第捌話 【2】

 テールムの男性から何かを受け取った雷獣さんは、それを手に取り付けます。


「それは妖怪の力を倍増させる装備です。さぁ、雷獣さん。邪魔者を消して下さい」


 ハッキリと邪魔者って言いましたね、僕の事を。それならそれで、僕も容赦はしません。


「さぁ、退場して貰おうか、妖狐椿! 雷牙らいが!


「……そんなの、僕の能力の前で通用すると思っているんですか? 術式吸収」


 右手を影絵の狐の形にし、雷獣さんの妖術をそこに吸収させます。

 僕には妖術は効きません。黒狐さんの力から得た、僕だけの特殊能力がありますからね。しかもそのあと、それを強化して返せます。


 ただ、雷獣さんのあの装備から、黒い妖気を感じるんだよ。獣神の妖気? それにしてはもっと禍々しいような気がするけれど……あれは……。


「雷獣さん……その装備。良からぬ力を感じますけど、分かってますか?」


「ふん。そうだとしても関係ない。妖怪の力を知らしめる事が出来るなら、例えこの身滅びようともぉおおぁああ!!」


 そう叫ぶ雷獣さんは、もう獣そのものになっちゃっていて、全身雷を身に纏い、光速の速さで飛んできます。


「うぐっ!!」


 流石にその速さは対応出来ません。あっという間に雷獣さんが懐に飛び込んできて、そのままみぞおちに肘鉄を受けてしまいました。


「黒槌土塊!!」


 ただ、そのまま僕だけダメージを受けるわけにはいかないから、尻尾や毛の色を黒く変化させた後に、尻尾を硬く、ハンマーのようにして雷獣さんに攻撃します。


「遅い!」


 でも避けられました……速い!

 前に戦った事があるけれど、あの時よりも速くないですか?! その腕に付けた、良く分からない機械のような装備のおかげって事ですか。


 だけど、僕は見抜いています。その装置の中央にある黒い宝玉のような球体。そこから黒い妖気が放出していました。


 そこを壊せば……。


「…………ふむ。少しこうしましょうか」


 だけど、黒いソファーに座っていたテールムの男性が、雷獣さんの動きをみながら、手元にある何かを触り始めました。

 まさか、まだあの装備になにか仕掛けが……しかもそれ、雷獣さんに教えていないとか、そういうものじゃないでしょうね! そうだとしたら、雷獣さんが危ない。


「させません! 黒炎狐火、鉄糸てっし!」


「……おっ?」


 僕は黒い狐火を細い糸のようにしてから、急いでその機械に向けて飛ばし、一瞬で破壊しました。

 相手はちょっと驚いていますね。でも、次の瞬間には冷静になっていて、そして僕の方を見ながらニヤニヤしています。


 何がおかしいんでしょうね。


「残念、ダミーです」


「……はっ! あぐっ!!」


 すると、男性の反対側の手から同じ機械が出て来ました。その瞬間悟りましたよ。

 やられた……何だかわざとらしかったけれど、雷獣さんを助けようとして必死になったいました。


 僕にわざとダミーを見せつけて、何かあるように思わせて、本当はそっちだったんですね。


 しかもその男性が、本命のその機械に付いているボタンを何個か押したあと、雷獣さんのスピードと威力が更に上がり、僕の喉元を掴み締め上げてくる。更に、そのまま押し出してきます。


「うぐぉぉおおお!!」


「雷獣さん! 雷獣さん! あなた、もう意識が……! がはっ!」


 雷獣さんはそのまま僕を壁に叩きつけると、徐々に力を込め、そのまま僕の首をへし折ろうとしてきます。

 白狐さんの力から得たもう一つの僕の能力、防御力を跳ね上げる能力を使っているけれど、それでも首の骨がいかれそうになるよ。


「力……力!! 妖怪の恐怖を! 恐怖を与えるのだぁああ!!」


「くっ……ら、雷獣さん。か、体が……」


 そして、雷獣さんの体はみるみるうちに大きくなっていき、体毛が増え、獣らしさが増していきます。このままだと、この学校を潰しちゃう。


「くっ……!! この!!」


 とにかく、この部屋でこのまま戦うのは危険だから、僕は雷獣さんの両腕を掴み、体の重心を後ろにすると、右足を蹴り上げ、壁に付いた背中をずり降ろして地面につけると、その勢いで雷獣さんを僕の背後に投げ飛ばします。


