第捌話 【1】
それから僕は、気絶した飛君と香奈恵ちゃんを連れて、香奈恵ちゃんがいつも通っている学校へと飛んで来ました。
2人揃って卒倒しちゃうなんて……まぁ、妲己さんが卒倒した時点で薄々勘づいてはいたけどさ。
はぁ……もうちょっと改良しましょう。
「とりあえず、2人とも起きて下さい。もう学校ですよ」
「うぅ~ん。アレはもう勘弁~」
「甘くて酸っぱくて辛くて……」
まだ唸っているね。
そんな2人の尻尾を掴んで引っ張り、学校の中へと移動して、職員室へと向かうんだけど、途中で生徒の人達や半妖達に会うたびに、チラチラとこっちを見られるのが気になりますね。
「僕って、目立つのかな?」
「そりゃあ皆のアイドル椿ちゃんだもん。ここの学校の全生徒は、椿ちゃんのファンにしておいたから」
「しておいたからじゃありません」
「ふぎゃぅ!」
君の仕業でしたか、カナちゃん。今のは完全に親友モードじゃないですか、親指を立てないで下さい。
だから、思い切り尻尾を握っておきました。ついでに気が付いたのなら立って欲しいところですね。
「はい、それじゃ立って下さい。別に体に異変はないはずですよ」
「それなんだよね~味はこの前よりパワーアップしているのに、体調は良くなるんだよねぇ。はい、飛君も起きて」
「へぅ……あ、あれ? 疲れがない……?」
香奈恵ちゃんが飛君を起こすと、飛君もすぐに目を覚まして、自分の体に起こった事に驚いています。
卒倒しているけれど、むしろ体は元気一杯ですからね。そりゃ不思議でしょう。
「よ~し、これならもっと修行を――」
「はいストップ。飛君、君は目を離すといつでも修行してるしさ、友達付き合いというか、そういうのも大事だと思うんだよ。だから君は、今日から香奈恵ちゃんと同じ学校に通って下さい」
というのを昨日言ったはずなんだけれど、この子多分忘れているよね。
「へっ? がっこう……えっ、学校に通って良いの?!」
「えっ……あっ、う、うん」
「やった……やった~!!」
あれ? 凄く喜んでる。普通戸惑ったりすると思うんだけど、学校に関しての知識はあったの? というか、他の生徒達が凄い見てるよ。
「飛君。学校知ってるの?」
「うん、いつも道を歩いている子達が、楽しそうにそこに行っているのを見てて、僕も行きたいと思ってたの。ここが学校なんだ……凄い~ここに通って良いの?」
「あっ、うん。そうですよ」
調子が狂います。目をキラキラと輝かせていて、楽しい場所に通えるって思っちゃってます。そんな良いものになるかは、この子次第なんですけどね。
「それで、君の歳が分からないから、とりあえず香奈恵ちゃんと同じ……じゃダメそうだから、校長に相談するね」
僕が言った瞬間、香奈恵ちゃんが凄く嫌そうな顔をしちゃいました。同い年は嫌なんだね。飛君の事は弟にしたいんだね、分かりました。
「それじゃあ、香奈恵ちゃんはいつも通り、教室に向かって下――」
「おっはよう! カナちゃん!」
「あっ、おはようリエちゃん!」
そう言おうと思ったけれど、既に香奈恵ちゃんは友達と一緒に向かっていました。
懐かしいな……僕もあんな風に、カナちゃんと一緒に学校に通ってたんだよね。
するとその後、香奈恵ちゃんがチラッとこっちを見てきます。まるで僕の心でも読んだのか、嬉しそうな笑顔を向けてるよ。
「カナちゃん……」
あれ、でも違う。口元が「頑張ってね」って形に……はっ、後ろに沢山の人や半妖の人達の気配が。
「あの……椿さん!」
『サイン下さい!!』
しまった……! 香奈恵ちゃんのさっきの嬉しそうな顔はこれでしたか。気が付いたら沢山の生徒達が僕の後ろに並んでいて、手にサイン色紙とか、Tシャツを持ってました。だけど、僕にはやることがあるんですよ。
「ごめん! 今日はこの子がここに通うことになるし、その手続きをしないと駄目なの。終わったらね」
『は~い!!』
皆元気良いです。その後、そろそろ授業が始まるようで、関戸達は急いで教室へと向かっていきました。
その中には当然、半妖の人達もいます。僕はこうやって、人も半妖も妖怪も、皆が仲良く暮らせる世界を実現したいんです。
「さっ、飛君行くよ」
「うん!」
そう言って、僕は飛君の手を握ります。顔がウキウキしていますね。こんな飛君も初めてです。
―― ―― ――
