第5話 ハンティンググラウンドで見つけて

「何故いまだ悲鳴があがらぬ?」サーギラは一向に上がらない悲鳴に違和感を覚えた。

「どーも、狩人がいるっぽい。」

イオラは鼻をスンと鳴らして言う。


「なに? ならば他の奴らはもう。」

「あぁ、俺達以外の臭いが消えた。今しがたイクートのが。みんな虚体化されたっぽい。」サーギラとイオラは追撃者に押されていることに気づく。

「どうするよ? 虚体化されるとあたしたちはこっちの世界に干渉できなくなるけど。」尋ねた彼女は自分が発した虚体化と言う言葉に一つ身震いした。



 彼ら魔物は虚体化きょたいかという状態にされることを恐れる。

 それを死よりも。



 虚体化されるというのは死ぬことではない。ないが、現世に干渉が出来なくなるまで消耗させられることだ。


 その虚体化は時が癒すのだが、その期間は力に比例して長く伸びていく。だから、実力のある者ほど虚体化を恐れる。それは、虚体化の間は現世に干渉ができないというだけで意識はあるから。


 つまり虚体化された者は誰にも気づかれず誰にも感知されない孤独を過ごすということだからだ。力があればあるほど長い間、ずっと。現世に帰還した者はそれは死よりも苦痛であると口々に言う。



「虚体化を恐れてどうする。我々はすでに長の意向を無視して独断しているのだ。粛清も覚悟の上だ。」戦いに臨んではスマートにあるべきだと考える彼は表情を変えない。

「すでに我々しかおらんのなら。思うままに派手に行くとしよう。失われた彼らのためにも。」


「あはははは。だなぁ。」一つ笑った後にイオラは靴を脱ぎ飛ばす。全身に力を籠め、体を巡り流れる誇りある血の力を呼び起こす。

「イオラ、狩人はどこにいる。人狼であるお前の鼻が頼りだ。」

「ちょい待ち。変身に時間かかるから。」



 変身する前からすでにごわごわとしていたロングヘアはさらに硬さを増す。体も一回り大きくなり赤いライダージャケットはその圧に耐え切れずにはち切れ、胸がはだける。袖や裾から見える手首足首もごわりとした紫色の毛におおわれ彼女は人の形を離れていく。


 変身が終わったイオラは手近な街灯に跳ね上がり街の息吹を腹いっぱい流し込んで狩人を探る。サーギラも後に続いて別の電柱へと降り立つ。



「いたぁ。上!」イオラはキッと空を睨む。屋上から睨み落とすかんなと視線が交錯する。イオラはかんなを自分の相手と見定めると屋上目掛けて跳躍。その鋭い爪を振りぬいた。

「なるほど。あんたが相手ね。」かんなは眼鏡をピッと跳ね飛ばす。そして、頬から垂れる血を指でぬぐうと敵意を銃に込めて答えた。

「じゃぁ、もう一人の相手は? やっぱあたき?」

「そうなるでしょ。私一人であのクラス二人同時は無理よ。」かんなはイオラめがけて屋上を後にする。

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