第陸話
おじいちゃんの家に帰って来た僕達は、早速おじいちゃんの元に飯綱さんを案内します。
そして今度は、上半身だけを横に高速で移動させています。運びにくいったらありゃしないです……。
「アウトロォォオオ!!」
「せめてヘドバンにして下さい!!」
「ロックォォオンッ?!」
しまった、あまりにも動きまくるから、ついうっかり前に一本背負いして、頭を床に叩きつけちゃいました。気絶しちゃったけど大丈夫でしょうか?
「なんじゃ椿、気絶させて連れて来たのか? 全く、起きるまで部屋で休ませろ」
その直後におじいちゃんがやって来たから、さっきのを見られていないかと思ってビクビクしちゃいました。
「それじゃあ椿、私は楓を休ませてくる」
「あっ、うん、お願いします」
すると、雪ちゃんが2階に上がろうとした時、ズボンのポケットから何かが落ちました。
写真? 僕のファンクラブの会員誌に使うやつかな?
そう思ってその写真を拾い上げると、そこには意外なものが写っていました。
これは……あとでちょっと雪ちゃんに聞かないといけません。絶対に、雪ちゃんじゃ撮れない写真だよ……。
―― ―― ――
「いやぁ、中々アウトローな妖狐だな。気に入ったよ! さっきの一本背負いなんか……むぐっ?!」
「ちょっと静かにしてて下さい」
あのあと割と直ぐに目を覚ました飯綱さんは、早速おじいちゃんの部屋に呼ばれ、僕と一緒に、おじいちゃんの座っている机の前に座っています。
でも、座った瞬間とんでもないことを言ってきたので、影の妖術で口を塞ぎました。ただ、その後ジッと僕の姿を見ています。
今黒狐さんの力を使ってるから、黒い毛色になっているんだけど……それが気に入ったのでしょうか? なんだか目を輝かせていますよ。
相変わらず僕は、黒狐さんの力で手に入れた妖術を使う時は、毛色が黒くなります。
体術を強化する時は白狐さんの力を使うから、毛色は白くなります。僕自身が得た妖術なら、狐色の毛色のままですけどね。
「ふぅ、椿よ、離してやれ。して、お主はどこに居たというのじゃ?」
「ぷはっ、お、おぅ。私は『
「ケイ……ガイ?」
また組織ですか……しかもそのケイってまさか、昔の字の『亰』じゃないでしょうね?
それなら、僕が以前戦った
「おぅ、奴等は何か目的を持って動いていてな。まぁ、私は名前に骸が入っていてカッコいいと思ったのと、その活動もアウトローだったから参加させてもらっていたのさ」
目的を持っていないと組織としては成り立たないでしょう……いったい、そいつらは何を企んでいるんでしょう?
「飯綱よ、その活動とはなんじゃ?」
「人間と半妖の、完全妖怪化さ」
「えっ……」
ちょっと待って下さい。それって、以前の亰嗟がやろうとしていた事と一緒だよ!
ただ、あっちはもっと無理矢理な方法だったけどね……。
妖怪しか存在しない異界、妖界。そこに人間がいくと、人によっては数時間~数日で妖怪と化してしまう、恐ろしい所。
亰嗟はその妖界と人間界を入れ替えて、人間界を妖界にする事で、人間達を全員妖怪にしようとしていました。
ただ、結局それを何でしたかは酒呑童子さんしか分からなかった。だって、その弟子であり妻である、茨木童子がやった事なんです。
酒呑童子さんは何か知っている風だったけど、教えてくれませんでした。単に世界を滅ぼそうとしているだけじゃなさそうでしたし、なんで酒呑童子さんと茨木童子さんが亰嗟を作ったのかが分からない。
何かと対峙するために、そんな組織を作ったような事は言っていたけれど、いったい何の事でしょう……。
そして酒呑童子さんは、茨木童子との決着が着いた後から帰って来てません。今でも連絡はないです。いったいどこで何をしているのか分かりません。
「とにかく、そんなアウトローな目的を持ってたから参加したが、私にあんな仕打ちをしやがって! あれじゃあ、まんま悪の組織じゃねぇか!」
「えっ? アウトローだから悪の組織なんじゃ……」
「バカ野郎!! アウトローと悪は違う! 人様に迷惑をかけ、自分の欲望を見たそうとする奴は悪! 普通とは違う事をして、横道にそれるのがアウトロー!!」
