頑張るコミュ障
頭がぽやーんとしている。
正直、昨夜は緊張を誤魔化す為に飲み過ぎてしまった。しかし、気が張っている所為か寝起きは意外に良かった。
少々だるい体を引きずりながら本日の待ち合わせ場所に向かった。
手ぶらでお邪魔は出来ないと思い、向こうの家に何人家族が居るのかが判らなかったので、とりあえず近場の洋菓子店でケーキやシュークリームなど合わせて10個を買い求めた。
そして現地へ到着。実は、なんと15分も前に到着してしまった。これは絶対にバレない様にしなくては。
まるで、遠足前日の子供が眠れず、尚且つ心待ちにしすぎて集合時間にフライングしてしまった、みたいな風に思われては癪だ。
きっと、向こうは時間通りに来るだろうから僕は5分前にでも着いた事にしておけばいい。
スッキリとした快晴の空から注がれる日差しが暑くて、保冷剤は入れてもらったが、土産のケーキのクリームが溶けやしないか心配になり、日陰を探して動こうとしたその時、1台の軽自動車が道路脇に停まった。
よく有るワゴン型の黒い軽自動車から、その小さな車体に見合わない巨体が出て来た。
「あっ、こんにちは! お待たせしていましたか?」
「ええっ、いや、別に待っていないし、今着いたばかりだし......」
実際、ここに着いてから5分くらいしか過ぎていないし。
時計を見れば、待ち合わせ予定の10分前だし、向こうの方が遅く来たけれど、結局僕の方が時間より早く着き過ぎている事がバレバレじゃないかよ......恥ずかしいっ。
こんなちっぽけな事に気を揉んでいる僕は本当にちっさい男だよな。駆け引き下手のダサ
でも? デートな訳でもないのに、なぜこんなにも駆け引きめいた事を考えて居るんだろうか。相手はまだ良く判らない相手、しかも男なんだから余計な事を考える事なんて無いのにな。ホント、自分のコミュ障にはまいる。
向こうだって僕の考えて居る様な事なんて微塵も考えていないだろうから、ここは少し、同志という事でリラックスしてみるべきだろうか。
ああ、今が夜なら酒でも飲めば尚の事リラックス出来るのにな。
ああ、ビールさん、僕に力を貸しておくれよ.......。
「ねぇ、大丈夫? もしかしてお疲れの様子かな?」
隣に並ぶと本当に大きい彼は、僕の視線に合わせる為に少し腰を折る。なんだか男として劣等感を感じるが、こればかりは仕方のない事だ。僕だって並以上の上背は有るけれど、向こうがデカすぎる訳であって。
そして若干上目遣いになる。
あーっ、こういうのって、愛読書的には萌えなんだよね。見上げる方の瞳がきゅるっとしていたら、そこで見下ろす方はドキッとしちゃうんだよな。
まぁ、残念ながら僕の目ん玉は腐った魚程度に曇っているけど。
「別に疲れてなんかいないけど、ちょっと暑いだけだから」
「そうだね。今日は予報通りに快晴だもんな。待たせてしまってごめんね」
「や、別に待ってない。まだ約束の時間前だし」
「ああ、そっか。まだ予定の時間前だったね。それでもごめんね」
彼は本当に何も悪くないのに。
こんな風に謝らせてしまうくらいなら、僕が遅刻すれば良かったんだ。僕が約束の時間よも随分早く来てしまった所為だし。
でも、表面ではああとは言っているけれど、笑顔の裏では何を考えているのかは判らない......待ち合わせ時間の何分前に来たんだよ! 実は超暇人だったりして! うわ、そんなに楽しみにしてたの! って........。
本当に僕って嫌な奴だよな。猜疑心の塊だ。
恥ずかしい話だけど、この歳になっても人との距離の取り方が判らないんだ。でも、高尚な趣味同志で知り合った彼とは出来れば上手くやって行きたい。
今までみちるとしか出来なかった萌え語りを、身近に居る人と出来たらどんなに楽しいだろうか未知数だ。だから彼とは良い付き合いになれたら良いのに。
でも、きっと仲良くしてゆくのには、僕が変わらなきゃいけないだろう。
もっと、もっと素直にならなくては。でもな、この25年培ったへそ曲がりは、今日明日で治るものでは無いだろう。
どうか僕を見捨てずに居てくれると嬉しいなと思いながら彼の車に乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます