第伍話
なんだか釈然としないけれど、元凶は消えたので、もう被害者は出ないと思います。でも、今僕達の目の前に更に厄介な人が現れました。
「うっ……ぐぅぅ! ころ……ころころころ……殺すすすすす!」
「精神が壊れてるじゃないですか……」
何ですかこの人? いきなり上から現れて、物騒な事を言い出してます。
僕と同じ狐の尻尾があるところから、この人は妖怪……いや、半妖かな? 耳が人の耳だし、どっちかというと人の姿に近いですからね。更に胸があるので女性ですね。僕よりある……。
そして、あの黒い妖気も放っています。またですか……これ。
「ね、姉さん……もしかして、あの子供の霊に黒い妖気を与えた奴が近くで……」
「そうですね、見てたんでしょうね。そして、今も……」
ただ、そいつは普通の人間なのか、妖気を隠しているのか、どこにいるのか感知出来ません。
「あっ、良く見たらこの人、
「イヅナ……管狐の?」
「そうっす」
そうですか……短パンにパンクロッカーみたいな派手な衣装と、赤と金髪のツートンカラーのセミロングヘアーは、管狐とはあまり関係なさそうですね……この人派手なもの好きな人なんですね。
化粧もそれっぽいし、目つきも悪いです。でも、それは黒い妖気のせいかもしれないので、先ずはその妖気を剥がしちゃいましょう。
「黒羽の妖砕矢!」
「かっ……!!」
今何か憑かそうとしたよね? だけど、黒羽の矢はそれを弾いて黒い妖気を剥がしました。
この妖術を前に、術も意味をなしません。実体のないものを射貫く能力も強化されて、術も射貫けるようになりましたからね。
「あっ……かっ」
そして飯綱さんは、そのまま仰向けに倒れました。
大丈夫なんでしょうか? あの黒い妖気、かなり負担をかけるみたいだし、死んでる……なんて事は。
「姉さん、今度は容赦なしっすね……」
「だって半妖だもん」
さっきみたいに、どこに現れるか分からないわけじゃない。それなら簡単です。
「ん……んん……はっ! あ、あの野郎!」
「あっ、起きた……」
どうやら無事なようでした。でもやっぱり、体に相当な負担がかかったのか、飯綱さんは上体は起こせても、立ち上がれないでいます。
だから、僕は飯綱さんの元に歩いて行き、しゃがんで飯綱さんに肩を貸そうとします。
「ちっ……要らねぇよ」
「そう言われても、立てないでしょ? それと、あなたのお話も聞きたいし」
「大丈夫だっつってんだ! これで補給出来る」
そして何度も断られた挙げ句、飯綱さんはポケットから飴を取り出します。白くて細い棒の付いた、あの有名な飴を。
ただ、グルグル回ってますよ? それ……食べられるの? 多分妖気が込められた妖怪食だろうけど……。
「ちっ……よりにもよってこれか……体力根こそぎ持ってかれたのに……まぁ良い。そこで体力が無いからって人の手を借りるより、こいつを使った方が、パンクじゃねぇか……やってやらぁ!!」
何1人でブツブツ言ってるんだろうと思ったら、その人は白い棒の上で回っているその飴を、口の中に放り込みました。
そして次の瞬間には立ち上がり、片足を軸にもの凄いスピードで回転し始めました。
「なっ、なになに?! 何やってるんですか!!」
たった今ぶっ倒れていたのに何やってるんですか!!
「仕方ないんだよ!! このチュッ〇チャプスは、食べたらその飴と同じ動きをしないとならねぇんだ! 体力が無くても、妖気を補給するためにはやらなきゃならない! パンクだろう?!」
「知りません!!」
その前に倒れたら意味が無いですよ! 僕には理解出来ないです。
それと、目が回らないのかなと思っていたら、アイススケートの選手が回転する時と同じようにしていました。つまり、顔を出来るだけ正面にして、クルクル回っているんです。
「おぉぅ……倒れそうだ……」
「それじゃあ倒れて下さいよ。僕が運ぶんで……」
「そうはいかねぇ。パンクなら人の助けなんか借りねぇ。アウトローに生きなきゃな!」
それも意味が分からないんですけど……。
「それでも今のは助かった、礼を言うぜ! あの薬を打たれた直後だったから、命は助かったようだ」
「あの薬?」
クルクルと回りながら、飯綱さんがそう言ってくる。でも、そろそろ止まって欲しいかな……僕の目が回ってきました!
