顔に穴が開きそう。イケメンビーム

「あの......口に合ったかな?」

「ん? うん」

 彼は不安そうに僕をじっと見ている。見れば判るだろうに。

 あっと言う間に僕は一皿を空にした。

「おかわりもらっても良いかな?」

「本当に! ま、待っててね!」

 そして彼はやたらと嬉しそうに皿を持って部屋を出て行った。

 そんなにも味に不安でも有ったのだろうか。

 僕の口がいやしいのもあるんだろうが、好物を、それもやたらとハイレベルな物を出されては夢中になるしか無かったんだ。

 もっと、うまいね、おいしいねって言ってあげれば不安にさせる事も無かったのかな。

 こう振り返ると、やはり僕は人との関わり合いが下手くそだ。これでは彼と良い友達付き合いが出来ない。戻って来たら素直に感想を伝えよう。

 そして間も無く彼が戻って来たので恥ずかしいけれど感謝の気持ちを伝えてみた。

「あの、凄いおいしいです。ありがとう」

 やはり目を見て伝えるのが当たり前なんだろうけど、どうもきらびやか過ぎる彼を直視するのはハードルが高い。

 同性なのに直視するのに罪悪感を感じてしまう僕はどこかおかしいだろうか。

 彼に対して、見てはいけないものを見てしまった様な気になる。それはあまりにも綺麗で、触れたら消えてしまう幻の様な......って僕はどうかしている。

 彼をそんなふうに例えるなんて、やはり頭がおかしい。きっと、この美味しいカレーに変な薬でも仕込んであったんじゃないのかな。

 とにかく、美味しかった事は伝えた。

 2杯目もあっと言う間に完食した。僕は大食漢では無いので2杯の山盛りでお腹はパンパンだ。

 それにしてもずっと視線が突き刺さる。彼を直視しずらいのはそのせいもある。彼は終始ニコニコしながらカレーを食べる僕をガン見していた。

 いい加減、熱い視線のビームで僕の顔に穴が開きそうだ。

 不意に視線をあげれば目が合ってしまうので、僕はずっとうつむき加減。

「ごちそうさまでした。本当に美味しかったよ」

「ありがとう。こんなに喜んで貰えるなんて思わなかった。頑張った甲斐があったよ」

「そんな......僕の為に?」


 ちらりと視線を上げると、眩しい笑顔が満開だった。

 なぜか心臓が不整脈を打った。 

 だから僕は、また見てはいけないものを見た気がしてすぐに俯いた。

 

 本当に腹立たしいくらいの美丈夫。

 長身で、しかもみちるが喜んで選びそうな洒落た服を着こなしている。

 清潔に整えられた黒髪は男らしいし、浅黒く日焼けした肌は健康的だ。半袖から伸びる腕にはしなやかな筋肉が付いている。

 まるで二次元の世界から抜け出して来たのではないかと思ってしまう。

 羨ましいと嫉妬する事さえおこがましい。

 男の僕がドキッとするくらいなんだから、女性ならきっと目が合っただけで孕んでしまうなんて言われるレベルだろう。

 なぜ休日に、こんな冴えない僕と遊びたがるのかが不思議だ。

「もちろん。壮く、あっ水森さんの為にだよ」

 ん? なんか今、言い換えた? 気の所為かな。

 それにしても僕が来るからってわざわざ前日から仕込んでくれていたなんて、正直嬉しい。

 嬉しいな......家族じゃない人に、こんな風にしてもらったのは初めてだ。

 食べ物で懐柔されてる様で単純かも知れないけど、嬉しくて、そしてちょっぴり恥ずかしい。友達っていいものなのかも知れない。まだ直視できないし、話だってまともにしていないから、お互いどう言う人間なのかも知らないけれど、この関係を大切にしたいと素直に思った。

 このワクワク感を今すぐみちるに報告したい。

 同じ趣味を持った凄くかっこいい男の友達ができたんだよって。

 でも、みちるの事だからすぐに僕らの事をBLに脳内変換するだろうけど、この際それも許してあげよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る