胃袋を掴まれて......
カレーは好きだけど、自分では作らないからレトルトかコンビニのカレーばかりだったから凄く楽しみ。
僕は期待に胸を膨らませながら本棚に綺麗に並べられたコミックの背表紙を眺めた。少年漫画もあるけれど、圧倒的にBL が多い。にわかでは無い様で、さらにホッとした。
そして好みが合うのだろうか既読の物ばかりだ。少し残念だけれど、これほどの書籍の量ならまだ読んだ事の無いものにも巡り会えるかも知れない。
ひとまず主が居ないのに物色するのに気が引けたので、部屋の中心に設置されている2人掛けのソファに腰をおろすと部屋のドアが開いた。
「お待たせしました。何か気になるのは有ったかな?」
「あ、あの、まだ全部見た訳ではないけど、読んだ事あるヤツばっかりだった」
「そうなの? 凄い。ここにあるのは俺の好きな作家さんのとか、新人でも繰り返し読みたくなる物しか置いていないんだ」
「手の届く範囲に好きな物は置いていたいもんね」
「そうなのさ、ベッド周りにタワーが出来て雪崩を起こした事が有ってね。それから部屋の整頓の為に本棚を壁一面に設置したんだ」
「でもこの部屋広いから寝転んでいても届く距離ではないでしょう?」
「うん、実はね。でもこうしたおかげで随分と綺麗になった方なんだ。以前はね、人なんて絶対に呼べる様な環境じゃなかったからね。俗に言う腐海ってヤツだったから」
胸張って自慢する様な事ではないのに随分と楽しそうだな。実は僕の部屋も月中くらいが一番酷い事になってる。
月刊誌と、月末から月初に掛けて発売される新刊が溜まり、ベッド周りには知らぬ間にブックタワーが出来る。
そして汚さに嫌になり一気に片つけるの繰り返し。
なんだ、一緒なんだと思えば尚の事警戒も解かれてゆく。
やはり見た目で人を判断するのは良く無いな、と身を持って判った様な気がするが、如何せん彼の手許に存在する物体の香りに僕の心はフォーリンラヴだ。
「すごい、やばい......」
「えっ?」
「いーにおいっ!」
彼の手許のお盆に乗せられたカレーから薫る匂いがヤバい。市販のルーだけでは成し得ないスパイスの芳香が漂う。
「もしかして、すごい凝ってる?」
「うはっ! わかるの?」
「スパイスの香りがヤバい」
「そう、俺が調合しているんだよ」
「はぁ? マジ?」
「ゆうべから仕込んだんだ」
「一晩寝かせたカレーかぁ」
きっとこれは間違いない。
「ご飯もカレーもたくさん用意してあるから、おかわりはいくらでも大丈夫だからね」
「ありがとう。じゃあ早速」
かぐわしい香りに我慢ならず、急かすと彼は僕の前にあるガラステーブルに皿を置いた。ほどよくごろんとした肉の塊に思わず垂涎しそうになる。
そして一口。
口に運ぶ前からヤバいとは感じていてけれど、これは本当に......美味い。
少し大きめの肉を口に放り込み、噛みしめる。ほろりと崩れてうまみが広がり、鼻から抜けるスパイスの香りに恍惚となった。
それから僕は無言で黙々と食べる。べらべらしゃべっている余裕が無かった。
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