14「光連闇散(こうれんあんさん)」

14―1

「ざわ…… カ」


 霧深い山の中、一人の荒らしが消え入るような声を上げた。

 それを前にし、佇む男はマティス・ハーウェイ。

 右手には役目を終えた短刀が。装飾されたクオーツは、眠りにつく瞳のように、暗く沈んだ色をしていた。

 山の中、霧は一層深くなり、荒らしも遂に霧となる。

 マティスは短刀を地面に突き刺し、両手を開き天を仰ぐ。

 仲間である明日駆(あすく)とネムだけが知る、浄化を終えた際に行うものである。


 今、マティスは〝オマ〟という街に居た。

 オマは、標高の高い場所にある天空の街。 そこは、人が集まるには不条理な条件の土地である。

 だが一方で、大陸の中央にそびえる山々を越える旅人達にとって、絶好の休憩場となるため、そうした者達が多く、人口は栄えていた。


 荒らしの浄化を終えた後、マティスはこの街のチャットルームを訪れた。依頼人から報酬を貰うためである。


「さすがマティスさん。お一人でも頼りになります」


 依頼人の男は、労いつつ少し多め報酬を差し出した。

 マティスはそっけなく受け取り椅子を動かす。立つ途中、飲みかけのワイルドベリーティーに気づき、一気に飲み干した。


「あ、そういえば目的地ってどこなんですか?」


 聞かれ、酸味の残った口を開く。連れを迎えにメリアにな、と。

 マティスは、そのまま歩き、店を出る。土の道と殺風景な砂壁の家々が広がる。

 よく手入れされた土の道は、どこか閑散とした町並みには不釣り合いに思えたが、これも多くやって来る旅人を思っての事だろう。そう思う中、足は列車が来るホームに着く。

 近づくタイヤの動く音。それが目の前に止まった時、マティスは、人の少ない最後尾を目指し乗り込んだ。


 最後尾は人が少なく、それゆえ列車の揺れる音だけが支配していた。

 マティスは静かな場所を好む男である。

 列車の揺れる音は、人々の労いの言葉より心地の良いものだった。

 その中に身を置いて、一人目を閉じチャネリングを始めた――

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