第4話 ジャック・オ・ランタンの送り火

 襲撃を始めたゾンビ達は情熱と嬉々をもってイベント会場に乱入していた。人をイモ洗いにしてごった煮したような公園の中、その周辺。驚かす相手には事欠かない。この中で一人でも恐怖させてしまえばそれはたちまち連鎖し、公園内のすべてが恐慌し阿鼻叫喚のるつぼと化することは明白。そして、それはとても簡単な事だろうと襲撃者たちは考えていた。



 なぜなら彼らはゾンビなのだ。

 しかもモノホンの。

 さらに今回は特製の衣装をまとってなのだ。

 ゾンビは皆、満身の自負と共に乱入し自らのおどろおどろしさを周囲に披露していた。



 そして、困惑もしていた。



 脅かせど脅かせど、誰も怖がらないのだ。何度も何度も近くにいる女性にガーっと手を広げて脅かす。当然相手はキャー。と言う声を上げるがそれはどちらかと言うと黄色い声に近い様な恐怖と言うより楽しみの色が強くある声なのだ。さらにその声の後に笑うのだから怖がられていないのは明らかで、これでは怖がらせて勢力を拡大させる目的を果たせない。


「なんでだよ。なんで誰も怖がらないんだよ。ゾンビだぞ! ゾンビ!! モノホン激レアでしかも生の!」一人が大声でこの矛盾を周囲に問うた。

「簡単よ。教えてあげましょうか?」

「あぁ、誰か知らんが教えてくれよ!」空からかけられた、本来警戒すべき謎の声にすら彼は答えを求めた。

「ハロウィンだからよ。」長い髪を翼の様に広げ舞い降りるかんなはそういってゾンビのこめかみを撃ち抜く。

「ハロウィンだからなんだって言うんだ。」

「あんたのそれ、コスプレって思われてんのよ。じゃぁ、消えなさい。」充填した力が足らなかったのかまだ話せているゾンビの眉間に穴を開けとどめを刺す。



「まだ、結構いるはずよね。この人ごみの中一人ずつつぶしていくのもいずればれそうだし。一気にやる方がいいわね。奥鳥羽。」煙の様に消え流れるゾンビには眼を向けずにかんなは先を考える。


「じゃぁ、マーカー撒くけん眼鏡ばつけて。」ビルの屋上からかんなをサポートしていた奥鳥羽は探知に使った砂をふぅっと吹き飛ばして街を気ままに吹きかう風に乗せる。十分に乗せるとその砂が探知の対象に付着する様に術を展開する。付着した砂は奥鳥羽の力を帯びている。それは、かんながかけた眼鏡を通してみると青に光って見えるようになっていた。


「うし、ちゃんと付着した。後はかんなの腕次第。ってとこかいな。」

「任せときなさい。」かんなはさっきのゾンビの手ごたえから推察した耐久力に合わせて銃と弾に充填する力量を上げ一撃で仕留めれるようにした。


「じゃぁ、始めましょうか。」視界いっぱいに群衆を取るためにかんなはトンボを切って宙高く舞い眼鏡に映る青の光を数える。

「数は15。今の装弾的に一度じゃ無理ね。」今弾倉にある弾いっぱいまで撃って仕留められたのは12。彼女は街灯に降りるとすぐにまたトンボを切り直し青の残りを確認し、それを的確に打ち抜いた。

「これで15。」かんなは人目を避けるためビルの屋上に降り立つ。

「おっけー。ここにいるのは終わり。後はおそらくゾンビが6とでかいの2つと中くらいのが一つ。そいつらはちょっと離れとる。」

「わかったわ。さ、騒ぎになる前に行きましょう。」




 かんな達が追いかけている中にいる大きな力の内二つはサーギラとイオラだった。彼らはゾンビが紛れ込んでいたイベント会場より遠い場所を目的地に定めて移動していた。

「ここらでしようぜ。えり好みしてたらこのまま何もできずに終わっちまう。」

「そうだな。お前ら、散れ。」行け! と振り上げたサーギラの手は随伴していた鎧騎士の頭を跳ねとばしてしまう。



「あぁ! また私の頭が! なんでぇ!」脅かすどころでない彼女は頭探して群衆の中へと駆け込んでいった。

「……。あいつ、もう頭しばりつけてた方がいいんじゃないかな?」イオラはぽろぽろぽろぽろと何度も落ちては転がる彼女の頭にすこし同情した。

「頭! 逃げないでェ!」必死で追いかける彼女の頭は人波のなか蹴り回され一向に捕まらない。右へ逃げ左に逃げする頭はついにポンと誰かの足に天高く蹴り上げられてしまう。

「あたまぁ!」手を伸ばすが届かなかった頭。それは人ごみの中の一人。魔女の姿をまねた少女が受け止めた。

「なにこれ? 兜? だれかのコスプレかな?」魔女っ子がまじまじと見つめる兜は鉄色をして重かった。それはコスプレとしては非常に凝ったものに見えた。

「あぁ、ありがとうございます。いやぁ、あたしの頭生きがよくって。」頭にたどり着いた鎧騎士は人間相手に通じるかどうかわからないデュラハンギャグをぶっ飛ばしながらペコペコとない頭を下げる。

「あぁ、この兜ってあなたの? よかったわね。これ結構気合入ってるでしょ?」背中からかかった声に魔女っ子は振り向く。

「えぇ、なんせ一年に一度の舞台ですもの。気合が入らないわけないじゃないですか!」彼女は魔女っ子にグッと顔を寄せたつもりなのだろう。だが、魔女っ娘の目の前にあるのは兜が乗っかる首の穴。

「え? あんたそれ。え? 空っぽ?」魔女っ子に向けられた鎧騎士の中身はがらんどう。中身の体が見えていないとおかしいはずの首の穴から下は黒いもやもやしたものが見えているだけで身体らしきものは見えなかった。

「あぁ、暗いからかな?」夜だからと魔女っ子は納得しようとした。

「いいえ。違いますよ。無いんです。元から。」鎧騎士は魔女っ子の腕をとって首の穴に突っ込む。中でぐるぐると彼女の腕を動かし中に何もないのを確認させる。

「ね?」

「え? じゃぁこれ。コスプレじゃ?」

「ないですよ。」きっぱりと鎧騎士は否定して自分が非日常の化け物であると魔女っ子に告げる。



「どうかしました?」かっちりと固まってしまった魔女っ子をデュラハンは心配する。


「どうにも!」その問いに答える声は鎧騎士の上、空から聞こえる。抱えていた頭を上に向け、何かと確認しようとした鎧騎士は光の雨を12条浴びて霧のように消えた。


「なはは。驚いた? ほら、あれよあれえーっと。そう! ぶいあーるぶいあーる。いま流行りやん? すごいやろ。」たっと現れた奥鳥羽は魔女っ子に声をかける。

「え? ああ。うん?」魔女っ子は理解がまだ及んでいないが。理解すれば恐怖に叫んでいただろう。奥鳥羽はそれを避けるために消える様をVRだと言ってはぐらかすと人ごみに一度消え路地に入り手近な建物の屋上へと飛び上がる。



「あぶなかったわね。」先に屋上にいたかんなが奥鳥羽を迎えた。

「まさかデュラハンがおったとわね。あれが一番インパクトあるわ。なんせ中身がないないやもん。やばかったぁ。一人でも怖がられると伝染しとった。」やばいという言葉と裏腹に奥鳥羽は笑っていた。

「ゾンビも全部片付けられたけど後はデカいの3つ。」かんなは指をピッと立てる。

「ここにおる二つをちゃっちゃか片付けて残りの一個どうにかせんとね。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る