21―4

 強く降り続いた雨が止む。

 天井の思念紙をルシーと共に片付ける傍ら、ザックは向こうの会話を耳にする。

 ラーソが占術について熱心に話し、話しを聞いて熱心に答えるサム。


 ――なぜ占術師を目指すのか?

 ――占術師になれたらその能力をどう生かしたいか?


 ラーソの問いに真剣に耳を傾けるサムの姿勢は、夢追い人。子供がよくみる漠然とした夢見ではない事を物語っていた。

 ラーソもまた、一人の占術師を相手にする姿勢で接しているように思える。


「ぼくは体を直して世界中を旅して…… いろいろな人達と直接会いたい。その人達との出会いが、ぼくのせかいを広げてくれると思うから」


 サムが強い眼差しで語る中、ザックは思念紙の片付けを終えた。

 上を見れば、いつかのような星空が広がる。

 そう。そのいつかの時、サムと占術師の話をし、サムはその道を志すようになったのだ。


「……わたくしに協力出来ることがあれば何でもいたしますわ」


 ラーソが、サムの右手にあたる枝をそっと掴み、囁いた。

 途端にサムは顔を赤くし、そっぽを向いた。

 そのまま動かず押し黙る。明らかにな照れ隠しだ。

 ザックは、近づき声を掛けるが、意地になったらしいサムに変化はない。

 機嫌が悪い訳ではないため、このままでも構わない。が、なにか話題を作ってやろうとザックは思案する。


「そういうことなら……」


 背後からルシーの小言。ルシーも考えを巡らせているのか、その表情は妙に険しい。


 「そうですね。サム君、祭りの話を聞きたがってましたよ」


 上に向けた右掌に左手で作った拳をポンと置き、ルシーはようやく笑顔を見せる。

 たしかに祭りの話は喜びそうだ。しかし、なんの話がいいものか……


「近々ある祭りといえば、夜光祭…… 知ってます?」


 ルシーの問いに、ザックはすぐに頷いた。

 そして、手帳ほどのアルバルを懐から出すと、一枚の写真をルシーに見せる。


「この写真はまだ誰にも見せていないんですが、自信作です」


 夜空に輝く花のような光の写真。

 ルシーの喜声と、覗き見していたらしいサムの驚声がやって来る。


「これが夜光祭のワンシーン。夜光祭はミレマっていう場所にある、夜だけに開催する変わった祭りでね」


 ザックはサムに言いながら、ミレマで見た祭りを思い起こす。

 土屋という、その地特有の丸い建物。その中から溢れる眩い光と、夜空に咲いた輝く花。


「そういえば、そのミレマで今異変が起きてるって噂知ってます? さっきチャットルームで小そんな事を聞いたような……」


 心の中から祭りの光景を引き出していた矢先、ルシータの声が耳に入った。


「なんでも、ある歌が広まってから自殺者が絶えないとか。怖い話です」


 今日日(きょうび)、自殺という言葉を耳にしたのはいつぶりか…… 聞いたザックは奇妙な感覚を抱く。


(歌。それに村の異変、か)


 少しくぐもったその心に呼応するように、天井から覗く空には、厚い叢雲が広がっていた――

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