第拾壱話

 その後、おじいちゃんの部屋に行った僕達は、またおじいちゃんの前に座ります。横には咲妃ちゃん、そして香奈恵ちゃん……なんで君まで横に?


「香奈恵ちゃん、皆と遊んで来て」


「やっ!」


 僕の袖を掴んで離さないです。もしかして、咲妃ちゃんに僕を取られると思ってる? 会ったばかりの人でそんな事にはならないでしょ?


「可愛いですね~その子の尻尾も触りがいありそう……」


「へっ? お、お母さん……」


「あなたの娘さんですか~宜しくね~」


 とりあえず、その好奇心でキラキラと輝く目は止めて欲しいかな。香奈恵ちゃんも身の危険を感じて、僕の陰に引っ込んじゃったよ。


「僕は椿です。そしてこの子は娘の香奈恵ちゃん。でも、あんまり弄らないでね。この子、まだそういうのは慣れてないから」


 そして、今更ながら僕は自己紹介をします。

 敵かも知れないから一応警戒していたけど、今のところ敵意はなさそう。最初のはなんだったんでしょう?


 すると、その子は代わりにソッと僕の尻尾の方に手を伸ばしてくるけれど……流石に、それ以上は白狐さんと黒狐さんが許さないと思うよ。


「こらお主。残念だが、それ以上我が妻には手を出さないで貰えるか?」


「百合も良いが、椿が戻れなくなったらマズいからな」


 そして、白狐さんが咲妃ちゃんの腕を掴み、黒狐さんがちょっとだけ睨みを効かせています。


「む~残念」


 咲妃ちゃんは頭を下げてあからさまにガッカリしています。

 そんなに触りたいんですか、僕の尻尾。と言うか、妖怪と仲良くしようとしてて良いの?


「さて、咲妃とやら。見る限りお前さんは陰陽師なのに、妖怪に対してあまり敵意がないの」


「えへへ、良い妖怪さんならね~」


 確かに悪い妖怪もいるし、その対応はありがたいですけど、最近の陰陽師は妖怪なら手当たり次第なんですけど……。


「じゃがな、最近の陰陽師の行動は目に余るぞ。お前さんのような人間は珍しいわい」


「あ~私のお父さんの世代とか、私と同い年の人達ね。あの人達は、妖怪は全て悪と決めつけていて、最近の妖怪達の人間社会への進出に、憤慨しているの」


「憤慨って……」


 僕は一生懸命説明してるし、悪い妖怪への対策もちゃんと見せています。

 それなのに、それを信じずに自分達の考えだけで動かれてるなんて……ショックですよ。


「あ~あなたは悪くないよ。凝り固まった思想が暴走しているのがいけないんだから」


 僕がションボリしていると、咲妃ちゃんが慌ててそう言ってきました。凄く優しくて良い子です。何だかドジが多いのが不安だけど……。


「私はね、おじいちゃんの言ってる事の方が正しいと思うんだ。良い妖怪と悪い妖怪がいる。それを見極める目が、陰陽師には必要なんだって」


「そっか……でも、それじゃあ学校で見せた行動は?」


「あっ、あれは……あの頭の毛が逆立っている妖怪から、凄い敵意を感じたので怖くなって。本当は、お父さんに言われてあの学校の偵察に行ってこいと言われただけで、滅しようなんて思ってなかったんです!」


