第3話

彼女をホテルから先に帰し、その15分後に自分もホテルから出た。記憶は無いが自分が不倫をしたらしいことはわかった。彼女も覚えていないらしいしこれはノーカウントでいいのではないか?そもそもお互い記憶もなく好意もない場合は不倫にはならないのではないだろうか。いや、でも好意なくして行為をする仲をセフレというらしいし、それは不倫にカウントされるからアウトか?いや、でも一回きりだったし、、、。一回きり?これからはもう無いのか、、、。なんで俺は今少し寂しいと感じたのだろうか。きっと勘違いだ。錯覚に違いない。早く帰ろう。俺には妻と娘がいるんだ。自分に何回も言って聞かせたが大真面目な顔をして裸で正座している彼女の姿が頭に浮かびフッと笑ってしまった。きっと母性本能がくすぐられただけさ!あ、俺には母性はないか。そんなこんな考えているともう家の前まで来ていた。結婚してからはじめての朝帰りだ。ドアを開けるとリビングの灯りがついている。ソファーの上で妻の菜穂子が寝ていた。菜穂子は自分より13歳年下で彼女より背は少し低く華奢である。その瞑られた目から頰にかけてうっすらと涙の跡があった。菜穂子にはきっともうバレている、そんな気がする。いつも俺の考えていることはお見通しだし、連絡なしに朝帰りなんてしたからきっと察してしまったのだろう。思わず耳元で「ごめんな。ごめんな。」と言ってしまった。これでは自ら犯行を自供したも同然だ。でも、俺には抑えることができなかった。菜穂子は俺の声で目覚めたのか少し驚きながら「おかえり。」と言って抱きついた。俺が昨夜のことを話そうとすると俺の口に手を当てて「いいよ。私は要さんのこと好きだから。要さんが他の人すきでも私は要さんが好きだから。」と言った。俺は罪悪感を感じるとともに菜穂子をぎゅーと抱きしめた。そんなことない。俺が好きなのは菜穂子だけだと言いたかったけれど朝帰り親父の俺にはそれを言う資格はないだろう。すると、「なに朝からいちゃついてんのよ。てか、パパ仕事おつかれー。」と後ろから声を掛けられた。驚いて振り向くと長女の美雨だ。中1になったばかりだが反抗期はもう過ぎて俺へのあたりもマシになってきた。まさか自分の冴えない親父が不貞を働き朝帰りだなんてつゆ知らず俺を労ってくれたことにより俺の罪悪感は増す一方だ。「あっ。あとパパ。まだ詩音は寝てるから静かにね。」美雨は明るく元気でやんちゃでクラスの中心に常にいるような子だが、妹に対してはデレデレである。それに対して詩音は真面目だが愛嬌があり優しくおっとりしていて先生に好かれる優等生タイプだ。俺のような不出来なやつの子供でここまでまともとは菜穂子に感謝するしかない。菜穂子に本当に申し訳ないことをした。俺は風呂に入りながら静かに泣いた。

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