バトルロッカーズ
作久
ハロウィンパニックリーク
第1話 健全な筋肉を心は信じる
明りをつけましょぼんぼりに。だが、今日は節分ではない。が、ある意味では節分と言っていいだろう。なぜならハロウィンなのだから。そしてお祭りであるからして、血を沸騰させるのぼせ者があらわれるのまた然りである。
そんなのぼせ者の姿をみた少女は一言言った。
「気持ち悪い。」と
都市部から離れた人気のない広場。ここが今回の祭りの舞台だった。工事現場にあるような投光器に灯が入り周囲に昼をばらまく。ばらまかれた昼に浮かび上がった影は筋骨隆々の男達。締め込み姿の男衆とそれに相対する上半身裸のこれまた筋骨隆々のマッスルガイ達が作る影だった。
ハロウィンの時期というのはその祭りの素性上、海外の魔物が自らの存在の誇示による勢力の拡大を図る。昨今の日本ではそれが顕著だった。それに相対するのは日本における退魔を生業とするもの。彼らからしたら影響力を広げられてはたまったものではない。故に争う。双方とも相手に負ける者かとその鍛えた体をもって示し合わせた日に示し合わせた時、示し合わせた場所で闘争を行う。それがここ数年毎度のことでこれも今年のそれだった。
「なかなかにキレと厚みのある体をしている。」グッと両手を持ち上げながら舶来の長は締め込み姿の大将に言った。
「当たり前よ。」男衆の大将はグッと胸を張りさらにその厚みを増して見せる。
「去年はこの迫力ではおぬしに劣っていたからなぁ。しかしおぬしも、去年は細くバランスの合わなかった下半身がまるで大樹のようではないか。」ここだと指し示す様に大将は太ももから脛までを硬く収縮させて示す。
「おうよ。去年見た貴様のまとまりの良さ。あれだけはほめるべき点だったからなぁ。」両の腕に力こぶを作りながら答える。
「「さて、今年はどう転ぶか。始めようか」」
「太鼓ならせぇ!」その合図に応! と言う声と太鼓の腹響く音が祭りの開始を告げた。
祭りとは、その太鼓の音を合図にザッと両軍の男それぞれが相手を定め一対一で勝負をする。それがいつもだった。勝負の内容はお互いの肉体の素晴らしさ自信のある場所をポーズをもって示し競うように誇示し合い、その間で阿吽の呼吸を取る。そして、時至らば体を爆ぜさせ、見せつけた自らが信じる肉体一つをもってしてシンプルに殴り合う。これを一つのループとしてどちらかが倒れるか負けを認めるまで誇示と殴り合いを繰り返し続ける。それがいつものルールだった。
「ねぇ、
「さぁ? 大将がそう取り決めたからやないと? あんたが聞いてくればよかやん。かんな。」奥鳥羽と呼ばれた短い髪の少女はその筋肉展覧会をケタケタと笑いながら言った。
「やぁよ。汗臭い。」かんなと呼ばれた黒髪の少女はセーラー服の手をぺペッと振って断った。
「まぁ、あれやない。下手にドンパチやったら血ばみるけん。祭りって形にして暴れるだけで済まそうって魂胆やないと? 本気で取り合ったら半分ずつの痛み分けとかしそうやし。」
「そうかもね。でも。もしそうだったらね。」何か気になることがあるのか、かんなは含みのある言い方をする
「ん?」
「なんであたし達までこうして呼ばれてるの? 毎年。」
「そりゃ参加しろって――」
「ことじゃないわよ。事だってもやらない。ぜったい!!」
「あんたやったら混ざっても……」彼女の特徴的に平らな前面を指さして奥鳥羽は言おうとした。
「それ以上言うと撃つわよ。」銃をぴたぴたと奥鳥羽の頬に当てて言う。
「まぁあれやない。華が有ったほうがとか、見られてるって感覚がないと筋肉がキレないとかいろいろあるんやない?」眺める両軍の間にピリッとした導火線の火花じみた空気が広がるのを奥鳥羽は感じた。そろそろ爆ぜ時なのだろう。
「そうなの?」
「しらんけど。大将は“心は体を”どうのこうの言うとらっしゃったけどあたきもよう知らんし。ま、いいんやない? 別に問題起きるわけでもないし。見てて面白いやん。」汗を玉と飛ばして全身全霊で殴り合いを始めた男衆共を指さして言う。
「面白い、ねぇ……。」感性の違いからかかんなにはそう思えなかった。
「ん? ねぇ、かんな。あの奥。」奥鳥羽は雪洞投光器でない明り。舶来のナイスガイズ側の奥にある並行して並ぶ6つの明かりを指さして言う。
「車のライト?」同じものを確認したかんなにはそう見えた。そうだと答えるように明りを出す影のエンジンが咆哮を上げ、タイヤが地面をけたたましく蹴り上げ走り出す。
「急げ急げ急げ!」興奮したワゴンの中ではごわごわの毛皮じみたロングヘアをした女が運転手の頭を叩きまくっていた。
「そんなに叩いたらまえがみえねぇっす! みえねぇっすから!」
「長にとっ捕まったら終いなんだぞ! そうじゃなくても相手に捕まってもアウトなんだ! 急げ急げ飛ばせ飛ばせ!」女は知ったことかとぶっ叩き急かす。
「お前もなんか言えよ!」横にいる鎧騎士に話を振る。
「頭! 私の頭がぁ! どこ? 私はどこを転がっている。どこなのぉ! 助けてぇ!」彼女は彼女でそれどころではないようだった。
「とにかく行くんだよ。町中だったらどこでもいい。あたしらの存在を知らしめせればそれでいいんだ!」
3台のワゴン車は広場を真一文字に突っ切ると街につながる夜の闇の中へと消えていく。
「奥鳥羽!」
「はいなぁ!」祭りに興じていない彼女ら二人はそのワゴンを追い同じく闇にとぷんと溶け込んだ。
「!? 誰だぁ! 誰が出ていった!」長は自らの意にそぐわぬ動きをする一団に驚く。
「わかりません!」
「誰か追いかけろ! 何かあっては事だ!」
「貴様ぁ! 儂らの勝負を無駄にするかぁ!」大将が動揺する舶来の長とナイスガイズを一喝する。
「しかしだな。騒動になれば人死にが出るかもしれんぞ。」
「儂の子飼いが追うておる。それに今日はなんぞ。大過などなし!」
「お嬢たちだけで大丈夫っすかね。」大将の脇で仕切りを続けている少年が闇を睨んで呟く。
「構わぬ! 我らは今ここで男比べをすることこそが大事!」
「さぁ! 舶来の。次のラウンドを始めようぞ!」大将は一切の迷いを体に見せずポーズを切り出す。
「ふん。そこまで言うなら。答えねば男ではない。皆の者行くぞ!」
「応!」大将は乱れた祭りの軌道を力技で戻して純粋な男の、男とはを比べ始める。ただ一人を除いて。
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