4
近国の国道沿い、疎林の奥の方に一軒家がある。その家は少々古く、床の木が剥がれていたり、コンクリートの壁がボロボロと崩れていた。家の横にある倉庫と、その周りに無造作に置いてあるガラクタ以外に特に目立った様子は無く、人が訪ねて来ることはあまり無い。しかし今日は、珍しく家主以外の人影が見えた。
家の屋根に梯子をかけ登っていくフゥイジンを、ダグは感心したように見上げる。
「こんなこともやるんだな」
ダグの言葉に答えることも無く、フゥイジンは手馴れた様子で屋根に木の板を打ち付け始めた。
フゥイジンは今、仕事として屋根の修理をしている。奇形である家主からの依頼であった。家主は初老の男で、木の根がぐるぐると巻きついたような片足をしていた。
「この足じゃ屋根に登れなくてな、長らく雨漏りに悩んでいたんだよ。穴を塞いでもらえて助かった」
家主はフゥイジンの作業が終わるのを、テラスの椅子に腰掛けて待つことにした。
ダグがフゥイジンに手伝うことはあるかと聞くが、返事は無い。じゃあ何もしなくていいかと呟き、ダグもテラスに上がる。座ってもいいかを聞いてから、家主の横の椅子に座った。
フゥイジンが屋根の穴を塞いでいる間に、ダグは奇形の腕の包帯を巻き直すことにした。ダグは刃物の様になっている自分の左腕の扱いにはとても気を使っている。知らずに包帯が解けてしまったら自分自身が怪我をするし、もしかしたら他人を傷つけてしまうかもしれないからだ。スルスルと包帯を解いていくと、布の下から奇形化した硬い腕が見える。家主は珍しげにダグの左腕に目を向けた。
「お前さんも奇形だったのか。それは生まれつきかね?」
「そうだよ。おっちゃんも、それは最初からなのか?」
ダグが家主の奇形の足を見ながら聞く。家主はその足を擦りながら違うと答えた。
「わしはガラクタ集めが趣味でな。不発だったガス弾を持って帰ろうとしたらそれが爆発したんだよ。そのガスを吸ってこの通りさ、こんな馬鹿なことないわい」
家主は深くため息を吐いた。まだいたけな子供時代の話だったなら戦争による悲劇とでも言えるのだが、この事故を起こしたのは三十歳を過ぎてからだった。危険だと分かっていながら、それを一人で持ち帰ろうとしたのは本当に馬鹿なことだったと、今思い返してみても我ながら呆れてしまう。
「ガラクタの部品を持ち寄って物を作るのが好きでなぁ、ガス弾なんて軍隊にでも入らにゃ手に入らんから、あの時は宝でも見つけたような感覚だった」
ダグは不思議そうな顔をする。
「そんなもんが宝なのか?」
「人間が作った物には魅力があるとわしは思っとるんだ。まぁ武器や兵器は人を殺すから恐ろしい物でもあるがな」
「ふーん、変なの」
人を殺したり奇形にしてしまうような道具を魅力的だと言う人間に、ダグは初めて出会った。今まで出会った大人達は、人を殺すという目的で武器を持っていたから、人間が作ったという点に魅力を感じているらしいこの家主は、今まで出会ってきた大人と何か少し違うらしい。
家主の話を聞き流しながら包帯を巻いていると、指先に小さな痛みが走った。
「いてて、またやっちまった」
右手の人差し指から、細く血が滲み出る。ダグは今までも何度か、包帯を巻き直している時に怪我をしている。気をつけてはいるものの、中々に生傷が減らない。
「お前さんは大変な腕をしているなぁ」
家主が傷を気にかけ、ダグの手をのぞき込む。
「それにしても危なかっしいが、ナイフ要らずで便利そうな腕だ。暴漢にでも襲われた時にはそれでグサッと......」
その言葉聞いた途端、ダグが鋭い目を家主に向け、怒ったように強く言った。
「おれはこの腕で人を傷つけたりしねぇ!」
ダグは隠すようにしていそいそと包帯を巻いていく。その手は少し震えていた。
「悪い悪い、別に悪気はねぇんだ。まぁそんなちいせぇ内から奇形をやってると思うと大変だよなぁ」
