第拾壱話 【2】

 電話を切った後、大嶽丸が僕を見てきます。


 電話の会話を静かに聞いていたから、何か思うところでもあるのかな?


「話はだいたい分かった。その悪い事をする人間達を、懲らしめに行くんだろう?」


 違う。この鬼さん、人間達相手に暴れられると思ったみたいで、目を輝かせてニコニコしながら僕を見ていたよ。


「懲らしめるかどうかは分かりません。さっきの電話相手の人達が何とかしてくれたら、それで良いです」


「無理だろうがなぁ」


「なっ……!」


 僕の言葉に、大嶽丸が馬鹿にするような感じで言ってきます。ちょっと今のはムカッとしたよ。


「そんなの――」


「分かるんだよなぁ……人間ってのは、強大な力を手にしたり、強大な力が手に入ると分かれば、見境がなくなる。それは今も昔も変わらねぇだろう? 原爆、水爆、色々危ねぇもん作ってやがるだろう? 今は何だ……機械か? そこにも恐ろしい武器を作ってるだろうが」


 コンピューターウイルスの事かな? ハッキングの事かな? 心当たりがあり過ぎて言い返さないです。


「なぁ……俺達妖怪はコソコソと隠れ潜み、時に人を驚かす。時に人を脅かす。そんな程度で良かったんだよ。復活してから今までの間、ちょっと調べただけでここまで分かったよ。人間は変わらねぇ」


「…………」


 僕が反論出来ない事を良いことに、大嶽丸は矢継ぎ早に言ってきます。

 頭の隅ではそういう事も考えていたよ。でも、だけど……妖怪は何も怖いだけじゃないんだよ。


 そりゃ怖いのもいるし、人間に害を与えるのもいます。でも、そういう妖怪達を僕達が制していれば、何も人間を怖がらせずに生きていく事だって、出来るんじゃないのかなって、そう考えていたのに……。


「お前が余計な事さえしなけりゃ、人間達の厄介な組織に……へぶっ!」


 すると、まだ僕を責め続ける大嶽丸の頭を、天逆毎さんが思い切り殴り付けました。

 大嶽丸の顔が面白いくらい変形していたよ。どうなってるの? その顔は……。


「確かにその通りだし。人間には良いところがなくて、悪いことばかりしている。退治するべきだよね~」


 あっ、これ……天逆毎さん逆の事を言ってる。つまり、良いこともしていると捉えたら良いのかな?


「何だよ! だったら叩く必要以上ねぇだろう! おっさん!」


「…………」


 あぁぁ……言っちゃった。大嶽丸がとんでもないことを言っちゃった。

 それを聞いた天逆毎さんの顔付きは、見る見るうちに鬼のような形相になっていきます。


「大嶽丸。ちょ~っと、こっちで楽しいことしようか~」


「な、なんだよ……おい、離せ! こら!」


 そして、大嶽丸は首根っこを掴まれ、天逆毎さんに部屋の奥へと引きずられて行ってしまいました。ご愁傷様です。

 大嶽丸は、あの妖怪が天逆毎だって気付いていないのかな? それとも、天逆毎の事は分かっていても、逆の事を言う体質だって事に気付いていない? 良く分からないです。


「お、お母さん……これからどうするの」


「ん~家に帰って考えます」


 僕の考えが甘かったのかも知れません。

 別に急いではいなかったけれど、なんだろうこれは……まるで誰かが、僕達の存在を知らしめているような、そんな感じがします。


 いえ、考えるのは後です。とにかく今は……香奈恵ちゃん達を何とかしないと。

 妖怪化した大量の動物さん達に掴まって、尻尾をもふもふされまくってます。


「香奈恵ちゃん、飛君……大丈夫?」


「大丈夫じゃない~こんなもてなしは要らないよ~」


「うぅぅぅ……」


「もてなしじゃなくて、もてあそばれているけどね」


 しかも、僕が2人に声をかけた瞬間、その動物さん達が一斉にこちらを向きました。


 マズいです。僕までもふもふターゲットの標的に……。


「白狐さん黒狐さん……香奈恵ちゃん達を連れて、直ぐに離脱――」


「うむ、じゃがな椿よ」


「手遅れだ」


「あっ……!!」


 後ろを振り向いて、背後に居る白狐さん黒狐さんに作戦を伝えようとしたけれど、既に2人とも、妖怪化した動物さん達に捕まっていました。

 しかも、とっくにもふもふされている! 何ここの動物さん達は……。


「ちょっ……」


 しかも、そのまま僕の方に近付いて来ている。

 待って下さい。僕達はこれから帰って、色々と起こっている事の対策を……。


「あ、あの、僕達そろそろ帰って……」


「そうね。あんた達は用が済んだら早く帰りなさいよ。正直邪魔だし迷惑だし。強敵だった大嶽丸も何とかなったんだから、帰ってくれた方がありがたいわ」


「ひぇっ?!」


 僕が目の前から迫る動物さん達から逃げようと、ゆっくりと後退っていると、後ろから天逆毎さんの声が聞こえました。


 あれ? 大嶽丸はどうしたの?


