コインロッカーの夢。

生まれたてだった夢の赤ん坊だけを

最寄りの駅のコインロッカーに預けた

しっかりと鍵をかけて閉じ込めたその夢は

いまではどんな感じに育っているだろうか

あれから幾星霜もの時が流れたけれども

僕はあのころからなにも変わらないままだ


しまい込んだ夢の欠片は消えそうに点滅し

それでも確かにその息吹を示していた

最後に見た時の記憶はそんな感じだけど

それからいくつもの季節を越えたいま

どう変わったのかはわかりはしない

きれいなままでいてくれたらいいのにな


街の喧騒とひとの流れに忙殺されて

すっかりくすんでしまった僕の思いは

いまさらになり夢の存在を思いだした

懐かしい痛みが胸の奥底に走るのを

うなだれて無視しようとしたけれども

それができなくて僕はあの日の駅へ行く


ポケットの中に鍵はしっかり持っていた

鍵に記されたコインロッカーのナンバーは

雨風に曝されて色褪せてしまったけれど

まだ判読できるくらいには記憶があった

だけどここで重大な問題に気がついた

コインロッカーを開けるお金がないのだ


最寄りの駅は建て替えられてきれいだけど

コインロッカーは変わらずにあった

真新しい駅舎の中で少し浮いていたけれど

確かにまだそこにあるとわかったから

僕は少しだけ嬉しさと感慨を覚えながら

コインロッカーを開けずに駅を立ち去った

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