「ね、姉さん……自分、もう無理っす」
「えっ? 楓ちゃん?!」
その前に楓ちゃんがダウンしました。僕と同じように目が回っちゃったんですね。
「あの人、何回転するか見て数えてたんっすけど……ダ、ダメでした」
何やってるの? バカですか、楓ちゃん。そんな事したら目が回るでしょう……。
「おぅ、とにかく私はもうあんな所からは抜ける! 色々と話を聞きたいんだろ? そっちの拠点に案内してくれないか? そこで色々と話してやるよ」
それはありがたいけれど……おじいちゃんの家に連れて行って良いのでしょうか? ちょっと僕だけでは判断が出来ない。
妖怪専用のスマートフォン、妖怪フォンで連絡してからにしましょう。
「ちょっと待って下さいね、今連絡してみるんで」
「おぅ、早くしろよ。そろそろ限界だ……」
ちょっと、急かさないで下さい!! 連絡先を間違えるってば!
―― ―― ――
その後急いでおじいちゃんに連絡をして、敵かも知れないけれど連れて行って良いか聞いたところ、対策は出来るから問題ないと言われました。
と言うことで、回り疲れた飯綱さんと、目を回して倒れた楓ちゃんを担いで、僕は家路に向かいます。でもその前に……。
「雪ちゃん、帰るよ~」
「あっ、は~い」
普通に返事しないで下さいよ。路地の所に隠れているのは気付いていたけれど、敢えて放置してました。
でも、流石にこれ以上好き勝手されても困るし、人手が欲しかったからね。
多分、僕の写真とか映像を撮っていたんだと思います。ファンクラブの会員誌に載せる用のやつね。
「……にゃ、にゃ~お」
「いや、今更猫の鳴き真似とか意味ないですよ。しっかりと返事したじゃないですか……」
「うぅ……つい、うっかり」
最後の悪あがきなのかな? とにかく、雪ちゃんはしぶしぶ路地裏から出て来ます。
雪ちゃんは雪女の半妖ですから、真っ白な髪が肩の下あたりまで伸びています。
そして、感情のなさそうな目で冷淡な雰囲気を醸し出しているけれど、これでも以前よりかは表情を出すようになってくれています。今も若干しょんぼりしてますからね。
更にデニムのズボンに、レースと刺繍の付いたカーディガンを着ています。それと、胸の破壊力が増しているんです。巨乳になっちゃってます……。
うぅ、なんで皆そんなに大きくなってるの! 雪ちゃんも僕と同じくらいだったのに! 素敵な雪女さんになってきてるじゃないですか!
でも、今はそれよりもこの2人を運ばないといけません。
「もう良いですから、とにかく楓ちゃんを運んでくれる? 僕はこの人を運ぶから」
「すまんな、助かる」
全く、あんなにクルクル回転して……それと、何気にまたその飴玉を取り出さないで下さい。
妖気を補充するなら他の方法でお願いします! 飴玉が棒の上でピョンピョン跳びはねてるよ、絶対に食べたらダメ!
「ちょっと! おじいちゃんの家でご飯を用意をするので、それまで……」
「いいや、待てない。このアウトローさが、私を刺激する!」
あぁ、口の中に放り込んじゃった!
今僕は、この人に肩を貸している状態だから、止めようとしたらこの人が転倒するかもしれない。だから止められなかった。
「おっしゃ~!! ハイ、テンショ~ン!!!!」
「……」
もうどうしようこの人……空高く飛び上がっちゃいました。全然管狐感ないです。この人本当に飯綱なんでしょうか?
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