「君は1000万人に1人の天才だから」

 あの人と出会ってから、つまり私が小説を書き始めてから、2週間ほどが過ぎました。

 その間に、直接会ったり電話で話したりしながら、アドバイスをもらいつつ毎日欠かさず小説を書き続けました。

 最初に言われた「毎日4時間」には届いていませんでしたが、それでも毎日1~2時間ずつ1000文字程度、コンスタントに書けるようにはなっていました。


 ある日、いつものフードコートでふたりで話をしていた時、あの人からこんな風に言われました。

「毎日4時間。それが最初の壁。その壁を突破した時、元々持っていた資質と合わせて、君は10万人に1人の天才になれる」

「10万人に1人ですか?」

「そう。もしかしたら、100万人に1人にも、1000万人に1人にもなれるかもしれない。それは、今後の成長しだい」

「それはおおげさじゃないですか?」

「決しておおげさなんかじゃないさ。ここまで見てきてわかった。君には、そのくらいの才能はある。ただし、才能と努力だけでは駄目だ。それでは10万人に1人止まり。それでも並みの作家として生きていくには充分だろうけど」

「才能と努力、他に何が必要なんですか?」と、私はたずねました。

「もし、君が100万人に1人、1000万人に1人になりたいならば、それに加えて“正しいやり方”というものが必要になってくる」

「正しいやり方?」

「そうだ。世の中には、いろいろとゴチャゴチャ言ってくる人がいる。これから君がいい小説を書けるようになればなるほど、有名になればなるほど、そういうやからの数は増えてくるだろう。でも、その多くは間違ったやり方だ」

「間違ったやり方もあるんですか?」

「あるよ、たくさんね。そして、時として正しいやり方は間違ったやり方となり、間違ったやり方は正しいやり方にもなる」

「どういうことですか?」

「時と場合によるってことさ。今の君には今の君に合ったやり方というものが存在する。未来の君には未来の君に合ったやり方がね。それは10日後には変わり、1か月後にまた変わり、3ヶ月後、半年後、1年後とまた変わっていくだろう」

「ややこしいんですね」

「ややこしいよ。そして、その時と場合に合ったやり方を間違えて選ぶと大変なことになる」

「どうなるんですか?」

「まあ、普通は二流三流になるね。一流には決してなれない。それどころか、途中で小説が書けなくなってしまう。そういう者も多い。最悪の場合、そのまま2度と筆が握れなくなる。つまり、2度と小説なんて書く気が起こらなくなるってわけさ」

「なるほど」と、私は答えました。

「君には君にふさわしいやり方というものがある。それも時と場合に応じて目まぐるしく変化していく。素直に従えるかい?その都度つど、その正しいやり方に?」

「はい。あなたが言うことならなんでも。信じて従います!」

「よっし、いい子だ」

 そう言うと、彼はニッコリと笑って続けました。

「大切なことだから、もう1度言うよ。君は天才だよ。それも、10万人に1人の天才ではない。100万人か、あるいは1000万人に1人の天才。この日本に100人か、もしかしたら10人もいないかもしれない。そして、このまま成長を続ければ1億人に1人の天才にだってなれる。途中で挫折せず、正しいやり方に従って、このまま努力を続けさえすればね」

 私はその言葉を信じています。そんな風にほめてくれた人なんて他にはいないから。ここまで私のことを信じてくれた人なんて生まれて初めてだから。

 だから私もあの人のことを信じるって決めたんです。「ちょっとくらいの苦労でへこたれたりはしない!大変なことや嫌なことがあったからって、途中で投げ出したりしない!」って。


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