家主はダグが奇形であるがゆえに辛い人生を送ってきたことを察して、申し訳なさそうにダグに謝った。
屋根の修理を終えたフゥイジンは、ダグと共に家主の倉庫に案内された。
「拾ってきたガラクタや、わしの作った物をここに置いているんだ。使えそうな物や売れそうな物があったら好きに持っていくといい」
倉庫内の右半分の壁側には棚が並べてあり、そこには隙間なく何かの道具や、家主が作ったであろう作品の数々が置いてある。左半分には、家主が今までに拾ってきたガラクタが山済みになっていた。フゥイジンとダグは各々、それを見て回る。ダグが自身の身体ほど大きなタンクを見つけて近づいた。
「これはなんだ?」
「これは自作の濾過器だ。このポンプで水を供給して、こっちのタンクに来るまでに水が濾過されて流れてくる。昔はこの大きさの濾過器は値が張ったからな、自分で作ったんだよ。まぁ今は壊れてここに放置してあるんだが」
「これを作ったのか! すごいなぁ!」
ダグが子供らしく驚いて反応するため、家主は気分が良くなり、ダグの目に付いた物を順繰りに説明していく。
「それは野犬を追い返す装置だ。この網を触ると電気が流れる、はずだったんだが、ある日食いちぎられていたんだよ。電力が弱かったのか、はたまた電気を通さない犬が居たのか......」
「おいおっちゃん! ここに足が落ちてるぞ!」
ダグがぎょっとしながら、足を膝下から切り取ったような物を手に取る。
「それはわし専用の義足じゃ。しかし中々上手く足がはめられんでの、足の形を作ったはいいが途中で諦めたんじゃ」
家主が笑いながら、つける必要の無さそうな義足の性能を説明していると、フゥイジンの方も何か見つけたようで、一つの箱のような機械をまじまじと見ている。
「それは無線機じゃな。直してやろうと思ったんだがわしにはどうにもさっぱりだった。簡単な電子機器なら直せるんだが.......、軍用機器は複雑だのう」
フゥイジンが少し力を入れて、見た目よりも重量感のある箱を持ち上げながら言う。
「重いが、これなら持ち運べそうだ」
拾った家主本人もその価値をあまり知らないようで、首を傾げる。
「こんな古い型が売れるもんなのか?」
「どこぞの軍や国家の情報を抜き取るのに使うんだとよ。改造すりゃそれなりに使える」
無線機などの通信機類は、情報を売って生活している人間達の仕事道具にもなる上、使い方や改造の仕方で色々な事に応用することができる。それに軍用機器は稀に機密情報を持っているため、それも含め高く売れることがあるのだ。
フゥイジンが無線機を袋に入れていると、ふとガラクタの中から僅かに見えるマークが目に入った。そのマークはタンクのようなものに描かれており、タンクはバックパック式で持ち運べるようになっている。
「それは火炎放射器だ。火を放出する部分は拾った時にはもう付いて無くてな、燃料の入ってたシリンダーしか残って無いが......。この印はどこの国だっけな?」
家主が顔を近づけてマークを見ていると、フゥイジンがタンクの後ろに収納されている部品を難なく組み立て始めた。銃部になった部品をポンプの先端に取り付ける。家主はそれを感心したように見ていた。
「なるほど、それは放出部の部品だったか! お前さんよく知ってたな」
家主の言葉もそのままに、フゥイジンは火炎放射器を見つめたまま、呟くように言う。
「これは、ガルツ国の火炎放射器だ」
家主もそれを聞いて思い出す。
「そうそう、ガルツ国! 一時期は勢力を上げて色んな国を占領しておったが、最近はすっかり名前を聞かなくなったな」
フゥイジンはガルツ国を知っていたが、言う必要も無いため何も言わなかった。興味が無いとでも言うように家主の話を聞き流し、そのまま無線機の入った袋を持って倉庫を出て行った。
「これは駄賃じゃ。受け取れ」