「あ、あの。僕達は早く帰って、色々と――」


「そうでしょうね。だから早く帰りなさいよ」


「いや、あの、尻尾……」


 天逆毎さん、完全に僕の尻尾を握っているんですけど? 帰れないどころか逃げられないよ。


「あ、天逆毎さん?」


「全く……なんで私がこんな事しなきゃならないのよ。あんたらが暇そうだから、仕方なく労うんであって、あんた達が忙しかったらこんな事しないからね」


「えっと……」


 もしかして、根を詰めすぎだって言っているのでしょうか?

 僕の尻尾を引きずりながら、部屋の奥へと連れて行かれているんですけど……。


「椿よ。たまにはゆっくりした方が良いだろう。天逆毎がもてなすというのであれば、快く受けた方が良い。そうでなければ……」


「あっ、飯綱さんみたいに……」


 天逆毎さんの機嫌を悪くしてしまったら、一瞬で遠くへ吹き飛ばされちゃいますからね。

 白狐さんの言葉に、ここに着いた瞬間、調子に乗って吹き飛ばされた飯綱さんの姿を思い出しました。


 そうなると、今日はここでゆっくりとお世話になるべきですね。確かに最近の僕は、あんまりゆっくりと出来ていなかったです。


 たまには遊ばないとだよ。


「しょうがないなぁ……それじゃあ、ゆっくりと遊ばせて貰おうかな~」


「ん? 椿よ、その雰囲気……」


「何時ぞやの、ストレスが溜まりすぎて遊びまくった時のような……」


 何だか白狐さんと黒狐さんが震えている気がするけれど、気にしません。

 それに、妖怪化した動物さん達が、僕の様子を見て目を輝かせていますからね。


「おっ、椿ちゃん。俺達と遊ぶかい?」


「ふふ、遊びに関しては私達はプロよ」


「野生で培った体力と、動物の能力を思い知って貰うぞ!」


「へぇ~面白そうですね」


 各々そう言うと、妖怪化した動物達が自信満々な表情で立ち上がり、まるで歴戦の勇士みたいな雰囲気を出してきています。

 そうなると、僕もちょっと本気で遊んでみたくなります。久しぶりに羽目を外しちゃおうかな。


「なに? お母さん皆と遊ぶの? 私も遊ぶ~! もふもふされるよりマシだし」


「ぼ、僕も!」


「いかん! 2人とも!」


「もふもふされる方がまだマシだぞ!」


 僕達を見て、香奈恵ちゃんと飛君も遊ぶ気になってくれたけれど、白狐さんと黒狐さんがそんな事を言ってきました。


「もう~なんでそんなに拒否するかな~2人も一緒に遊ぶよ~」


 そして僕は、影の妖術で白狐さん黒狐さんを捕まえると、そのまま引きずって動物さん達と一緒に、この家の玄関へと向かいます。


「ま、待て! 椿よ、落ち着け! 羽目を外しすぎるな!」


「俺達は全力のお前の能力に、ついていけないんだからな!」


「またまた~」


『頼むから話を聞け!』


 そんなに必死に懇願するなんて、ただ遊ぶだけなのに。ちょっとショックだよ。


「白狐さん黒狐さんは、僕と一緒に遊ぶのが嫌なの?」


 だから僕は、涙目になりながら2人にそう訴えます。


「うっ……嫌、ではないのだが……」


「その……椿の全力の遊びについていけないというか……」


 まだ折れないから見つめておきましょう。2人ともたじろいでいて面白いけどね。


「ぐっ……うぅ」


「ぬぅぅぅ……」


「…………」


『分かった! 分かった!!』


 僕がずっと見つめていたら、白狐さん黒狐さんが悶え始め、そしてようやく折れました。これでやっと皆と遊べるね。


「それじゃあ早速行きましょう~!」


 その後僕は、グッタリと項垂れている2人を、影の妖術で掴まえたまま、動物さん達と一緒に外へと向かいます。


「つまんなそう~」


 その後ろからは、天逆毎さんも着いてきていました。


 あれ、これ……ちょっとやそっとの遊びじゃなくなるかも。まぁ、良いよね。楽しければそれで。

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