最初の課題。毎日4時間小説を書く
あの人が一番最初に与えてくれた課題。それは、こういうものでした。
「毎日必ず4時間小説を執筆しなさい。それも日記やエッセイなどではなく“小説”を」
「4時間ですか?それも毎日?」と私が
「そうだ。毎日4時間だ。できることならば1日も欠かさず。雨の日も風の日も、精神状態や体調がいい日も悪い日も。どうしても無理なら休めばいい。でも、可能な限り休まない方がいい。特に最初の数ヶ月間は」
「大変なんですね。一流の小説家になるって」
「そうりゃあ、大変さ。でも、これがクリアーできないと先には進めない。何をするにも基本が大事」
「基本が大事。そうですよね」と、私。
「小説家にとっての基本は、小説を書く基礎体力。いわば“筆力”とでもいうべきもの。君には、まだ筆力が足りない。まずは、それを手に入れるんだ」
「はい、わかりました」
「どんなに時間がかかっても構わないから、毎日4時間コンスタントに書けるようになるんだ。最初は短時間でもいい。とにかく毎日続けること。何週間、何か月かかってもいい。毎日書くクセをつけるんだ。それだけの能力を手に入れられれば、きっと君は世界と戦える!」
あの人は、そう言ってくれましたし、その言葉は私に力を与えてくれました。いいえ、今でも力を与えてくれています。
でも、その時の私にはできませんでした。文章を書くのは苦ではなかったけれど、空想の物語となると全然違います。あの人と別れてから、お
事務的な文章とか日記とか、そういうのなら書けるんです。それなりの経験もありました。だけど、何もない所から全てを生み出す作業というのは凄く疲れるんです。
そうして、しだいに私は自分にイライラし始めました。昔からそうなんです。誰かに期待されてその通りできないと、自分で自分に腹が立っちゃうんです。
どうしても書けない日には、電話であの人に相談したりもしました。
「毎日がんばって書こうとしてるんですけど、30分でヘトヘトになっちゃうんです。それでも全然文字数が書けないし」
「最初は仕方がないよ。毎日続けていれば、じきに慣れる」と、あの人にやさしい言葉をかけてもらっても、最初は信じられませんでした。
「ほんとにそうかしら?」
「大丈夫。慣れてくれば、お皿を洗ったり洗濯したりするのと同じくらい簡単にできるようになってくる。それが過ぎれば、呼吸をするのと同じくらい無意識にできるようになってくる。とにかく習慣化することが大切なんだ」
「習慣化ですか?」
「そう、習慣化だ。最初は書ける量が少なくてもいい。4時間が無理なら、3時間でも2時間でも。それが無理そうなら1時間でも30分でも。なんだったら15分でもいい。とにかく毎日続けること。それを最優先にして」
「毎日続ける」と、私は復唱しました。
「そう、必ず毎日。1日も欠かさず」
「1日も欠かさず」
「それができるようになってきたら、徐々に執筆量を増やしていけばいい。いい?できるね?」
「はい、わかりました。続けてみます」
そうやって、私は無理やりにでも執筆を続けました。どんなに大変でも、必ず毎日。たとえ、何も書けなくても、机の前にだけは必ず座るようにして。
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