そう言って家主は、出発しようとしていたダグを呼び止め紙幣を数枚差し出した。
「わしの作った物についてこんなに語れるとは思わなんだ。久々に楽しかったよ、ありがとうな」
ダグは不思議そうな顔で紙幣を見る。
「でもおれ、話聞いただけだぞ? それでお金くれるのか?」
「なぁに、ほんの気持ちさ。おっちゃんからの小遣いだと思って有難く受け取ればいい」
明るく嫌味のない笑顔の家主から、ダグは嬉しそうに紙幣を受け取る。元気でなと挨拶を交わし、家主に手を振りながらその家を後にした。
二人は疎林を分けた砂利道に出た。この一本道を辿れば、もうすぐ近国に着くだろう。ダグは過去に一度だけ、その時に身を寄せていた一団体の大人に連れられ、大きな国に来たことがあった。今よりもずっと幼かったため、これから向かう国かどうかはわからない。建物が沢山あって、見たことがない綺麗な物や新しい物がたくさん売っていた、気がする。記憶を探ってもよく思い出せないが、その国は自分が暮らしてきた汚染され錆びれた町や村とは違い、とてもわくわくするようなところだったはずだ。フゥイジンは特に何も思っていないようだが、ダグは国に着くのをとても楽しみにしていた。
ふと、二人の背後から排気音が近づいてくるのが聞こえてきた。沢山の荷物を乗せたバイク二台と、二人乗りをしているのが一台、重く威嚇するような音を響かせている。バイクはフゥイジンとダグの横を通り過ぎようとしたが、二人乗りをしていた内の一人が部下達に大きく声をかける。聞こえてきた声と見覚えのあるバイクに、ダグはハッとして表情を強ばらせた。
「フゥイジン、おれ、用事思い出した」
ダグはそう言って、急いで後の道を戻ろうとする。しかし、二人乗りのバイクが回り込んでダグの行く手を阻んだ。
「よぉ、ダグ。まさかこんな所で会うとはな」
二人乗りの後ろの、体格の良い髭面の男がダグに話しかける。
「ズギダ......!」
ダグは苦い顔で男の名を呼んだ。ズギダと呼ばれた男は、運び屋のリーダーである。というのも、運び屋というのは表向きだけで、裏では密売や麻薬の取引などの犯罪にも手を出している粗暴者であった。
「お前のその奇形の腕で刺された腹、ありゃ痛かったぜ?」
ズギダは怒りを含めた嘲笑を浮かべながら、バイクを降りダグの前に立ちふさがった。
「てめぇ、この腕は人を傷つけるためのものじゃないって大層なことを抜かしてやがったのによぉ、騙しやがったな」
ダグは首を小さく振る。
「ちがう、あれは、わざとじゃ......」
「わざとだろうがなかろうが、人を刺したことに変わりはねぇだろうが!」
その言葉に、ダグはどきりとする。
「あぶねぇぜ? その奇形の腕はよぉ。人を殺せちまうんだ。俺を殺そうとしたようにな」
「ちがう! 殺そうとしたわけじゃない!」
ダグが強く、悲痛を滲ませて叫んだ。今まで頭の隅に追いやっていた記憶を引きずり出し、ズギダを刺した時のことを思い出す。殺そうとは微塵も考えていなかった。むしろ、ダグに殺意を向けていたのはこの男だった。病に倒れた自分の恋人に使い物にならないと、邪魔だと言い捨て殺した後、ダグをも殺そうとしたのだ。
「アミナを殺したお前になんか、何も言われたくない!」
孤児であり奇形である自分を気にかけてくれたアミナ。彼女はなぜ、この男のことが好きだったのだろう。ダグは悲しくて悔しくて、目の奥が熱くなってきた。
ズギダはわざとらしいほど大きなため息を吐く。
「だからよぉ、あいつはもう死ぬ直前だったんだ。だから俺が早めに楽にしてやった。それだけだ」
そんなことズギダは微塵も思ってない。ダグにはもう分かっていた。
「うそだ! 見捨てようとした上に、殺したんだ! お前なんか最低だ! 毛むくじゃらの悪魔だ!」
頭に血が上りきったダグは、思いつく限りの悪態をズギダに吐いてやる。耳を塞ぎたくなるような子供特有のかん高い声に、ズギダも声を荒らげる。
