言葉の錆びゆく音。

痛みを訴える喉の奥からこぼれ落ちた

零と一の狭間を彷徨った言葉の欠片から

なにかが壊れて死んでゆくような音がした

それが言葉の錆びゆく音なのだと知ったら

僕が口にできる言葉はすべて錆びたのかと

邪推してしまって自己嫌悪に陥りかけた


灰をかぶった過去の記憶の断片たちも

共鳴してはともに錆びて朽ち果ててゆく

居場所を失った迷い子のようなこころは

まぶされた赤茶色の錆びつきのように

燃えているようなくすんだ色に変わって

そこに温度があるのかを示しはしなくなる


硬質の塊が突き刺さる嫌な感触が残り

そのあとにはぬるりとぬめる液が流れた

液体の舐めた所から錆びつきは広がって

口にした言葉もすべてがさがさに錆び

言葉としての機能を完全に失ってしまって

なにを伝えたかったのかがわからなくなる


その錆びる音は軋みのような鈍い音で

圧倒的な滅びの報せのようにすら聞こえた

なにもかもが壊れる刹那というものは

きっとこんな感じでやってくるのだろうと

妙に納得してしまって思考を止めてしまい

無駄にすっかりお利口になった僕がいた


きょうも声が責め立てて痛みを訴える

そのひとつひとつが錆びついて死ぬのを

ぱさぱさにこころが錆びた僕が見ていると

誰も訪れることのなくなった公園の端に

一匹の錆び色のような猫が通るのが見えた

あの猫はなにかを知っているのだろうか

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