君に名前をあげる
それから、あの人はこう言いました。
「じゃあ、君に名前をあげよう」
「名前を?」と、私。
「作家としての名前だ。君は今日からリル。
「オトブキ、リル」と、私は復唱しました。
「そう。それが君の新しい名前だ」
「新しい名前、新しい人生か」と、私は感慨深くつぶやいたのを覚えています。
「最初に言っておくと、君には一流の作家になってもらう。二流でも三流でもなく一流に。可能ならば、その先のさらに先、超一流の作家に。はなから二流三流は見ていない。いいね?」
あの人の言葉に、私は「はい」と素直に返事をしました。
「では、一流の作家とは何か?それは、質の高い作品を無限に生み出せる者。それができる人は非常に数が少ない。大抵はどちらかだけ。質が高いか、たくさん生み出せるかどちらかだけ。あるいは、どちらも持ち合わせていないか。だけど、一流になるためにはどちらか一方ではダメだ。両方必要」
「両方?」
「そう、両方だ。どんなに質が高くても完成しなくては意味がない。かといって、ゴミのようなものを量産したところで三流かそれ以下。そこそこの作品を量産できてようやく二流。あるいは、スピードは遅くとも質の高いものを生み出せるようになるか」
「難しそうですね」
「難しい。でも、君ならできる。順を追って確実にステップアップしていけばね」
「じゃあ、がんばります」
「でも、それだけじゃダメだ。質の高い作品を無限に生み出せ、その上ありとあらゆるジャンルの作品を書けなければならない」
「さらに難しそうですね」
「そうだね。でも、最初から何もかもをと望んでいるわけじゃないんだ。あくまで“最終的にはそうなってもらいたい”というだけのこと。そこまでになるには何年もかかるさ」
「何年も?」
「そう、何年も」
「そんなに続けられるかな~?」
「それはわからない。もしも、続けられなかったとしたら、君はそこまでだったということになる」
「そうですか」
「いずれにしても、最初から高レベルのことをやらせても、ついてこれないだろう。だから、基礎からきっちりと積み上げていこう。どんなに時間がかかってもいい。確実に、1歩ずつ、1歩ずつ」
「はい、がんばります」
「きっと目指すべき領域に到達するには長い年月がかかるだろう。どんな天才であろうともそれは同じ。天才は最初から天才であるわけではない。資質としてはそうであったとしても、最初から一流であったわけではない。時間がかかるんだよ、どうしても。いや、むしろその才能が大きければ大きいほど、成功するまでには余計に時間がかかるともいえる。だから、すぐに成功しなくても心配しなくていい」
「気の長い話なんですね」
「そう、気の長い話さ。いい小説を書くには時間がかかるんだ。まして、いい小説を書ける作家になるには、長い長い時間がかかる」
「わかりました。私、やってみます」
「よっし、その意気だ!」
それでその日は終わり。最後にひとつ課題を与えられて。
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