薔薇のアーチの向こうは非現実の世界

 降り注ぐ日差しから逃れた先は、やたらとうるさい音楽の流れる狭い車内。フロントガラスとダッシュボードの境に置かれた芳香剤がエアコンの風に乗って臭いぐらいに芳香している。

 生憎、僕の嫌いじゃ無い香りだったので目を瞑るが、これが苦手な香りだったら速攻で下車していただろう。スッキリとした柑橘系の香りに少々癒されながら車に揺られた。

 恥ずかしい話なのだけど、同年代の人が運転する車に乗るのが初めてで、どうしていいのか判らない。

 きっと、同世代同志のドライブなら共通の話題に花を咲かせ、流行りの音楽に共感して楽しく過ごすのだろうが、今この車内に流れて居る様なレゲエの曲に共感出来る様な感性も無い。

 共感出来るのはアニソンくらいで、巷で流行りJポップには俄然疎い。

 自分はなんて残念なヤツなんだろうと密かに思って居る間に現地へ到着した様だ。

「お待たせしました。着いたよ」

「あ、はい」

 車庫に車を入れた、と言ってもその車庫がやたらとデカイ。思わず感嘆が漏れる。

「うわ......デッカい」

 僕の言葉に彼は、あははと何かを濁す様な感じだった。

 僕は車内で終始うつむき加減だったので、この家の外観などは到着するまで見過ごしてしまったが、停車後に降り立ったその先を見て次は驚愕した。

「何っコレ......」

 目の前に広がるのは、これは横文字を使って『ローズガーデン』と称するのがふさわしいと思うほどの立派な薔薇が咲き乱れた庭がある。

 定番の赤やピンク、黄色や白の色とりどりの多種の薔薇が満開だ。先ほどの車内に漂うキツイ柑橘系の香りなんて消し去るほどの薔薇の芳香に、思わずうっとりした。

「すごい。良い香り」

「なんだか恥ずかしいけれど、気に入ってくれたなら嬉しいな」

「うん、凄く綺麗だね。そして家っていうよりか、まるでお城みたいだ」

「ああー。あの、これは母と姉の趣味がエスカレートして......」

 白亜のお城だ。広々とした庭の後ろにそびえ立つ白い建物は、形こそ現代的だけど、建築物に明るく無い僕にも判るほどにこの家は相当お金が掛かって居るんだと判る。

 母と姉がと言って居たが、ここの家は相当裕福なんだろうと思う。

 なんだか気後れしてしまい、僕は立ちすくんでしまった。

「ん? どうかした?」

「いや......なんか凄くて圧倒されちゃって」

「何も気にしないで。ほら家の中は涼しいから入って。ね」

「う、あ」

突っ立っていた僕の背中に手を当てて、まるでエスコートするかの様に振る舞われた。

「さぁ、ほら入ってよ」

 男相手にそんな振る舞いてんて変だろう。なんだか女扱いされている様だ。

 もっとガツガツされた方が親しみやすいのに。気を遣っているのだろうか、居心地が悪い。

 誘導されながら薔薇のアーチをくぐり抜け、彼が玄関のドアを開けた。

「ただいま」

 家には家族が在宅中なのだろう。やはり少し多めにケーキを買って来て良かったと安堵していたその時、僕は目を疑う事となった。



 

 

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