賛辞を送る。まぁ当たり前だろうとドヤ顔でもしてるのかと横顔をチラ見。すると友弥の顔が赤い。どうした! 


「俺、かっこいいの?」

「あ、うん」

「本当に?」

「ああ、っていうかあんまり何度も言わせるなよ。恥ずい」

「うん、ごめんね〜」


 なんだか随分とお喜びの様子。郵便局であんだけ女性達から秋波を浴びているのに自覚無いのか? あ、同性からの賛辞だから尚良いのかな。

 とにかく友弥の様子も通常に戻った様で良かった。唯一の友達だから......大事にしたいと思っている。変な事でこじれたくはないからな。

 なんだか変な空気になり僕も無言のままでいると、友弥も耐えられなくなったのか向こうからお誘いが。


「あのね、壮クン今夜の晩飯は何にするか決まってるの?」

 独り身なので、家にあるもので済ますか、コンビニで買い食いが相場。

「いや、まだ特に考えていないよ」

「時間的にお腹空いているよね? 良かったらこれからラーメンでも食べに行かない? ここから20分くらいで着く所に俺の好きな店があるんだ」

「どんな感じのお店なの? 僕はラーメンならあっさりでも、こってりでも、創作系でもなんでも大丈夫だよ」

 麺類は正義。

「ざっくり言うと創作系かな。和風だしベースにレバーのペーストのトッピングが乗ってる変わっているラーメンなんだけど、ものすごく美味しいの。レバーは苦手だった?」

「逆に好き。もしかして結構有名な所?? そうだとしたら前から行ってみたかった所かも」

「そっか! 良かった〜では、進路方向の変更に異議無し?」

「異議無し!!」

「承知しました!」


 友弥の提案により、寄り道する事に。

 連れて行ってもらったのは近頃人気の店で、僕も前から行ってみたいと思って居た所だった。行きたいけど、1人でラーメン行くのに抵抗を感じるガラスのハートな僕は、いつかみちるを連れて行こうと我慢してした所だった。それが今日行けるなんて!!

 お味は期待以上で本当に美味しかった。店内はおしゃれで綺麗。僕1人でなら絶対に入る事の出来ない様な場所だった。

 友達が居るって、本当に素晴らしい事なんだな。1人では入りづらい所も行けるし、共感、感動を共にする事がこんなにも楽しい事だなんて、知らなかった。

 店からの帰り道、今までの人生での事を思い出して居た。これまであまり淋しい自分を自覚して居なかったが、今日1日の出来事を思い出してみると、自分から歩み寄れば違った事が沢山あったのかも知れなかったと思った。

 楽しい事を知ってしまって、これがなくなってしまったらどんなに淋しいだろうか。後で辛い思いをするくらいなら、初めから知らない方が良かったのかも知れないと、僕は随分と弱気になって居た。自然とため息が漏れた。


「壮クン、どうかしたの? 気分でも悪くなった?」

「なんでもない。お腹いっぱいで苦しいだけだから」

「ははっ、壮クン大盛り頼むからさ」

「だって食べたかったんだもん」

「また行こうね」

「そうだな。必ず行こう」


 僕の口頭ナビで自宅前に到着した。なんだか道中もあっという間だった。


「今度、壮クンの部屋に遊びに行ってもいい?」

「僕の家は友弥の家みたく何でも揃っていないし、狭いし、面白いものなんて何もないよ」

「壮クンの部屋だからいいの!」

「あ、そう。別にいいけど......じゃ、またね」

「うん、またね......」

 

 車を降りて自宅へ向かおうとした、その時友弥が車から降りてきてこちらに向かってきた。忘れ物でもしただろうか。


「あ、もしかして忘れ物でもしてた?」

「うん、忘れ物」

 

 手許にはなにも無いが何だろうと見ていたら、急に抱きしめられた。


「ええっ!!」

「おやすみのハグ。我が家のしきたり」

 そんなの嘘だろ!! ここは日本! 欧米じゃないぃぃぃ!!

「う、嘘だろぉ!」

 不覚にも驚きで声がひっくりがえってしまう。

「あまり大きな声出すと近所迷惑だよ。じゃあ、またすぐに連絡するからね。おやすみなさい」

 

 友弥のヤツ、また僕の耳許で喋りやがった! しかも低くで良い声で囁きやがって。おかげでまた僕は腰が立たなくなり、へなへなと地べたにしゃがみ込み、過ぎ去る車を見送る事に。

 顔が熱い。今日、何度ヤツにドキドキさせられてるんだ。無駄にイケメンは同性でもやられる。それは僕だからなのかな。ほかの男性はこんな事にはならないのかな。

 僕は立ち上がり熱くなった頬を手のひらでさすりながら部屋に入り、洗面所で手を洗いながら鏡を見るとトマトの様に赤い顔して目を潤ませている自分が居て、無性に恥ずかしくなり冷水で何度も顔を洗った。

 こんな欲情して上気しているみたいな顔を友弥に見られて居たなんて、恥かしすぎる。

 みちるに今夜連絡しようと考えていたが、後日にしよう。

 今日はもう。寝る。

  

 

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