やはり同類

 ドドドドーっと奥の方から音が聞こえ、やがて赤と白の衣装を纏った遠目にも

見目麗しいと判る2人の女性が、もの凄い勢いでこちらに向かってきた。

「あぁぁぁ〜ん! もうっ」

「きゃあっ! 予想以上ッ。トモのセンス最高だわっ」

 2人の迫力に僕は圧倒され、開いた口が塞がらない。

「ちょっと! 母さんも姉さんもやめてよ」

「だって可愛いんだもん。ねーっ」

「我が息子のセンスに間違いは無かったわね。さ、上がって頂戴。一緒にお茶しましょうね」

「え、あ、ええと......お邪魔します」

「どうぞ......」

 ど迫力の女性2人はどうやら彼の母と姉らしい。それにしても、もの凄い装いに度肝を抜かれた。

 母と思われる女性は、栗色の長いカールの髪を柔らかくサイドに束ね、そしてなぜここでこの衣装が......と疑問を感じてしまう事必須の女医的白衣。

 そして姉と思われる若い女性は、長く艶やかな黒髪をおろし、そして衣装はフィクションの世界でしか見た事のない妖艶な緋襦袢。

 目のやり場に困る彼女達は、なぜか僕を見て興奮している様だ。

「ごめんね。あとでちゃんと説明するからさ」 

 彼はとても申し訳なさそうに僕に頭を下げた。別にそんなにかしこまって謝罪される様な事も無いと思うのだが。

「ああ、はい」

「じゃ、俺の部屋に」

「うん」

 彼の先導についてゆこうとした時に、自分が持参した土産に存在に気づき、傍に居た白衣の母さんに手渡した。

「あの、コレよろしければ......」

「あらぁ、お気遣いありがとうございます。どうぞゆっくりしていってね」

「はい、ありがとうございます」

 現実離れしている、と表すのが一番しっくり来ると僕は1人で納得。

 神は二物も三物も......と良く言うが、美しい母や姉、そしてお城の様な家。職場も安定していて、当の本人もかなりの美丈夫。

 なんだか自分がこの場に居るのが不自然に感じ、ここに何をしに来たのか判らなくなる。

 いけない。いつもの卑屈モードになっている。

 庶民の自分と人を比べる事自体間違っているのは判っているが、あまりにもかけ離れ過ぎて、趣味が同じでも彼に対して何も共感出来ない。

 どうしよう、もう帰りたい。

 目的の鑑賞会に後ろ髪を引かれるけど、場違いな所でストレスを貯めるくらいなら、急用が出来たと偽ってさっさと帰ってしまった方が自分の為だろう。

 いつ言い出そうがかとタイミングを考えるだけでも過剰なストレスを感じる。

 所詮、リア充とは相容れない物なんだと、また1人で納得して彼の後を追う。

「さぁ、入って」

「あ、ああ」

 階段を登り彼の部屋に着いた。きっとドアを開けた先は広い部屋なんだろう。スッキリと整頓され、シックな家具で彩られた大人の部屋なんだろうと想像していた。 


 しかし。


「うっ。マジで?」

「あはは......あのう、もしかしてドン引きしたかな?」

「......さすがの僕も......驚いた」

 一言で言うと、これは凄い。ここは部屋と言うよりか、書斎なのでは?

 窓の周り以外の壁に隙間なく立てられているのは本棚で、ぱっと見た限りコミックが多いが、多種様々な書籍がぎっしりと詰め込まれている。

 そしてパソコンデスクの周りには数種類のモニターがあり、液晶のペンタブレットがある。

 体の大きさに合わせたのだろうベッドはダブルで、このベッドに掛けられてるカバーがなんとも残念な感じで痛い一品だ。バーチャルアイドルが大きくプリントされている。さすがに僕でも使わない。

 しまいに枕元にはふわふわしたウサギのぬいぐるみがいらっしゃる。彼からは想像の出来ない一品だ。

 部屋自体は凄く広い筈。きっと20畳くらいはあるのだろうが、部屋中に本棚がある所為か暗くて狭く感じる。

 この部屋のぬしと部屋を交互に見た。違和感有り過ぎて笑えない。

「あの、どうぞ入ってよ」

「うん」

 先ほどの僕の憂いを訂正します。

 彼はただのヲタクです。ただし、容姿端麗なのでキモヲタではありませんが、正真正銘の真性のヲタクでした。

 リア充め......なんて憂いていた僕の純情を返してもらいたい。

 やはり、初めて話をした時に感じた感覚は間違っていなかったんだな。良かった。

 僕には遠い人種では無いと判れば、必要以上に警戒や嫌悪を抱く事も無いかな。

「凄い部屋だね。本棚見てもいい?」

「うん、もちろんだよ。気になるの有ったら出して読んでね。そうだ、もうお昼だよ」

「あ、そんな時間だね」

「カレーは好き?」

「うん、大好き」

「そっかー良かった。実は用意してあるんだよね。今持って来るからごはんにしょうよ」

「え、いいの? じゃあ頼みます」

「ちょっと待っててね」

 彼はキラッキラした笑顔全開で下に降りて行った。

 カレーだって。正直、めちゃくちゃ嬉しかった。

 

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