人肌って怖い

 気が付けばエンドロールになっていた。なんて尊い作品だったのだろう。

 感動の余韻を味わい、自分は腐男子で本当に幸せだと噛みしめる。そして自分が今どうして居るか、冷静に分析。

「あ、あのう......」

 友弥よりも悔しいことに小さい僕は、首だけを動かし、友弥を見上げた。ぼーっと、うつろな目で前を見ている。

 感動の余韻に浸っているのだろうか? 確かに僕もつい先ほどまで余韻に浸っていたからわかるんだけど......この体勢が恥ずかしくて抜け出したい。

 ごそごそと身動いでみるけど拘束は解けない。そしてエンドロールも終わり画面が止まった。

「ねぇ、もう終わってるけど......」

 一言声掛けしても反応が無い。斯くなる上はこうするするしか無い。僕は自由になる手を友弥の脇腹にまわし、くすぐった。

「ひゃっ!」

 さすがに我に返ったのだろう。すぐに拘束は解けた、しかし。


 また捕まった。次はソファーの上に縫いとめられた。


「ちょ! ま、待って!」

 視界が天井になり、慌てふためく。自分よりも大きな体にのし掛かられ、全く身動きが取れないのに恐怖すら覚える。

 おまけに友弥は僕の首元に顔をうずめて、すりすりと頬ずりし、吐息が肌に触れてもうどうしていのか判らない! 心臓は激しく鼓動し、体温は急上昇。

 呼吸がどんどん荒くなり、まるでエッチして喘いでいる様だ。恥ずかしくて苦しくてどうしよう。

「友弥! 友弥ぁ! 離して、離せって!」

 男としてのありったけの力で友弥を退かす。ソファーからずり落ちた友弥が我に返った。

「あ......俺」

 人肌から伝わる体温って、怖い。免疫が無いから僕の心臓が壊れそうになっている。激しいドキドキがずっと止まんない。

 BLの中で出て来るソファーでエッチの疑似体験に、僕の脳内許容量はたやすくオーバーだ。知恵熱でそう。

「お、俺は......」

 みるみるうちに友弥の顔は茹でタコの様に赤くなり、涙目になってた。僕は僕でソファーで横たわったまま荒い呼吸が止まず、まるで事後の様だ。

「どうしたんだよ......」

 精一杯平常を装い、体を起こして友弥に問う。まだ心臓がうるさい。

 友弥はソファーに頭を打ち付けながらうーうー唸っている。

「壮クン本当にゴメン。無意識で、自分でもどうしたのかが......」

 自分でもどうしてこんな事したのかが判らないって、何なの? ホントやめて欲しい。心臓がいくつあっても足りないよ。

 きっと、『来花』に当てられたんだ。よく、ヤクザ映画を観た後に気が大きくなる様なのと同じで、友弥も物語の中の2人に感化されたんだろ。そう思うと冷静を取り戻して来た。

 しかし、人肌って本当に心臓に悪い。ずっと触れていたら、変な気分になりそうだ。あれが、嫌いな人間なら気持ち悪いだろうし、好きな人なら嬉しくて、気持ち良いって感じるんだろう。

 まぁ、僕には縁遠い話なんだけどな。


 友弥が触れて気持ち悪くは無かった。それは、友達だからなのかな。恥ずかしかったけど。

 あ、やばい。BLの始まりっぽい。でも、僕には関係無いな。

 

「ねぇ、友弥おもしろかったね。予想以上にグッと来た。泣きすぎてゴメン、恥ずかしいから忘れて」

 なんだか必要以上に落ち込んでいる様で、なんだか慰めたい気分だ。馴れ馴れしいかもしれないが、ソファーに伏せってる友弥の頭をポンポンと触れてみた。

 なんだか大きい黒い犬みたい。空想の犬耳が見える。

「許してくれる? 怒っていない? 嫌いにならない?」

 垂れた犬耳を着けたワンコ攻めが、受けに叱られて許しを請う図の様で、怒る気にもならない。

「怒ってない。嫌いになんて、なるわけないしぃ......」

「本当に! 良かったぁ〜」

「うわぁ」

 もう、眩しいから無駄に微笑まないでもらいたい。僕が怒っていないと判った途端に顔を上げて、僕の両手を掴みブンブンと揺らす。

 

 あーもう、本当に眩しいったらありゃしない。

 僕は友弥の激しい喜怒哀楽にされるがままにしていると、後方より物音がした。

 ちらっと後ろを見ると、入り口のドアが少し空いていた。

 こそこそ何か聞こえる。


『はうぁ! マジでリアルに始まった』

『キスはしなかったね。マジ残念』


「友弥、なんか聞こえるけど......わ!」

 僕が問いかけると同時に友弥はドアの方へ飛んで行った。


「なに覗き見してんだぁぁぁぁぁ〜!!!」

「きゃ〜」

 ドアを開くと白衣と緋襦袢が一目散に逃げて行った。


 どうやら僕と友弥のやりとりを、ずっ〜と観察されていた様だ。

 

 穴が有ったら入れるんじゃなくて、入りたい。

 

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