「ピーピーうるせぇんだよ! アミナは使えねぇし、お前は恩を仇で返しやがる。女は信用ならねぇなぁ!」
威圧感を増してダグに近づくズギダ。
「やられたままじゃ終わらせねぇと思ってたんだよ、探す手間が省けて良かったぜ」
ダグが怯み、後ろに下がる。すると、先程から立ち尽くしているフゥイジンの背後にぶつかった。行く道を塞がれ後ろの道にも戻れなくなっていたのは、ダグだけではなくフゥイジンも同じであった。ズギダはそこでやっと、フゥイジンの存在に気付く。
「こいつぁ誰だ?」
ズギダは少しだけ思考を巡らせ、察したように言う。
「あぁそうかダグ、次はこの男の懐に潜り込んだってわけか」
ズギダはニヤリと下品な笑いを浮べる。
「お前、やめといた方がいいぜ? 奇形のガキなんか連れて歩くのはよぉ。いざと言う時に役には立たねぇし、言うことも聞きゃしねぇぜ」
フゥイジンに話を振ったはずだが、返事は無い。
「親切に教えてやってんのによぉ、聞いてんのか?」
ズギダはそんなフゥイジンの反応にイラつきを見せた。フゥイジンの肩を掴み、自分の方を向かせて顔を覗き込む。ズギダのむさ苦しい髭面を近づけられたフゥイジンは、眉根を寄せて睨みつけた。こうして二人が並ぶと、恰幅が良く筋肉もこぶのように盛り上がっているズギダの影に、フゥイジンは丁度隠れてしまう。しかしフゥイジンは一切怯むことなく、鬱陶しそうに言い放った。
「離せ」
その一言でズギダのイラつきが一層増したように感じたが、フゥイジンは構わずに続ける。
「前にも後にもガラクタ並べられちゃ道が通れねぇから、どいてくれねぇか」
ガラクタとは、バイクとその荷物を指して言っているようだ。
ズギダが突然、堰を切ったように大きな声で笑い出す。
「さすがダグの新しいボスだぜ! 舐めた口をききやがる。一緒に態度を改めてさせてやってもいいんだぜ?」
笑ったと思ったら怒りと苛立ちを隠さずに顔を歪めて睨みつけるズギダを見て、ダグが焦って叫んだ。
「フゥイジンは関係ねぇだろ! フゥイジンもバカだな! さっさとおれを置いてどっか行っちまえばいいのに!」
すると、バイクから降りたズギダの部下がダグに近づき、頬を一発叩いた。その反動でダグは地面に尻をつく。
「黙ってろよなクソガキ」
ズギダの部下の声を頭上から浴びる。よろよろと起き上がろうとするダグの口の端からは血が出ていた。
「おい、ダグも直接俺が仕置きしてやるんだ、あんまりやり過ぎて気絶させんじゃねぇぞ」
ズギダはそう部下に言ったあと、フゥイジンに向き直る。
「おいお前、地面に這いつくばって謝ったら許してやるぜ?」
その言葉に、更に眉間のシワを深く寄せながら、低い声で言う。
「どけって言ったのが聞こえなかったのか? てめぇは頭まで筋肉か」
イラつきと怒りにより、ズギダの額に今にも切れてしまいそうな血管が浮き出た。
「てめぇ! 殺されてぇらしいな!」
怒りの山が噴火したかのように、ズギダがフゥイジンに殴りかかった。しかし、その拳はひらりとかわされてしまう。
ズギダは一瞬、驚いたように目を見開くが、すぐにニヤリと下卑た笑いを浮べる。
「なるほど、避ける専門らしいな。だから自信ありげに振舞ってたわけだ」
言いながら、ズギダがフゥイジンの片腕を掴んだ。
「捕まえちまえばこっちのもんだよなぁ!」
ズギダが掴んでいる手に力を入れようとするが、フゥイジンが素早くズギダの中指を握り、軽い音を立て手の甲の方に折り曲げた。驚きと痛みで腕を離すズギダ。そのズギダの手を軽く持ち、横にひねりあげる。
