27-3
三日が経った。
荒らしを浄化し、そのオーラを確保する任を任されたマティス達は、今日も役目を果たすため、指定された場所に赴いていた。
潮風吹き荒れる海岸で、棍を構える明日駆が笑う。
棍が無意味に暴れる真横で、短刀を構え、マティスは息を整える。
「マティスよ。今日の俺はひと味違う」
「ひと味違うのは武器の方だろ」
二人の言が、潮風に乗り消えていく。
睨む先には女性の荒らし。
「来るよ」
ネムの声も加わった。
同時に、戦いが始まった。
テンプレート(指先を使わず、体全体から放つオーラでチャット文字を作る行為)による無数の文字が荒らしから溢れ出し、マティスに牙をむく。
文字化けしたチャット文字は、一つ一つが質量を持っており、迂闊に飛び出せば打撃を受ける恐れがある。
マティスはそれを腕力をもってたたき落とす。
滑空しながら、するする切り抜ける明日駆を尻目に、さらに切り落とす。
荒らしは、なかなか知恵があるようだ。高速で宙を浮遊し、なかなか捉えづらい状況を作り出す。
「明日駆、そのままの位置で手の上に、そのあと〝アレ〟出して」
観察に徹していたネムの指示が。
「マティスは前方に、めいっぱい飛んで」
「待ってました」とマティスは屈伸。大きく飛んだ。
〝アレ〟こと思念波を打ち出すのが苦手な明日駆は、渋り顔。しかし、地に足をしっかりと据え、渾身だろう一撃を空へと放つ。
「やったな」
マティスは、上空でしたり顔。
思念波を受け、先ほどまで小うるさく浮遊していた荒らしは、勢いよくこちらに飛んでくる。
「命長ければ恥多し。潔く散るんだな」
装飾されたヘマタイトを黒光りさせ、短刀で荒らしを一刀両断切り裂いた。
勢い良く荒らしは散り、消滅。
勢い勇み、マティスは砂浜に着地した。
「完璧だったな」
地上で待機していた二人に賛辞を送る。
事に、不規則に見えた荒らしの動きから、僅かに見受けられるパターンを読み取り、数秒先の展開を予想したネムの判断に喝采を送った。
「これで浄化数は昨日の数を越した訳だが…… 日に日に俺たちの力もあがってるってことか」
棍を砂浜に刺し、明日駆が得意気な声を上げた。
「でもマティス。いつまで協力するつもり?」
「とりあえず、俺たちに余裕がある内だな」
マティスは明日駆をそっちのけでネムと話
し合う。
が……
「そういえばネムよ。あの音吏とかいうじいさんには驚いたな」
遠くから、輪に加わろうと明日駆が来る。
「うん、やっぱりそうだよね。あの時の……」
明日駆の会話にネムも加わり、すっかり流れが変わった。
だが、この、いかにも音吏を以前から知っているといった口ぶりはマティスも興味があった。
それとなしに、音吏との関係を二人に聞く。
「あの時っていうのは、メリアでの話。ザック達の居場所を聞いてきた人』
ネムの返事が来る。
どうやら、二人が以前話したメリアでの生活時代、ザック達の居場所を訪ねて来た人物だという。
ザックは、ソシノという女性と共に、明日駆達と、そこで少しの間過ごしていた。それは、以前確かに聞いた昔話。
だがここに音吏が加わるとなると、ただの昔話には思えない奇妙は繋がりのようなものを感じる。
(その時の話だと、音吏にザックの居場所を教えた後、ザックが急に島を出た…… という事になるな)
「っと、出たようだぜ」
明日駆の声で、マティスは我に返り、前方を向き直す。
ついさっき荒らしを浄化した場所から、不穏な気配が放たれ始める。
次の瞬間、そこから三体の荒らしが姿を見せた。
もはや性別やおろか、人の姿さえも維持できていないその魂は、浄化した荒らしから放たれた分身体。
アバターやタルパに近い原理で現れた異端の存在である。
通常、荒らしがこのような変異を遂げることは滅多にない。
未熟な浄化師が浄化をした場合、また、特別強い力を持った荒らしの場合は再び現れることがあるが、今の変わり様はその最たるものといえる。
それを成し得るのは、この地に流れる特殊な雰囲気。
「荒らしを呼び寄せる旋律、だっけ。俺たちには聞こえない代わりに荒らしの力を向上させる効果があるって話だったよな」
分身体という変異も、その音色によるもの。
都市に集まるほぼ全ての荒らしが変異を遂げるため、浄化数は通常の三倍近くに登っていた。
当初は意気込んでいた明日駆だったが、さすがに異常とも言える呼び寄せる旋律に、不穏さを感じている様だった。
「俺は二体浄化する。お前達はそっちを頼む」
マティスは、ヘマタイトと短刀を再び光らせ、短兵急に向かった。
明日駆もまた、真新しい棍とグリーンルチルを輝かせ、勇猛果敢に踏み出した――
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