 つまり、僕の背後の壁を破り、そのまま雷獣さんを外へと放り投げたんです。


 このまま大きくなられるとマズいです。戦うなら外。

 でも、この学校の生徒達に、先生達に見られるかも知れない。そうなると、僕の今までの苦労が……いや、これは雷獣さんが悪いです。


 ただ、簡単に信じてしまっていた僕も僕です。だけど信じたかった。それなのに……裏切ってくれたね、雷獣さん。


「おぉぉォォオオオオ!!」


 僕に投げ飛ばされ、体の向きが上下逆さまになった雷獣さんは、雄叫びを上げて妖気を高めていきます。

 いや、これは……腕に付いた装置が雷獣さんの体に食い込み、そこから黒い禍々しい妖気を流し続けている。それで雷獣さんはあんな体に……。


「素晴らしい!! これが原初の妖気! 流石だ! これがあれば、妖怪どもを兵器として運用出来る! 現代兵器などひとたまりもあるまい!!」


 それを見て、僕の背後ではテールムの人が興奮気味になっています。あなたは後……先ずは雷獣さんを何とかしないと。

 空中で体勢を立て直し、更に体の大きさが大きくなった雷獣さんは、大きな二足歩行の獣のようになっています。


「うわぁあ!! 何あれ?!」

「ちょっと、逃げた方が……!」

「落ち着け! お、おお落ち着いて、団体行動で!」


 すいません、先生が落ち着いていませんよ。

 流石に校舎と同じ高さになった雷獣さんを見つけ、校舎にいた皆がパニックになっています。とりあえず香奈恵ちゃんは何処でしょう。


 とりあえず僕も外に飛び出して、宙に浮かびながら香奈恵ちゃんを探します。


「お母さん?! その妖怪さんは……」


 あっ、居た。2階の丁度中央の教室から、心配そうな顔を窓から出した香奈恵ちゃんが居ました。


「香奈恵ちゃん! 皆の避難誘導お願い! それと、半妖の子達と協力して、皆を落ち着かせて!」


「わ、分かった! でも、危ないよ椿ちゃん!!」


 香奈恵ちゃんが僕に向かって叫んでいるけれど、大丈夫です。使いすぎなければ、神通力も使いこなせているからね。

 そして雷獣さんは、もの凄い量の雷を腕に纏って、宙に浮いている僕を叩きつけようとしてきています。


「……雷獣さん。最近の僕の事、全く見ていないですよね。僕を処理しようとしているなら、今の僕の力くらい、把握しておいて下さい」


 だけど僕は、振り下ろしてきた雷獣さんの腕を掴み、しっかりとその攻撃を受け止めました。


「てぃ!!」


 そのまま遠心力を使って、雷獣さんを勢いよく僕の背後に投げ飛ばして仰向けに転ばすと、直ぐに妖術を発動します。


土塊牢どかいろう!」


 僕がそう言うと地面が動き出し、そのまま雷獣さんの体に纏っていきます。その後に妖気を飛ばして、それで思い切り固めていします。普通なら、こうなるともう身動きは取れないよ。全身を地面に覆われているようなものだからね。


「うぉぉおおおお!!」


 だけど、それを壊して脱出しますか。腕に取り付けた装置から出る黒い禍々しい妖気は、相当な力を与えるみたいですね。


「それなら……巨槌土塊棍きょついどかいこん!」


 本当は気絶させずに腕の装置を取りたかったけれど、こうなったら一度動きを止めないといけませんね。

 そして僕は、尻尾の毛を増量して大きくしていくと、巨大な球体みたいにして硬質化させます。


「これで……ちょっと寝ていて下さい!!」


「がふっ……!!」


 それで起き上がろうとした雷獣さんの頭を叩き、その場に倒れ込ませました。


「風斬り、鋭刃えいじん


 ついでに風の妖術を発動して、鋭利な刃物みたいにすると、それで雷獣さんの腕についている装置を真っ二つにしました。


「……やはり、あなたは欲しい。椿さん」


 すると、その様子を上空から、足に付けた謎の装置で浮いているテールムの男性が見てきます。


 そして、僕を品定めするようにして言ってきました。


 りますか? もうあなたは許しませんからね。このまま逃がすこともしません。今回は楓ちゃんはいないから、間違って吹き飛ばす……なんて事にはならないよ。

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