だらしなく緩む顔 〜友弥side〜

 萌え語りが日常茶飯事に行われる我が家は、まるでBL工場の様だ。

 小説を書く者、絵を付ける者、原作を考える者、漫画を描く者。

 そして俺も実は仕事の傍ら、姉の影響でイラストを描く様になり、たまに母に頼まれて同人誌の挿絵を描いている。

 壮クンは創作の方に興味は無いのかな? 読み専なのだろうか。  

 いずれにしても俺の力ではないけれど、我が家には決して他の家には無いだろうと誇れる書斎がある。

 通称、薔薇の書斎。

 薔薇、と言うだけ有って要はBLだらけなんだけど、ラインナップがかなり凄い。

 母がまだ若かった頃から、現在に至るまでの間のウン10年もの間に収集された数々。

 小説、コミックは発売された年月で細かく分けられ、その膨大な量は図書館並みだ。

 そしてOVAをダイナミックなスケールで見る為に設置しているホームシアターは母のこだわりである。

 ドラマCDを聞く為のコンポも設置されている。もちろんヘッドフォンは欠かせない。

 増築を繰り返し、書斎は元の倍の大きさになってしまった。

 この様な環境の為、俺がBLに染まるのには容易かったし、改めて感謝。

 今日は必ず薔薇の書斎へ壮クンを案内して、ホームシアターで約束のOVAを見るんだ。

 その前に、予定通り昼ごはんの時間だ。

 ゆうべ、母と姉におかずにされながら黙々とこさえた渾身の一品を披露しよう。

 母と姉には賛辞を貰ったが、内心不安でたまらなかった。でも壮クンはおかわりを申し出てくれた。

 終始無言なのは変わらないけど、幸せそうな顔して食べてくれている。

 内心ドキドキしながら、壮クンを見つめ続けた。自分の皿のカレーが冷めてしまうのも忘れて。

 俺はその顔を見れただけで幸せだった。

 目を合わせる事が苦手なシャイな性格。シャイが行き過ぎて、若干ツンが入っている。そのツンの先にあるデレを俺は引き出せるだろうか? きっとデレたところを見た時に俺は軽く死ねる気がする。

 少しうつむきながら、そしてなぜか少し頬を染めておかわり申し出てくれた壮クンの為に、顔がだらしなく、緩みそうになるのを堪えキッチンへ急いだ。


「トモ〜ッ変な顔」

「リアルっ! 我が家でとうとうリアルにぃ!!」

 母と姉がおかしな格好のまま、キッチンで俺の力作を食べていた。

 白衣と緋襦袢とカレーのカオス。

「ちょっと! まさか全部食べた訳じゃないだろうな」

 うちの女どもは大食漢の為、わりと大きな寸胴鍋で作ったとしても危うい。俺は慌てて鍋へ駆け寄る。フタを開けるとまだ半分近くは残っていて一安心。

 しかし、油断も隙も無い。

「壮クンがおかわりしてくれるんだから、これ以上つまみ喰いするなよ」

「だって、私たちのご飯も兼ねてなんじゃないの?」

「残念。これは壮クンの為だけに作成したの。あなた達はたまに自炊でもすればいいんだよ」

「無理っ」

「だったら、店屋物でも頼めば?」

「だって、身近に出前よりも美味しい物が有ったらそっちに注目するのは当たり前でしょ」

「そんな事俺は知らん。たまには自分が女だって事思い出せば」

「あー無理。ご無沙汰過ぎて、女性ホルモン無くなったから」

「......おっさんか」

 雄化女子に冷やかされながらカレーを盛り付け、部屋へ急いだ。

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