第2話 モノホンが街にやってくる

 闇を駆けて行ったワゴン車は繁華街から外れた路地裏に止まる。



「よし! もう止める者はいない。存分に怖がらせてやれ!」毛むくじゃらな女の号令で横も後ろもすべてのドアを一斉に開き中に詰まっていた闘気を街の中へと解き放った。

「あぁ! 頭! 私の頭ぁどこぉ!?」一人を除いて。



「んっと!」運転手をドラムの様に叩きまくっていた女は赤のライダースジャケットに包まれた体を一伸びさせる。

「よう。ここまではうまくいったなぁ。サギーラ。」女は外套をまとった背の高い男をサーギラと呼びその肩をポンと叩いた。

「あぁ。」彼は短く答える。

「あいつは?」

「寝たままだ。」

「あんだけ揺れたのに? あいつが作戦の中心なのにどうすんのよ?」

「あいつのことだ、起きたら勝手に暴れる。気にしなくていいだろう。私達だけで盛り上げてやろう。」

「あいつの前座みたいでやーね。」

「お前も十分恐ろしいぞイオラ。前座が嫌ならアイツが出てくるまでの間に皆を震え上がらせてしまえ。」背の高い男は女をイオラと呼んだ。



「つーこった。おめーらも存分に暴れてこい。そのためにわざわざ準備したんだろう?」彼ら以外にワゴンに同乗していたのはゾンビ。

「ええ、この日のために!」

「わざわざ傷と血を増やしたんです。存分に暴れて見せますよ!」

「どう? どう? 警官の服とゾンビってギャップよくない?」

「あたしのナースの方がギャップあるじゃない。」

「いや、一番はセーラー服に機関銃の3段ギャップのわたしだよ!」

「何言ってんだよ、やっぱかぼちゃ。ハロウィンだからこそのかぼちゃだよ!」皆、元気で意欲的で快活なゾンビ達だった。

「ははは。たのもしいなぁ。じゃぁ、行こうか。」イオラは手を振り下ろして火蓋を切る。

 襲撃隊は各々街の人波に消えていった。



 かんなと奥鳥羽は夜の闇、ビルの上を飛びワゴンを追っていた。

「奥鳥羽。どう?」

「ちょいまち。もうちょい。」オールトランスペアレントのゴーグルを掛けている奥鳥羽はそのレンズに映る舶来の魔物の痕跡を追っていた。

「そこ! 三つ先の角。」

「あった。でも、1台足りない。」奥鳥羽の指さす先の路地に降り立ったかんなは逃げ去ったワゴンを見つけ銃を向ける。

「そんでしかも空やん。」ドアと言うドアは既に開かれもういないというのは明らかだった。かんなはシートに手をあてる。

「でも、まだシートは温いから……」

 彼女らが空のワゴンを見つけたのは彼らが散ってそう遅くない時間だった。

「近くにおるってことやね。じゃぁ」奥鳥羽は上をピッと指さし二人して屋上へ飛び上がる。

「そういうこと。探査頼むわよ。」こういうことは全て奥鳥羽任せだった。

「あんたもさー。練習すればいいじゃない。少しでもできると戦いの幅が広がるのに。」簡単な探知ですら自分に押し付けるかんなを奥鳥羽は不思議に感じていた。

「私には向いてないの。」かんなは探知をしてもまともに探知ができたことがなかった。彼女が探知を使ってもある一人の力しか探知ができない。どんな形式の探知の術ででもだ。それがなんでなのか彼女はまだわかっていないが自分には探知は向いていないということなのだろうと納得していた。



 逃げ込んだ敵はどこにいるのかとかんなが見回す街。その明かりがいつもより強いことに彼女は気づいた。



「やけに明るいわね。声や音楽もする。」

「あー。今日はハロウィンやけん。それやろ。そこここの広場でイベントやってるからやないかな?」地図を広げ奥鳥羽は探査の準備を始める。

「ハロウィンね。それなら……。」奥鳥羽の探知の術が終わるまでにいままでのことを思い返す。

「見つけた。ちょっとばらけてはいるけど。大体はそこの先の公園にまとまっとる。勢力まではもうちょいかかる。」

「じゃぁちゃっちゃとやりましょ。」かんなは銃をもう一丁出して戦いの準備を整える。

「んー。けっこうめんどそう。」奥鳥羽は探知の結果に顔をしかめる。

「なにかいるの?」

「強いのが三つ。後は木っ端やけど。その3つが厄介そう。」探知の結果が出た地図を指す。

「一つだけ離れてるわね。これ、どういうこと?」地図を確認してかんなは尋ねた。

「たぶんあそこにいなかったもう一台のワゴンかもね。そんで活性が甘いからコレ寝てるのかも。どげんする?」

「こいつからやる? 外にいるのからやる?」

「動いてる奴からやりましょう。問題を起こされる前にね。奥鳥羽、マーカーちゃんとね。」

「うぃ。祭りが終わる前に片付けまっしょい。」

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