鑑賞会

 ようやくN先生の新作OVA『来世の契り、花の咲く頃に』が見られる。期待で胸が膨らむ。略して『来花らいはな

 この作品は原作のコミックも読んでいるが、愛するキャラ達が動き、声が付くと感動も一入ひとしお。声優のチョイスも最高だ。

「壮クン、ヘッドフォン使う? それとも大音量でこのまま見る?」

 あの音響システムで大音量で見るのはそそられるけど、実は今回のOVAはR指定無しのと、R-18ありの2バージョンで、今日見るのはエッチな方だ。

 大音量で映画館の雰囲気は捨てがたいが、外に聞こえたり、となりに友弥が居る事を考えると、なんだかとてもいたたまれない気持ちになる。

 同じものを一緒に見るんだからヘッドフォンを付けてもなんの意味も無いのだろうが、なんとなく隠れたい、隠したい。

「今日は、ヘッドフォンする」

「いいの? じゃ、これどうぞ」


 ヘッドフォンを受け取り耳に掛けた。それから間も無く本編が始まった。

 画面に釘付けになり、となりに誰が居ようが構いやしない。この作品はOVA になるくらいなので、本当に人気作品なのだが、こうして改めてアニメーションになると尊すぎて苦しくなってきた。我慢できないかも。


 戦争の頃の話しで、今の様に同性愛に寛大な時代では無く、こっそりと愛を育んでいた。しかし、赤紙が来て戦争へ......。ありがちな内容なんだろうけど、逆にそれがたまらなくグッとくる。

 幼馴染で今まで一緒に育って来た。同時に赤紙が届き、別々の派遣先。召集令状をビリビリに裂こうとするが、家族の名誉もあり堪える。

 最後の夜、もう2度と生きては会えない事を悟った2人は、狂った様にお互いを求め合う。しかし、これまで体を繋げた事の無い2人はどうやれば良いのかも判らない。でも無我夢中で弄り合う。それがものすごくピュアでたまらない。

 ようやく攻めが自分の昂りを相手に収めるも、十分な潤滑が無くて受けが苦悶の表情を浮かべるが、健気に「うれしい、一生忘れないから......」と言った時、僕の涙腺はいとも容易く崩壊した。

 もう、我慢出来なかった。


「うーっ、ぐすっ、も、もう、もー! うわぁーん」

 僕は隣に友弥がいるのも忘れて号泣。ひっくひっくと嗚咽を漏らす。涙と鼻水が大洪水。

 友弥は黙って僕の前に箱ティッシュを差し出す。

 こうなる事は予想していた。僕は、激しく涙脆い。泣くのは恥ずかしいから今日の誘いも本当にどうしようか悩んだけど、感動と見たい欲望に、背に腹はかえられぬ。

 案の定の号泣だけど、どうしても止まらない。

 自分でもエロシーンでこんなに泣けるなんて、思いもしなかった。

 健気に痛みを堪えて、今生の思いを身に刻み込む受けに感情移入しすぎて辛い。もし自分も最愛の人が遠くないうちに命を失う事を判っていたら、辛すぎて自害してるかも。

 画面の中の2人が不憫で、本当に涙が止まらない。苦しい。

 泣きすぎて疲れ、何かに寄りかかりたいとふらふらしていると、ぽすっと、収まりの良い何かが僕の体を受け止めた。

「え」

 一瞬なにが起きたか判らなかったが、確実に僕の体は友弥の腕の中に収まっていた。

「んんっ」

 驚き、体をよじり、逃げようとするも捕まえられたまま。恥ずかしいから逃げたい。でも、画面はクライマックスに近づいて行く。

 羞恥で涙が一瞬引っ込んだ。

 もう、どうしよう。心地いいけど、恥ずかしくて逃げたい。逃げたーい ! と

腕の中でもじもじしている間に、ラストシーンに......。

 明け方まで交わっていた事を微塵も感じさせない、精悍な顔つきで2人は「生まれ変わっても、きっと逢える。また、あの花畑でな......御武運を......」と、家族親戚が見送る中で硬く握手を交わし、来世の契りを誓うシーンにもう、友弥の腕の中に居ようがどうでも良かった。

 涙のダム、決壊。 

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