小説を書く体

 さすがにまだ毎日4時間とはいかないけれど、それでもだいぶ体が慣れてきて、小説を書く体になってきました。

 最初はあんなに大変で、泣きたくなる日もあったのに、小説を書くのが苦ではなくなってきたのです。

 そのことをあの人に伝えると、こう言われました。

「いいね。その調子だ。もっと!もっとだ!今に呼吸をするように小説が書けるようになってくる。そうなったらしめたものだ。そこまでいけば次のステップに進める。その領域まで達することができたなら」


 この時の私は、まだそんなに量が書けるほうではありませんでした。大体1日に1000文字ちょっとくらいだったでしょうか?いろいろと考えたりする時間を含めて、執筆時間は2~3時間くらい。その時間で1000文字かそこらしか書くことができませんでした。

 それとは別に、おなかもすくようになりました。頭を使うと、エネルギーを消費するのです。

 最初の何日かは、あまりの大変さに疲れ果てて食事の量も減っていたのですが。その期間を過ぎて体が小説を書くのに慣れてくると、今度は逆にお腹がすくようになってしまったのです。

「こんなに食べると体重が増えちゃうかな?」と思いながらも、前よりもたくさんご飯を食べるようになりました。


 体自体は慣れてきたとは言っても、この頃の私はまだスラスラと無意識で小説を書けるというほどでもありませんでした。

 ところどころ詰まりながら筆を進めていきました。筆っていうか、ノートパソコンを使って書いていたので“キーボードを打つ”と表現した方がいいかも?

 いずれにしても、頭の中にバ~ッとアイデアがあふれ返ってきて書き進めるみたいなことはできませんでした。考えては書き、書いては立ち止まり、また考えては書く、といった感じでした。

「こんなことでほんとうに一流の小説家になんてなれるのかな~?あの人は、あんな風に言ってくれたけど、私って才能がないんじゃないかな~?」と、よく思ったのを覚えています。

 それでも、あの人の言葉を信じて書き続けました。きっと、それがよかったんだと思います。創作の世界のことをよく知らず、ゴチャゴチャと考え過ずに書き続けたことが。考えるとしても、それは全て物語の中のできごとばかり。

「ああ、もう駄目なんだ」とか「才能がないんだ」とか「こんなことをいくら続けても無駄なんだわ」などということをあまり考え過ぎませんでした。

 時々そんな思いが心をよぎっても、風に舞い散る桜の花びらのようにすぐにどこかに飛んでいってしまいました。

 そうして、また何日かが過ぎていきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る