 雷蔵さんのせいでしたか……それなら自業自得でしたね。あの妖怪さんは、昔から簡単に敵意を向けるからね、しょうがないです。


「あ~あの妖怪には強く言っておきます。だから、あの学校は滅さないで欲しいかな。安全だからさ」


「はい。それはあの学校に入って分かりました。皆楽しそうで、人間と半妖分け隔て無く一緒に過ごしてるから、ビックリしました」


 そう言って、咲妃ちゃんは尊敬の目を僕に向けてきます。


「しかも、あの学校は凄く優しい気で包まれていて、しっかりと守られていたんです。それ、あなたですよね? 椿さん。同じ優しい気を感じます」


「んっ、そうです」


 あの学校の周りには結界が張られていたけれど、色々あって弱くなっていたんです。だからその手の結界術も、頑張って修行して僕が張り直しておきました。


「こんなに優しい妖狐さんがいるんだって、それが分かっただけでも収穫です。絶対にお父さん達は間違ってる。止めないと……」


「止める?」


「はい、陰陽師の団体『式柱しきばしら』を止めないと……妖怪掃討作戦が始まってしまいます」


 あ~妖怪掃討作戦って……結局歴史は繰り返すんですね。でも、だからって慌てる必要はないんですけどね。


「そうですか……教えてくれてありがとうございます、咲妃ちゃん。おじいちゃん……」


「うむ、既に今の会話をセンターに流し取る。直ぐに準備に移るじゃろう」


 自分達の力を過信しているから、そういう行動に出るんでしょうね。だから油断はしません。説得に応じなければ、徹底的に潰しますよ。


「それとおじいちゃん。捜査零課の方にも連絡してくれますか? あの人達にも動いて貰います」


「なるほどね、潰すとなれば社会的地位も潰すつもりね。椿、あんたも中々良い感じの妖狐になってきたわね」


 それは喜んで良いのかな……妲己さんに言われたら素直に喜べないですよ。

 それと、今までの会話の流れを咲妃ちゃんが一切止めてこないです。しかも、呆然としているのかなと思ったんだけれど、そうでもないです。


「あの、咲妃ちゃん……普通は『そこまではしないで』とか言って、止めませんか?」


「へっ? あ~潰してくれるなら潰して」


 もの凄い笑顔で返されました! どういう事? 君陰陽師だよね?! 潰れて良いの?!


 僕としては物騒な事は嫌だから、先ずは話し合いをしたいけれど……無理なのかな?


「それにごめんなさい……既に厄介な人が入り込んでいるの……」


「えっ?」


 すると、今度は咲妃ちゃんが申し訳なさそうな顔をしてそう言ってきます。なに? 今度はなんでしょう……。


「お嬢様~!! こちらですか?! 今この月翔げっしょうが助けます!」


「えっ? ちょっと!! 侵入者?!」


 そして次の瞬間、いきなりおじいちゃんの部屋の入り口が切り裂かれ、誰かが入って来ました。


「うん? 月翔じゃと?」


「あの泣き虫の月翔か?」


 ちょっと、白狐さんも黒狐さんも落ち着かないで下さい。侵入されているのに……って、えっ、知り合い?!


 とにかく、その侵入者の男性は刀を持っていて、それでこの部屋の入り口を切り裂いたみたいです。

 ここに来るまでに他の妖怪さんもいたでしょうに、その妖怪さん達はどうして……。


「ちょっと! 白狐さんと黒狐の知り合いだって言うから通したのに、何ですかあなた!」


 あっ、里子ちゃんが通してここまで案内してきたんですか。里子ちゃんめちゃくちゃ驚いてるし、顔が真っ青です。


「……ふん、知り合いなのは嘘じゃない。久しぶりだな、白狐さん黒狐さん」


 そしてその人は、顎までのグレーの髪を乱雑に伸ばしていて、和風の服装をしていました。


 その後、そのまま強気な表情を僕の方に向けてきます。

 いや、僕の後ろにいる咲妃ちゃんの方でした。この人、咲妃ちゃんのなんでしょう?


「お嬢様!! お迎えに上がり……ぎゃぅん!!」


「こらこら、我等を無視するとは、お主も良いご身分になったものだな」


「全くだ、妖狐の里から追い出されたはみ出し者が」


 妖狐の里……そんな所があるんですか? 初めて聞いたよ、白狐さん黒狐さん。


「なんじゃ、灰狐かいこの月翔か……驚かせおってからに」


「その言葉を使うな!!」


 するとおじいちゃんの言葉に、月翔と呼ばれた人は怒鳴り散らします。

 その前に、確か妖狐の里から追い出されたとか、カイコ……とか言ってるけれど、もしかしてその人って……妖狐?


「灰狐、灰狐……灰色だからって、安直にそれはねぇだろうが! 俺が解雇されたみてぇじゃねぇか!!」


『実質そうだろう?』


「ぎゃふんっ!!」


 あっ、ちょっと、白狐さん黒狐さん……今のでトドメをさしたんじゃないでしょうか? 体を震わせてますよ?


「ふっ、ふふ……分かったよ、それならパワーアップした俺の実力を見せてやる! そして、お前達が捕らえたお嬢様を返して貰うぜ!」


「ちょっと月翔! 私捕まってないよ!」


「お嬢様! 安心して下さい! この月翔が今助けます! この悪しき妖狐達からなぁ!!」


 聞いてないですね、これは……咲妃ちゃんなんか顔に手を当てて項垂れてますよ。


 それにしても、僕達に喧嘩を売るなんて良い度胸してますね。

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