33「雨晴れて」

33―1

 会わなくなって、幾日か。

 答えは知っていた。せいぜい数日程度だ。

 だが、これほどまで時間がもどかしく感じるのはなぜか?

 それも答えは知っている。

 後ろめたい感情があるからだ。


(はあ……)


 ため息を付くのは、ラーソ。

 腰を下ろす場所は、ワイス市街のチャットルーム。

 これまでラーソが居た場所は、サムが暮らす一軒家。

 しかし、今はここが拠点である。

 帰ってきた父親のテテと、一緒にやってきた助産師のリルアに追い出されるような形で今の生活を強いられていた。

 何も出来ない自分が辛い。

 サムの面倒を果たせない事がもどかしい。 一緒に追い出されたルシーの事も気がかりだった。

 これでは本業の占術も手に付かない。

 ズルズルと、良くない方へ流される気がした。

 ならば、気を一転。

 深呼吸の後、目を瞑る。

 意識は今、シンクロ・シティ。

 今だ気乗りしない心を引きずり、占術に関するチャンネル意識を探る。


(え、これって……)


 そんな折り、見つけた奇妙な依頼が一つ。


『北の町外れの森に、なんと荒らしが三人も! 不安なので、どなたかに浄化を希望します』


 北の町外れの森というと、サム達が居る場所である。

 そこに荒らしが三人も…… この前までは確かに居なかった。この依頼も昨日までは無かったはずだ。


(サム君……!)


 近くにそんな危険な存在が居るのでは、黙っては居られない。

 心は決まった。

 ラーソは急ぎ、サムの待つ家に向かった――






 森の中をラーソは走る。

 疲労困憊も何のその。

 未だ荒らしの気配は無い。

 あるのは、妙な胸騒ぎ。

 だが、サムの家にもうすぐ着くという時、それは起こった。

 強力な空気の歪み、そしてラグ。

 立つことすらままならないほどの不気味な気配。

 紛れもなく荒らしによるものだった。


「あれ? もしかしてお前、ラーソって奴じゃないか?」


 声がした上空を見上げると、三人の自我がある荒らしが浮かんでいた。

 しかし、それより驚くべき事は、自分の名前を知っていること。


「なら、排除対処だな!」


 様子から察するに、この荒らしは煽り屋に利用されている。

 そして、自分が来たら邪魔するよう命令されている。

 そんな指令を出す煽り屋は、当然知った仲でなければありえない。


(テテさん……?)


 自分自身、吐き気を催す考えだった。

 今すぐ確かめたい。

 だが、それを確かめるには、荒らしに囲まれたこの状況を打破しなくてはならない。

 死中に活を求める。

 強力なラグの前に、ラーソは完全に危機に陥っていた――


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