時間感覚

 それからも私は小説を書き続けました。

 あの人に言われた通り、毎日必ず15分でも。


 最初は、ほんとに大変でした。

 ずっと机の前に座っていて何も書けない日もありました。それでもがんばって書こうとはしました。

 どうしても書けない日には、あの人の言葉を思い出しました。

「目指すなら最初から一流を目指しなさい。一流になれるのは一流を目指したものだけだから。それができないような人は二流か三流。あるいは、それにすらなれずに一生を終える」


 こんな言葉もありました。

「一流の作家になりなさい。そうしたら、二流三流の作品はいくらでも書けるようになるから。クオリティを落とすのは簡単だけど、上げるのは至難しなんわざ。だから、二流や三流の作家になるくらいならば、一流を目指した方がいい」


 一番役に立ったのは、このセリフでした。

「小説を書くことを習慣化するんだ。どんな作業も習慣化すれば怖くはない。悪い習慣は身につきやすく、良い習慣は身につきづらい。だから、常に意識して生きなければならない。毎日小説を書き続けることを意識して習慣化していくんだ。わかったね?」

 その言葉を信じて、必死になって机にかじりつきました。


 小説を書き始めてからというもの、睡眠時間も増えました。しかも、グッスリと眠れるんです。眠れてしまうんです。

 バタンキュ~とベッドに倒れ込んだかと思ったら、もう部屋の中に朝日が差し込んでいて、8時間も9時間も寝ているのに睡眠が一瞬で終わってしまうのです。

 きっと、凄く疲れていたせいでしょう。

 そのことをあの人に相談すると、こんな言葉が返ってきました。

「それは悪いことではないよ。むしろ、いい傾向さ。人生が充実しているってことだからね。なあに、心配しなくてもすぐに慣れるさ」


 それから何日が経過したでしょうか?

 たぶん、10日くらい。

「時間が違う。生きている時間が」

 私は、そう実感しました。

「これまでと同じ24時間なのに、時間が流れていくスピードが全然違う。すごくゆっくり時が流れている気がする。時間が何倍もある気がする。1日が5日にも10日にも感じられる」

 そう思いました。

「これまでの私の人生はなんだったのだろうか?」と思うくらいに充実感を感じることができていました。

 まさに私は生まれ変わったのです!

 それまでの私は、なんのために生きているのかわからないような状態でしたが、いつの間にか“人生の目的”のようなものを手に入れていたのです。


 気がつけば、睡眠時間もそんなに長く取らなくても大丈夫になっていました。

 相変わらずバタンキュ~と倒れるとすぐに朝が訪れるような睡眠でしたが、それでも6~7時間も眠れば充分に疲れが取れました。

 どうしてもお昼に眠くなってしまうことはありましたが、そんな時は10分でも15分でもお昼寝をすれば、すぐに回復しました。


 こうして、私はそれまでの人生とは全然違う時間感覚を手に入れたのです。

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