明日の仕込み 〜友弥side〜

 とうとう俺の家に壮クンがやって来た。

 予想はしていたけど、俺の家を見て驚いていたし、母と姉を見てドン引きしていた。

 判る、判るよ壮クン。あの女2人はちょっとどころか、相当の変人だからね。

 仕事のモチベーションを上げる為だからと言っても、只のコスプレイヤーとしか思えない。

 白衣の母の仕事は小説家で、BLをはじめにTL小説、男性向けの官能小説を書くベテランのエロ書きだ。現在、女医モノの官能小説を執筆中だ。

 一方、緋襦袢の姉はイラストレーターで、たまに商業誌で漫画を描いている。現在、出版社から依頼されたBL小説の挿絵を担当していた。今回のは男娼モノらしい。

 自宅で仕事をする彼女達は、昼夜逆転生活になったり、行き詰まると部屋から出て来なかったりと、ちょっと普通じゃないので家事の大半は、大きくなってからは俺の仕事になってしまった。昨日も普通に俺が夕食を作り、女2人に食べさせ部屋に戻した。

 2人が部屋に戻りリビングが静かになった後、俺は明日の仕込みを始めた。

 バターで玉ねぎを炒めると良い匂いがキッチンに漂う。

 ああ、良い匂いだと感心しながら手際良く作業を続けていると、この匂いを嗅ぎつけた母が現れた。


「トモ、何作ってんのー」

「え、別に......」

「もしかしてカレーかしら」

「うん、明日友達来るから昼ご飯に食べようかなって」

「ふーん。もしかして女? こんなに高い肉買ってさー」

「女な訳無いでしょ。男だよ。趣味が一緒で意気投合してさ」

「ま、まさかその子、腐男子なの!」

「そう。凄いでしょ」

「激レア!」

「しかもすんげー可愛いの」

「ちょっと、トモ。ネタ提供しなさいよ」

「バカじゃないの? 壮クンにそんな事言ったら怒るからな」

「あら、最近女っ気無いからもしかしてソッチに走ったのかと」

「違います。アレと現実は違うの」

「まぁ、私はどっちでも良いけどね。偏見ないし」

「勝手に言ってろ」

 母に一瞥して俺はまた作業に没頭したかったのに、今度は姉まで乱入して来た。


「うわー良い匂い」

「ちょっと聞いて! 明日トモの友達が来るんだけど、それが腐男子で凄い可愛い子なんだってよ」

 すると姉は目をクワッと見開き興奮気味。

「母さん、それってリアル!!」

「トモは否定するけど定番よね。初め拒否、そして合体」

「そうね、それがやおいの自然な流れよね」

「ほんっっとバカ!」

 

 母と姉は今日の仕事に区切りが付いたらしく、キッチンのカウンターに座りビールを開け始めた。酒の肴はもっぱら俺と壮クンとの妄想話だ。

 盛り上がる2人を横目に俺は黙々とカレーの仕込みに励んだのであった。

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