う~ん、確かにこの飯綱さん、人様に迷惑をかけようという感じじゃなさそうです。管狐なのに……。
「悪の組織って分かってたら、亰骸には入らなかった?」
「あったりまえだ! 誘われた時は、人と妖怪の狭間で悩む半妖達を救おうって、そう言われたんだ! 人を妖怪化すれば、半妖なんてものも生まれないって言われて、それならと思ったんだ! それなのに……なんだあれは!」
あの黒い妖気の事ですね……確かにあれは良く分からない。いったい、何の妖怪の妖気なのかも分からないんです。
そして、飯綱さんは興奮気味に立ち上がり、僕の方を見てきます。
「それと、さっきの妖術を見て分かったよ。あんた、妖狐の椿だろ? 妖怪や人間、半妖達の間でも、その名を知らない奴はいない。世界を救った大妖怪としてな……」
「い、いやいや……僕はそんなんじゃ……」
そこまで誇張されたら恥ずかしいです。僕はただ、大切な人達を守りたかったから行動しただけなんです。
それなのに、最近は他の妖怪さん達からもそんな扱いをされていて、僕はとっても困ってます。
とにかく、あまりにも恥ずかしいから僕は顔を伏せます。
「あんた気に入ったよ。それに、ここも気に入った。新たに出来た妖怪センターと、密になってるんだってな? 仕事も結構回ってくるのか?」
「ん? まぁ、そうじゃな。仕事をしてくれると言うなら歓迎じゃが、しばらくは監視を付けるぞ?」
「あぁ、それで構わないぞ」
あれ? 監視って言葉で嫌な事を思い出しました……確か、それに特化した妖怪がいたような……。
「よっしゃ~!! 出番やで~!!」
「貴様じゃないわい!!」
「あぁ!! 風が、風がぁ!!」
あ~あ、浮遊丸がおじいちゃんの天狗の羽団扇で飛んでちゃった。
ドローンに肉付けをした姿の妖怪なんですけどね、目が無数にあって、望遠から透視まで、見る事に関してはエキスパートの妖怪なんです。
ただ、それを覗きとかに使うから、良くおじいちゃんに折檻されています。
でも最近は大人しくて、閉じ込められたりはしていない……んだけど、何だか怪しいんですよね。何かやっていそうで……。
「飯綱、お前さんにはちゃんとした監視を付けるから安心せぇ」
「……いやぁ、さっきのでも構わないけどな」
「その言葉、あとで後悔しますよ」
浮遊丸の事を良く知ってないから、そんな発言が出るんですよね。それなら止めた方が良いです。だから、僕は飯綱さんに向かってそう言いました。
「そうなのか? まぁ、いいや。それで椿、あんたの部屋はどこだ?」
「へっ? あっ、僕はもうここには住んでませんよ」
「なんだ~そうなのか~」
んん? 何だか様子がおかしいんですけど……僕を見る目が、明らかに最初と違う。しかもジリジリと僕に寄って来てるよ……何、何なの?
「なぁ、ツーショット撮らせてくれないか? 自慢してぇんだよ」
「誰に?」
「そりゃお仲間さんにさ~」
そう言って飯綱さんが取り出したのは、僕のファンクラブのメンバーカードでした。
雪ちゃんが導入したこれは、会員誌や僕の写真を定期的に購入していると、ポイントが貯まっていき、貯まったポイントに応じて特典が貰える事になってます。
確か、1万ポイントで僕と会う事が出来るんだっけ? 雑誌を買えば100ポイント、写真は50~100ポイントだから、結構大変だと思うよ。
そして、飯綱さんはそのメンバーカードを持っている。つまり、僕のファンクラブ会員でした!
「なっ、良いだろう? 記念に1……ぶっ?! つ、冷たっ!」
「ツーショットは、2万ポイントになります」
雪ちゃん……それ今作ったよね。
気付いたら僕の後ろに立っていた雪ちゃんが、飯綱さんの顔に手を当てました。
しかもその後に冷気を放ったよね? 飯綱さんが、慌てて雪ちゃんの手から離れたからね。
「全く、油断も隙もない……」
そう言って不満顔になる雪ちゃんだけど、丁度僕も聞きたい事があったの。
そしてその言葉は、そっくりそのまま君に返すよ、雪ちゃん。
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