第8話 狼の声に狩人は銃で応える。
イオラにとびかかったかんなは射撃で目の前の人狼を釘付けにしようとした。銃口を向け、引き金に指をかける。かんなが睨み付ける先で彼女の姿がかっきえる。
「速い!」わずかある残像を視線で追い、飛ぶ。
「目で追ってたら追いつけないわよ!」間近に追いせまったかんなにイオラは勝ち誇ったように爪を振るう。
「っく!?」
かんなは爪をかいくぐるとイオラの腹を蹴り飛ばし手近なビルの庇を足場に距離を取る。
「身軽ねぇあんた。」タイミングを計って逃げようのない空中にかんながいる時を狙ってイオラは向かい討った。だのにそれを躱される。彼女が持つ人狼の心は、かんなを獲物ではないと認知した。
「あんた、その姿。人狼ね。」かんなは銃口で毛深い彼女を指す。
「あたりまえじゃん。そうじゃなかったらこんな毛だらけの姿にならないっつーの。」手の甲からうなじから何から何まで毛むくじゃらのイオラはそう言う。
「けど、胸の方は毛無しなのね。」
ライダージャケットから覗く彼女の肌色をした谷間をかんなは銃で示した。
「あー。ここらはね。しゃーないの。」狼はズンと胸を張りアピールする。
「なんか頭にくるわ。」その様にかんなは殺意を銃に封入した。
「なに? うらやましい?」イオラはたぷんと揺らしてどうよ? と、かんなに見せつける。かんなの視線が胸に向く。この瞬間をイオラは待っていた。
「便利なのよ? だいたいのやつはこれに引っかかるから。 さ! 」
顔から胸に視線が切れたその一瞬を逃さずイオラはかんな目掛けて飛び引き裂きにかかる。かんなは真上へと飛び、さっきまで自分がいた場所目掛けて銃を鳴らす。そして、壁面に足をつけるとすぐさまタンと向かいのビル目掛けて跳ね体をひねり足場にしたビルに銃を向ける。そこ目掛けてイオラが来ると彼女は読んでいた。
「こい、こい!」祈るような言葉に応えるようにひさしの土煙が縦に延びる。
「来た!」両の手にある銃に込めてある弾すべてを一点目掛けてかんなは撃ち尽くす。道を挟んで反対側のビルにかんなは手をついて体を支えるとそのまま屋上の方へと自らを跳ね上げる。
「はっはぁ! やるやるぅ!」さっき手を突いた場所にもうイオラが。かんなは壁に足をつけイオラを迎え撃った。二人は重力を無視し壁面を駆けあがる。
「結構つええのな。あんた!」余裕のあるイオラが放つ突きをかんなは内から左の銃をひっかけいなす。天地が返った銃。かんなはその銃口を無理やりイオラの方へねじ込み引き金を引いた。
「っとぉ。 普通近づいたら銃は無理なんじゃないの?」顔を狙っているかんなの銃口をイオラはひねって躱す。
「近づかれたらどうするかくらい考えてるわよ。ただの銃だと思わないで。」かんなは右手を引き銃口を隠すためにあえてイオラに密着。即座にトリガーを立て続けに4度。
「っがぁ! ってぇな!」イオラは苦痛に距離を取って腹に手を当て傷を確かめる。
「1発しか受けてないんだから痛くないでしょ。」かんなの手ごたえは物足りない物だった。
(人狼は感覚の鋭敏さと筋力の瞬発性に長じているってのは聞いてたけどここまでとはね。おそらく、一発目が当たった後すぐに身をよじって逃げたんだわ。)かんなは人狼の身体能力の高さに心底感心しそして身震いがした。彼女はそれを恐怖からか歓喜からかはわからなかった。だが、悪い気はしなかった。
「あんた、何笑ってんのさ。」イオラはかんなに指をさして言う。
(そっか。あたしうれしいんだ。)かんなは定まったうれしいという感情を顔いっぱいに出す。彼女は左手の銃を下方から上に目掛けて振りながら弾幕を張る。追い立てられたイオラは上層階目掛けて駆けあがる。
「座頭撃ち? いや。」今までにない射撃をイオラはいぶかしみ視線をかんなから切り弾丸の行く末を眺めるも意味はなさそうだった。
「結構ひっかかるのよ? これ。」耳元にささやくように聞こえた声にイオラの背筋を恐怖が駆け上がり毛皮に汗が噴く。
(獲られる!)イオラは身をよじりとにかく今と体勢を変えようとする。足の爪を壁に掛け速度を落とし身を低く沈め、そしてイオラは誰にかわからないが祈った。
その体の上を何かが飛びぬけていくのを腹の少ない毛で感じる。どうやら祈りは通じたようだ。
「ちぃ!」かんなは壁に寝るようにあるイオラの体に垂直に銃を当て追撃する。イオラは身をねじり銃口から体を逃がす。
「うるるぁああ!!」ねじって溜めた力を腕に込めかんなに抱き着くように伸ばす。その爪はかんなに反られて当たらない。が、二人の間で開いた空間、時間でイオラは体をひねり起こす。
飛び引いたかんなは窓枠に足を駆け息を整え重力無視で壁に立ちあるイオラを睨む。
(このまま壁じゃ、分が悪いわね。)少し逡巡したが、かんなは窓を破ってビルに入る。
「!? 逃げるか!?」イオラは追いかけかんなが割った窓枠を逆立ちでつかみ身を引きつけ反転し蹴りを放ちながら飛び込んだ。放ったけりは何物にも当たらずたたらを踏みながらイオラは床に四足で立つ。
「どこに行った!?」問いへの答えは背後からの銃声で帰ってくる。
「っだぁ! っきゃうん!」痛みから体が強張り動けなくなりそうになるがイオラは横にステップを大きく切り射線から逃れる。
「狭い場所じゃ不利!」イオラは乱れ撃たれるかんなの弾雨の中、壁を蹴り窓を割って外へと逃げる。
かんなは潜んでいた窓の真下から立ち上がると人狼が飛び出していった窓へと銃を構えたまま寄る。
銃の切っ先が外へ顔を出す。窓の上から光る何かがその銃をがぶっと挟み込んだ。
「ふはまへたぁ!」そのなにかは窓の外に潜んでいたイオラの口だった。
「くっ!」かんなは残った銃で噛みつく女の顔を撃ち抜こうとする。銃口の鈍い殺意を見たイオラは銃から口を放して首をひっこめる。かんなはかみつかれた銃を確かめる。
「やられた。変形してる。」撃てないと判断して弾倉を引き抜くと銃をホルスターへ収め弾倉だけを握りしめる。
「さて、どうしようかしら。飛び込んであそこで仕留めれなかった時点で私の負け? じゃないわよね?私は穴倉の兎ではないわ。」
次の手を考えているかんなの元に奥鳥羽から通話が飛んでくる。
「やな予感。」
こういう時のかんなの勘は大体当たる。悪いモノならなおのことよく当たる。
「かんな! やばいもう一人が動いた! あのほら、ほら、寝とるんやないって言ってた奴!」通話を開き、何? と聞く前に奥鳥羽がまくし立てる。
「なんですって!」かんなは反射で探知の術を使ってしまう。その探知はよく知った一人の霊力を見つけ出す。
「! あいつ。大丈夫もう一人。助っ人が来たみたい。」かんなはそれをくすりと喜ぶ。
「そ。じゃぁ。」
「えぇ、目の前の敵に集中! アイツのためにもね。 以上終わり!」言い終わると
かんなは通話を一方的に切る。彼女は祭りを放り出して追いかけてきた彼を頼もしく感じていた。
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