職員室に向かい、僕が色々と事情を説明した後、担任の先生が飛君を連れて行きました。
飛君は、心配しないでといった顔をしていたけれど、やっぱりちょっと不安ですね。
校長である雷獣さんに念押ししておこうかな。色々と報告も聞きたいし。また確認をしておきたいからね。
そして僕は、1人校長室へと向かいます。
「さて、雷獣さんは良からぬ事を考えていないかな」
あの人は昔、妖怪センターを乗っ取り、時代の流れに乗るべきだと、色々と強行していた妖怪さんなんです。
その考えも分かるけれど、ちょっとやり過ぎてしまっているんだよね。
「――――」
「――――助かります」
校長室の前に行くと、中から声が聞こえてきます。来客かな? どうしよう。帰るまで待った方が良いかな。
だけど、そう思った僕の耳に、とんでもない単語が飛び込んできました。
「では、我々はテールムに協力を――」
「テールム?!」
それを聞いた僕は、思わず校長室の扉を開き、中に飛び込んじゃいました。
当然中には来客がいて、雷獣さんとその人が驚いています。でも、僕はその人に見覚えがありました。
その男性は……確か夜行さんの馬を奪い、別の馬の妖怪さんと交換させ、良からぬ事を考えていた人。なんでこんな所にいるんですか? なんで雷獣さんはこんな人と? もしかして雷獣さん……。
「これは、椿理事長。どうしました? 血相を変えて」
すると、雷獣さんは表情をいつものように戻して、僕にそう言ってきます。平然としていて、悪びれた様子もないなんて……本当に、何を考えているんですか、この妖怪さんは。
「雷獣さん。その人が、テールムがいったいどういう組織か知っていますか?!」
それに、やけに丁寧口調なのが引っかかりますね。しかも雷獣さんの目は、もう僕を邪魔者として見るような目をしています。
「武器密輸組織……でしたっけ? 妖怪を武器として扱おうとしていたりしていましたね」
「知ってて……!!」
雷獣さん、それを知っていてテールムと手を組むのなら、僕の権限で校長をクビにするよ。
この学校に通う半妖達を、テールムに引き渡そうって思っているのなら、容赦しないからね。
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。まさかあなたがここの理事とはね……いや、あなたにもしっかりと話を通すべきでした」
「話を聞く気もないよ」
相変わらずのワカメみたいなボサボサ頭で、面倒くさそうな目をこっちに向けているけれど、良からぬ事を考えていそうな目には間違いないんだよ。
「やれやれ……あなた達妖怪を、無下に傷付けるつもりはありません。半妖もです。あなた達の存在を知らしめる為、協力をするということなんですよ」
「へぇ……それで僕達は、どこの国へと飛ばされるんでしょうねぇ!」
「そんなのは憶測で……」
「証拠はあるんですよ。捜査零課の知り合いから聞かされていますから、妖怪達が海外のブローカー達に売買されているってね!」
「…………」
黙りましたね。しかも僕は、懐から取り出した妖怪専用のスマートフォンで、あの人から送って貰った写真を見せつけています。妖怪達が売買されている所を、隠し撮りした瞬間をね。
もちろん、このあと妖怪達は助けられているけれど、テールムがそんな良い組織じゃないことは、その名前を聞いた時から知らされていました。
「……言いたい事はそれだけですか? 椿さん……」
すると、黙ったテールムの人に変わり、雷獣さんが話しかけてきます。
「雷獣さん……」
「残念だが、私はそれを分かってテールムに協力をするんだ。良いか、人間達に舐められたら終わりだ。どんな形にせよ、妖怪を畏怖するという、私の最初のスタンスこそが、妖怪の存続を安定させるんだ!! 馴れ合いなど、私は最初から反対なんだよ!!」
「……そう、ですか」
雷獣さん……あなたはやっぱりまだ、そういうことを考えていたんですね。学校の半妖達を手玉に取ろうと、僕の夢を潰そうと……。
「分かりました、雷獣さん。あなたはずっと、僕の敵だっていうんですね!」
「その通りだ!」
そして雷獣さんは立ち上がり、テールムの人から何かを受け取ると、僕の方へと近付いてきます。
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