糧となる
友弥の母、姉に僕らの様子を覗き見されていたのにはびっくりだったが、彼女達の職業の事を考えると、生身の男子が2人密室でBLを嗜んでいるなんて、生板ショー同然だろう。友弥は出て行ったきり未だ戻って来ない。きっと、激しく抗議してるに違いない。
暇を持て余した僕は書斎の中を改めて物色した。
BLにハマるきっかけの作品を見つけ懐かしさに浸っていた。そして友弥の母が書いた小説も発見。これも既読済み。
友弥母があの先生だったなんて、本当に信じられない。エロ描写が本当に素晴らしい先生で、初めて作品を読んだ時、不覚にも軽く勃起しそうになった。
恥ずかしいから絶対に誰にも言わないけど。
お姉さんも僕の中では神絵師で、挿絵している物はほとんど読んでいる。改めてこの奇跡に興奮が蘇る〜。
全国の腐女子、腐男子のみなさん、偉大なる作家の家にお邪魔してる事を想像してみて下さい! とてつもなく興奮します!
彼女達に異性としての興味はないけど、どんな所で執筆、作業されているのか興味津々。
まるで工場見学に来ている様なワクワク感と好奇心が僕を動かした。
書斎から一歩踏み出した。
他所のお宅を徘徊するなんていけない事だと判っているけど、あれらの作品がこの家で創造されていると思うと動かずにいられない。
外の見事な薔薇の芳香も良かったけど、壁の所々に飾ってある可愛らしいサシェから柔らかい香りが漂ってくる。薔薇の様な香りなので、きっと庭で咲いていた薔薇で作った、手作りのポプリなんかが入っているのかな。癒される。
キョロキョロと辺りを見回しながら歩みを進め、階段を降りて一階に辿り着くと、廊下の奥の方がなんだか騒がしい。
近づくと友弥が騒いでいる。
「今日の晩飯は絶対に作らないからな!!」
「いーもん、カレーの残りあるし。ねぇ母さん」
「そうね。それに見られたからって、減るもんじゃないでしょ」
「減る、大いに減る。見せもんじゃない」
「ナニ言ってんの。お陰で新作の予感よ。次は絶対にBL書く。与えられたご馳走の分しっかりと働くわ! これでまた我が家も潤う。素晴らしい食物連鎖ね」
「俺らをモデルになんて絶対にムリ! 壮クンだって怒るぞ。やっと出来た腐男子の友達を失いたく無い。きっともう2度と壮クンみたいな可愛い腐男子になんて
出会えない!」
「へぇ。友達ね......」
「な、なんだよその含みのある言い方は!」
「初め拒否、そして合体。まさしく定番ね。自覚してるんでしょ?」
「そんな訳あるか!」
怖い......この人達怖い。
でも、一流の作家にモデルにしてもらえるなんて、一生に一度もないだろう。ジャンルはどうあれ......しかし、友弥母にネタを提供出来る様なことなんて有るかな? 不本意だが...... 少しくらい協力と言ったらおこがましいが、なにも取り柄の無い僕が偉大な作家の糧となれるのなら、2人で居る所に友弥母達が居ても別に構わ無いかな。実際の所、僕の家でもないし。お邪魔している身分だし。
滅多に無いミーハーな気分が僕のコミュ障を緩和させた。
「あ、あのう。僕に何か出来る事ありますか?」
「え? 出来る事!!」
口論が続く部屋のドアを開け声を掛けた。そこに並ぶ彼女達は僕の一言に目を輝かせ食らいつく。
「ええ、有りますとも......ねぇ、お母様」
「もちろんですとも」
「ちょっ、壮クン何言ってんの!」
滅多に発動しない僕の奉仕の心が、後ほど辱めを受け、作家が糧に対しては貪欲なのだと身を持って知ることとなった。
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