その時、ズギダの部下がフゥイジンに殴りかかろうと後ろから飛びかかってきた。フゥイジンがズギダの手を持ったまま真横に横に避ける。すると、拳を握り振りかぶった部下の手がズギダの顔にヒットした。鼻血を吹き出したじろぐズギダと、自分のリーダーの顔を殴ってしまい、その場でうろたえるズギダの部下。フゥイジンが先ほどから持っている手を引き寄せると、ズギダの身体が前かがみになる。そして、ごまついていた部下の頭も素早く掴み、ズギダの頭と思いきりぶつけた。ズギダも部下も呻き声を上げ、そのまま倒れる。ほか二人の部下も殴りかかるが、かわされては顔を殴られ、かわされては腹を殴られる。四人はあっという間にフゥイジンの周りで倒れ込んでしまった。
「フゥイジン、こんなに強かったのか......」
ダグはポカンと口を開け、その光景を眺めた。
すると、まだ怒りが収まらないズギダが、わなわなと震えながら身体を起こそうとした。
「てめぇ、許さねぇ......!」
「まだ何か用があるのか? いい加減めんどくせぇ」
フゥイジンがズギダに近づくと、顔を蹴り飛ばす。その勢いのまま仰向けになったズギダの腹の当たりに、血が滲んだ部分を見つける。ダグがつけたという傷らしい。フゥイジンはその傷を躊躇なく踏みつけた。ズギダは痛みで呻き声を上げる。
「まだやるんってんなら、あいつにつけられたこの虫よりちいせぇ傷を、もっと広げてやってもいいんだぜ」
体重をかけながら抉るように踏みつけるフゥイジンに、ズギダはいよいよ、参ったと声を上げた。
「弱いやつを相手にするほど暇じゃねぇんだ」
フゥイジンはズギダから足をどけ、そのまま倒れた四人を置いて歩いていった。ダグはズギダをチラリと見る。
バイクに乗っているズギダを見た時は、殺されるかもしれないと思った。しかしそのズギダは今、フゥイジンに打ち負かされてしまい、息を上げて倒れ込んでいる。ダグの心の中で熱くなっていた怒りは、今だけはもう静まっていた。これだけこっ酷くやられれば、きっともうズギダは後を追っては来ないだろう。
ダグもすぐに、フゥイジンの後を付いて行った。
歩きながら、ダグはフゥイジンの様子をちらちらと伺っていた。フゥイジンはその目線が気になり、うっとおしそうに話しかける。
「何だ、じろじろ見るんじゃねぇ」
話しかけられたのが突然だったため、ダグは驚きびくりと身体を震わした。
「あ、えっと、フゥイジン、ほんとはすげー強かったんだな」
その言葉にフゥイジンは前を向いたまま何も答えない。
フゥイジンがなぜ、体格に差のある相手にも全く物怖じせずに、あんなに軽々と叩き伏せることができたのか。その事も充分気になる事なのだが、ダグは今それ以上に心に残る不安があった。ダグはこの奇形の腕で人を傷つけたということをフゥイジンに知られてしまい、嫌悪されるのではと、内心とても心配していた。
「やっぱりフゥイジンも、おれの奇形の腕、怖いと思う?」
ダグは心の中をもやもやと漂っていた質問をフゥイジンに聞いてみた。何という答えが返ってくるのか少しだけ怖く、顔を俯かせる。
「馬鹿かお前は」
思ってもみなかった言葉が降ってきて、ダグは顔を上げてフゥイジンを見た。
「腕が刃物みてぇなだけのクソガキに何を怖がるってんだよ」
フゥイジンは呆れたように言う。
「でも、おれ、この腕でズギダを......!」
「お前があいつに何をしただろうがクソほどどうでもいいし、お前みたいなガキに傷を負わされたあいつが弱かっただけだ」
ダグが酷く思いつめていたことを、フゥイジンはまるで大したことでもないと言うように受け止め、あっという間に流してしまった。ダグは少し、心が軽くなったような気がした。フゥイジンはダグのことを奇形だと差別もしないし、人を傷つける武器だとも思わない。ダグはそれを嬉しく感じ、にひひと笑う。
「やっぱりフゥイジンは変な奴だ」
さっきまで暗い顔をしていたダグが笑いだしたので、訝しげな顔をするフゥイジン。
「お前も十分、変なガキだぜ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます