32―3
「時間がない。手短に行くぞ」
背後で、ザックとヤーニが火花を散らすのを感じつつ、マティスは仲間に指示を出す。
自分で相手をするよう頼んでおいて何だが、ヤーニ相手ではさすがのザックも歯がたたないだろう。
急がないと本気で危ない状況と言えた。
「ネム、強制リンクはするな。これから〝例の〟連携でいく」
よってここは、端的に作戦を伝える。
ネムは理解が早かった。短く頷き、やる気を見せる。
明日駆も珍しく、頷くのが早かった。
「今までの訓練はヤーニとの戦いに備えたものだったんだね」
マティス達は、ここクシミに来て以降、ある修練を重ねていた。
その意味を知っている者は発案者のマティスだけであったため、明日駆達は今ようやくこれまでの修練がヤーニに対抗するためのものだと知ったのだった。
「いずれ奴らがこう仕向けるだろう事は予想が付いていたからな。急な依頼変更があった時に、何かやるはずだとな」
「ったく…… そうならそうと言ってくれよ。びびって逃げ出すと思ったのか?」
すかさず明日駆が愚痴をこぼす。
ここで反論すれば時間の無駄。マティスは無視し、二人に早速指示を出す。
指示に従い、ネムは、懐からマゼンタプレートを取り出した。
このマゼンタプレートは、以前にリリから貰った、使用回数付きのβ版。
これまでの利用回数は、ネムが残り二回、マティスが一回、そして明日駆は既に使用不可。
「この戦いはお前らが肝だ。明日駆、お前は俺のを使え」
マティスはマゼンタプレートを明日駆に渡した。
「おう、お前がそのままってのが不安だけどな。今回は信用するぜ。お前の言うこと全部な」
明日駆がマゼンタプレートを両手で挟み込む。
まばゆい光が、目を覆う。
マティスは、思わず背後に視線を逸らす。
と、見やった先…… いよいよ瀬戸際の光景があった。
ラインタグに絡まり、今まさに攻撃を受けそうな、ザックの姿だ。
「よし、まずは……」
再び端的に指示を出す。
「え! あ…… 嘘だろ、本気か?」
聞いた明日駆の反応は、ずばり驚愕。
しかし、指示には従い、それをゆっくり始めていく。
「君、もういいよ」
ヤーニが呟き、指先に光を集中させる。
と、次の瞬間、ラインタグで縛られていたザックの身が、空へと吹き飛んだ。
「見たか。天にも届く俺の思念波を」
それは、明日駆が放った〝敵意のない〟繊細な思念波だった。
「マゼンタプレートで増幅するのは、何も力だけじゃ無い。こういう技術も冴えるのさ!」
得意げな明日駆。だが、思念波を放つのはマティスが知る限りこれが始めて。
元々苦手だという明日駆にやらせたのは危険な賭けだったと、今更ながらに自省する。
「残念。でも同じ事さ。どうせ今、君たちも僕にやられるんだ」
少し苛立ちを見せ、ヤーニが睨む。
マティスは、それを受け流す。
代わりに、テレポートで隣に移動してきたザックに対し、労いを入れる。
「ザック、待たせたな。ちょいと準備に手間取ってな」
そして、礼を言われるより早く、今度はヤーニを相手取る。
「さっきの言葉…… 『本番はこれからだ』だったか。そっくりそのままお前に返す」
ヤーニから微笑が消えた。
口も動かさない。機械的にタグをテンプレートで作り上げる。
今までで一番静かだが、一番殺気を強く放つそのタグは、バイブレーションタグ。
以前、手痛い目に合った、因縁の一撃だった。
「……無駄」
ネムもタグを作り出した。
だが、いつもの手書きではない。それは、ヤーニ同様、テンプレートによるものだった。 それにより作られたタグは…
〈xm…
「無効化タグ!? バカな……」
バイブレーションタグは、発動前に打ち消された。
「あ、これはマゼンタプレートの力は関係ないよ。前から練習して出来ただけ」
テンプレートの技術だけでも驚くべきことだった。加えて、習得が困難な無効化タグまで使いこなすとは…… ネムの能力は、予想を大きく超えていた。
「見せてやろう。長年の経験と、卓越した修練が打ち出す結果というやつを。チート(ズル)を超えるオネスティ(誠実)を」
勢いをそのままに、マティスは尊大にそう言った――
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